コンラッドの受難[其の一]
――風になびく黒い髪が…
―――振り向いてこちらを伺っている黒い瞳が…
『…コンラッド?お〜い』
君の一つ一つの仕草に眼を奪われる。
『コンラッド〜?』
そして、彼女は…背が小さいから下からこちらを見ているアングルは心臓に悪い。
逃げるように視線を外すけど…やはり視線を戻してしまう。
今日のサクラはその長い黒い髪を高めに結んでいて、彼女が動く度に艶やかな髪もサラサラ流れるように動く。
その時見える――…白いうなじに思考が止まる。
否…思考を無理やり止めないと、善からぬ事をしでかしそうで、自分でも怖い。
そう朝からコンラッドは自分の欲望と闘っていた。
気を抜いたら、サクラの白いうなじに触れてしまいそうで……。
触れたら最後、きっと自分はそれだけでは止まらないだろう。そこに唇を寄せて、朱い印をつけたくなってしまう。
―――自制、自制、自制だ…。
呪文の様にコンラッドは心の中で呟く。
『コンラッド?様子がおかしいが…貴様、体調が悪いのか?』
――止めてくれっ!
黒い魅力的な瞳で覗かないでくれっ!
サクラは俺が体調が悪いと捉えたのかおでこに手を伸ばしてきて、思わずその手を取ってしまった。
必然的に見つめ合う二人。
――ヤバい…。
きょとんとしたサクラの顔が凶器だ。サクラの手を握ったまま視線がサクラから外れない。
『だ、大丈夫なのか?』
はっ!?
危ない…衝動のままその桜色した唇に行動を起こそうとしてしまっていた。危ない…。 頭を冷やさなければ。
頭を抱えながらサクラを視界から外す。
「あぁ…大丈夫です。 サクラ…ちょっと用事を思い出したので俺はこれで失礼します」
俺は早口でそれだけ告げて、執務室を去った。
その際に見たヨザックのニヤついた顔は忘れない。
「(後であいつは半殺しだな)」
コンラッドの受難[其の一]
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