向かうところ敵なし!
『……』
ざーざーと耳障りな音が外から聞こえる。私の最も嫌いな音。
世界から切り離されたように周りの音を消してしまうソレは、やけに大きく耳に纏わりつく。世界の騒音を消されて、静かだと思うよりも、酷くなるだろう雨音にいつも私はうんざりするのだ。
「……」
落ち着かぬ。
私から全てを奪っていく雨は嫌いで。嫌な記憶も濃くなるこの瞬間が嫌いで嫌いで堪らない。
私という存在の他にもちゃんと人はいるのだと不安になるため雨の日は特に誰かと一緒にいたいと思う。そう思ってるのだけれど、同時に人との会話も億劫に感じるという矛盾も生じる。
故に嗚呼…早く上がってくれないかと視界を閉ざすのだ。
『こんらっどー』
「……」
『あめが降って来たぞー』
忌々しい雨が降り始める前にやって来たコンラッドの部屋で。彼は剣の手入れをしていた。現在進行中である。
視線も合わず、返答もないので、むうッと頬が膨れる。
先程までは彼が奏でる砥石が錆を落とす音で、会話はなくとも心地よかったのに――…。今は、雨音が鼓膜を突き刺していた。
『こんらっどー』
「っ!」
彼の作業は、最終段階に入ってる。
最後の仕上げに丁寧に油を塗っているコンラッドに近寄って、彼の膝の上にごろんと寝転がった。
「危ないっ、ですよ」
『んー』
「離れてください」
『んー』
構って欲しくて、頭でコンラッドのお腹をぐりぐりと攻撃する。
『こんらっどー』
「はい」
『かまってー』
素直に気持ちを吐露すれば、上からくすりと笑われた。
「仕方ないですね」
雨の日は嫌い。
だが――…コンラッドが傍にいてくれたら、あの音など気にならぬから不思議。
『ふふふ』
彼が遠くに剣を置いたらしい。
お腹の辺りに顔を埋めたままじっとしてたから何処に置いたのかは知らぬが。ぽんッと頭を撫でられて、髪を梳かれる。
コンラッドは、この黒い髪が好きなのか、良くこうやって髪を触って来る。その瞬間が好き。ああ彼が好きだなー愛されてるなと思えるからだと思う。
『コンラッドがいてくれるだけで、なんでも乗り越えそうだぞ』
「?あぁ…雨、降って来ましたね」
『無敵になれそう』
「俺がいるだけで?」
『うぬ!』
大事な剣の手入れを邪魔したのだから怒ればいいのに、彼は怒らない。
こうやって無条件に甘やかされてるから、コンラッドから離れられなくなるのだ。困ったものだ。
「サクラは単純ですね。でも解ります、俺もサクラがいるだけで、どんな相手でも負ける気がしません」
『むてきだー』
「ええ向かうところ敵なしですよ」
コンラッドへの想いだけで、嫌いなものも乗り越えられる。
地球に帰って梅雨時期を迎えても――…嫌な思い出よりもコンラッドとの幸せな記憶で上書きされるから。今年は、イライラせずにすみそうだ。
向かうところ敵なし!
(だから私から離れちゃダメだからな!)
(それは俺の科白です)
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