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その1 いざ行かん、渚へ



ひと夏の思い出ってヤツはビーチにあるんだって。

******


東京の猛暑日最多更新記録が塗り替えられ、猛烈な暑さというフレーズにも慣れてしまった今日この頃。
我が氷帝学園テニス部テニスコート場も灼熱地獄と化していた。
高温注意情報が発表され、午後からは正レギュラーのみ室内練習場でトレーニングし、ほかの部員はオフが決まっている。
ふわふわの髪をした3年生がコートわきのベンチで寝転んでいる。

「先輩、ジロー先輩、熱中症になっちゃいますよ」

完全にだらけきったジロー先輩が、

「海に行きたいなあ〜」

ジリジリ照り付ける太陽を睨みつけて言った。
めくれあがったユニフォームから顔に似合わぬたくましい腹筋がチラッチラして、まぶしいったらありゃしない。

「行きましょう」

何時に集合にします?と、私は先輩の手を取った。
ちょうど明日から練習はオフですし。
先輩の熱い素肌が拝見できるなら、安積沙穂、どこへだってお付き合いいたします。
何時にご自宅にお迎えにあがればいいですか?
白い砂浜、青い海、ジロー先輩。
私の新しい一眼レフ(通称:リチャード)で先輩の夏の思い出を一冊の写真集にして差し上げます。
そのピチピチの肌を弾く海水、そのフワフワの髪を濡らす海水、

「ああ」

私は夏の空を仰いで目を閉じた。
地球の70%を占める海水に嫉妬さえ覚える。
ジロー先輩の、その可愛い笑顔に触れることができる海水が妬ましい…!!
うらやましくってたまらない…!

「地球のバカヤロー!!!」
「そんなにイヤなら地球から出て行けよ」

シューズの靴紐を固く結んで、日吉が言い放った。

「宇宙に美しい男の子はいないでしょ」
「いたら行くのか?」
「行く」

発射直前のスペースシャトルをジャックしてでも。
太陽系以外の美少年ってのを拝めるのならば、私は宇宙へだって行く。
日吉はため息をつくと、ラケットを手にとる。

「忍足さん、芥川さんと安積が二人連れだって海に行くそうですよ」

一番奥のコートから忍足先輩が猛ダッシュでやって来た。
普段あんなに”しっとり”してるのに、時々驚くほど動きが機敏なときがある。

「ジローが女子マネージャーと二人っきりで海に行くやと〜〜〜〜!!??」

忍足先輩は”女子マネージャー”という響きに夢見がちなところがある。

「ホンマかっ!?ジロー!!って寝るな〜!」

寝てしまったジロー先輩の胸倉を掴んでガクガク揺らす忍足先輩。
起きる気配がないと察し手を止める。

「こうなったら俺も行くで」
「え」
「ジローに抜け駆けされてたまるか!」

やった〜!私は飛び上がった。
忍足先輩写真集も作っちゃお!A4フルカラー48ページ印刷しちゃうぞ!
日吉はまたため息をつき、私たちの背後へ視線を移した。

「この三人を海に放っていいんですか?跡部さん」

振り返るとそこには、腕組みをした氷点下の瞳の跡部部長。

「犯罪者予備軍を海に放っていいわけねェだろうが、アーン?」

私たちをにらんでいた跡部だったが、照りつける太陽を見上げた。

「そんなに海に行きたいのか?」
「え?」
「俺様が連れて行ってやってもいいぜ」

口の端っこに笑みをくっつけ、その場にいた正レギュラーをぐるり見渡す。

「どうせ、お前ら明日からのオフ暇だろ?」
「それって…」
「うちのリゾートホテルに招待してやるって言ってるんだ」



「はいはいはいはい!行く!行く!行きたい!」

勢いよく挙手をする。
みんなと海に行きたいよ〜!
みんなの熱い素肌を拝見したいですぅ〜!

「ああん、跡部様!連れってって〜!」

私は跡部にゴロゴロ擦寄る。
えへへ、跡部って細そうに見えて意外とたくましい腕なんですね!
いや〜、ぜひこの腕をキラキラ光る砂浜で拝んでみたいですなぁ!
私の態度に跡部様はまんざらでもないご様子。

「そんなに連れて行ってほしいか?」
「連れてって〜!行きたい!行きたいのォ!」
「仕方ねェな」

フン、と笑った跡部を忍足先輩はチラリと見て

「何が”連れて行ったる”やねん」
「アーン?言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
「別に」

忍足先輩は私に笑顔を向けた。

「沙穂の水着姿拝めるなら、どこでも行くで俺は」
「やった〜〜〜!」
「いいな、いいな!俺も行くぜ!」

岳人先輩がピョンピョン跳ねるように近づいてきた。

「行きましょう行きましょう!」

共に青春の渚へと!手に手を取り合って!
飛び上がって喜ぶ私の耳に、硬派なあの先輩の声。

「俺は行かないぜ」
「宍戸先輩」

先輩は壁打ちをしながら続ける。

「お前らと違ってオフは予定がびっしりなんだよ」
「え〜!」
「チャラチャラ海なんか行ってる場合じゃないんだ」
「ちなみにその予定ってなんなん?」

忍足先輩が訊くと、宍戸先輩は手を止めて”う”と声を詰まらせた。

「宿題とか…犬の散歩とか…」

こうなったら、女子マネージャーの行動は一つである。

「ワンワン!」
(行きましょう!)
「ワンワンワワン!」
(先輩!海へ行きましょう!)
「ワワワワンワワワン!」
(私でよければ散歩に付き合いますよ!)

犬に成り下がり、媚びへつらう私を仲間たちが寒い目で見ている。
イケメンと海に行くためなら、ためらうことなく人間としてのプライドは捨てる。
目的のためなら手段は選ばんのです。

「ワワワン(宍戸先輩)…」

無類の犬好きの宍戸先輩へは、このねだり方が有効なのだと実証済みなのである。

「わかった、付き合うぜ」

粘り勝ちである。ネバーギブアップで宍戸先輩を勝ち取った。
いやっほ〜い!小躍りしながら、先輩達の周りをグルグル回った。
見てください!体全部使って喜びを表現!
宍戸先輩が来るってことは、鳳君ももれなく付いてくるだろう、あとは

「行かないぞ」

この日吉若くんだけである。
日吉には直接”一緒に行こう”って言っても無駄である。
ツンデレだからね。
外堀から埋めていくのが定石。

「跡部様」
「何だ」
「跡部様の所有されているホテルにテニスコートは?」
「ああ……」

跡部は、私が何を言いたいのか察したようで。

「コートなら4面あるぜ」

日吉を誘い出す。

「特別に俺様が手合わせしてやってもいいぜ、日吉」

跡部と日吉以外のメンバーは後ろを向いた。
この後、日吉がどう言うか分かりきってて笑ってしまいそうだったから。
だって絶対こう言うもん。

「行きます」
「ぶ!くくくくくく!」
「何笑ってるんですか?」

背を向けて笑いをこらえる私たちに、日吉の声。

「いや、とにかく日吉も一緒でよかった」

この夏の思い出いっぱいみんなで作ろうね、と私が言うと、日吉はそっぽを向いた。
ツンデレだからね。


そんなわけで、
オフはラグジュアリーなリゾートビーチで過ごすことが決まったわけです。

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