コンラッドの弱点



とある日の朝。

眞魔国に来るようになってから、毎朝の日課となっているコンラッドとの走り込みを終えて、しっかり朝食を食べたおれは、目の前で鍛錬をしている兵士達をボケ〜っと眺めていた。

否、正確に言うと兵士達ではなくて…その兵士達を指導している自分の名付け親であるウェラー卿コンラートを見ているのだが。


「爽やかだな〜」


剣の腕もぴか一で、ハリウッドも夢じゃないような爽やかスマイルが似合う男で。あの銀の虹彩を散らした瞳で見つめられたりされたら、同じ男のおれでも照れてしまう、そんな…羨ましい容姿をしていて。


――彼に弱点なんてあるのか?

「振りが甘い」と、兵士に鋭く声を上げたコンラッドをチラッと見て、ああ…汗をかいても爽やかなヤツだな〜と、悔しさを通り越して、尊敬してしまった。


「陛下〜なにしてるんすかー?」

「ウェラー卿を見てるみたいですね。楽しいっすか?」

「ん?ヨザックと……ロッテ!」


眞魔国で陛下と言われたら、他でもないこのおれの事だ。

地球で平和に暮らしていたのに、気付いたら魔王陛下になってた渋谷有利ことおれ。そんなおれに間延びした声が二つ聞こえて、振り返るとヨザックとロッテがいた。

ロッテの名前は最近覚えた。サクラの護衛だから、おれと接点ってあんまりないからね。そうロッテはサクラの護衛の兵士だ。なのに、なんでサクラの側ではなくヨザックといるんだろう?珍しい組み合わせだ。

って言うか、コンラッドを見て楽しいかどうか尋ねて来たロッテの顔が真顔なのに気付いて……頬が引き攣った。

オリーヴといい、ロッテといい…サクラ付きの兵士はみんなサクラ馬鹿だ。サクラの悪口を言えば、陛下であるおれの命も危ういのではないかと常日頃から思ってる。

そんなサクラ馬鹿なロッテはもちろんの事、彼の妹クルミもオリーヴもサクラの婚約者であるコンラッドを眼の敵にしている。コンラッドとサクラの――…二人が想いを通わせるようになってから特に。


「あはは、は…。コンラッドって爽やかだなーって見てたんだ。さぞ、おモテになるだろうなーってね」

「確かに爽やかっすよねー」


おれの言葉に頷くヨザックに、


「そうか?俺には、あの笑みがどうも胡散臭く思える」


ロッテは眉間に皺を寄せた。


「腹黒いからだろ?女性の前じゃあ〜爽やかな笑顔だぜ?陛下の仰る通り隊長は、モテる」

「ふ〜ん。姫ボスの前で化けの皮が剥がれればいいのに」


ぼそりと呟いたロッテに、おれは頬を引き攣らせ、ヨザックは大げさに溜息を吐いて見せた。

ロッテが吐いた言葉と、ヨザックの“腹黒い”と言った言葉をスルーして、ぼんやりとコンラッドに視線を戻す。視線の先では、コンラッドが剣の指導をしていて、理想の男性像はあんな感じだろうと、おれは全貌の眼差しを送った。


「コンラッドってさ、爽やかで女性にモテるだろー。それに剣の腕は眞魔国で一番だし、弱点なんてあるのかなって思ってさ、どう思う?」

「ウェラー卿に……」

「弱点?」


何気ないユーリの質問に、ロッテとヨザックはう〜んと軽く唸った。あの男に弱点なんてあるのか?


「俺が、ウェラー卿の敵だったならば、ヤツが大切にしている者――…つまり姫ボスを狙いますね。人質として」

「いや…そういう意味じゃなくて!!弱点っていうか…欠点みたいな、」

「はぁ、欠点…俺には欠点だらけに見えますが……」


――ロッテってば、そんなにコンラッドが嫌いなの!?

話しにならないロッテの隣にいる客観的に見てくれそうなヨザックに目を向ける。


「ヨザックはどう思う?」

「え、俺ですかい?……うーん………やっぱり姫さんじゃないっすかねぇ」

「サクラ?欠点が知りたかったんだけど…まあいいや。で、なんでサクラだと思うの?確かに二人は恋人同士だけどさ」

「惚れた弱みとか、恋は盲目って言いますか…隊長は姫さんに本気ですからね〜。どんな時でも姫さんが関わっていたら取り乱すと思いますよ」

「う〜ん」


判るような、判らないような…。

おれ的には、粗探しをするようで悪いけど完璧な名付け親の欠点を見つけたかったんだ……ないのかな?弱点は、サクラって事には納得できるけどさ。


「まあ、陛下が望む欠点じゃないかもしれませんけどね〜面白いもんは見れると思いますよん」


面白い物?

こてんと小首を傾げるおれに、ヨザック否、グリ江ちゃんはバチっとウィンクをした。


「たいちょ〜!!!」


おれがいるここは回廊にあるベンチに座っていて、外にいるコンラッドと結構な距離があるのに――…ヨザックの野太い声は血盟城にえらく響く。

びっくりと肩を揺らすおれの視界の先で、コンラッドが……、多分視線は感じていただろうけど話の内容は聞こえていない筈のコンラッドが、ヨザックの声に振り返る。

コンラッドは昔、ヨザックの上司だったからか、彼の前では素を見せる。眉を寄せる名付け親の表情は、ちょっと新鮮。おれに絶対見せない表情だ。


「――ヨザ。何だ」

「姫さんが、あんたと別れたいって言ってたのを訊いてしまいましたー!!!!」


ゆっくりとこちらに歩むコンラッドに、ヨザックは爆弾を投下した。

爆弾を放たれたコンラッドは、ぴくりと立ち止まって――…普段冷静な彼にしては珍しく、手にしていた鞘に戻そうとしていた剣をカランッと手から落とした。そのリアクションに、おれは瞠目した。


「……ぇ、」

「ついさっき訊いちゃったんですッ!姫さん、あんたの腹黒い笑みが嫌いだって」

「ぇ、」

「そんで一緒に訊いていたこのロッテが、姫さんにアプローチするって言ってるんすけど……いいんすかー?」

「………は、はぁぁぁ!?ヨザッおまっ」

「………………何、」


寝耳に水なヨザックの叫んだ内容に、ロッテは素っ頓狂な声を上げた。

対してコンラッドは、愛しいサクラにフラれるかもしれない事実に思考が停止して、付け加えられたヨザックからの情報に、すうッと眼が鋭くなる。

噂の真相は、サクラ本人に尋ねるとして――…。コンラッドは、手から落としてしまった剣を拾って、ロッテを睨みあげた。


「ちょ、ウェラー卿ッ!?まさか信じたわけじゃ――…うそっ、嘘だろッ!?」

「ロッテ、頑張って生き延びろよー」

「ヨザっ!お前ッ!!!!」

「うわー…コンラッド………」


おれは絶句した。

あの爽やかな笑顔が似合う名付け親が、今、鬼の形相でツカツカと足を鳴らしてロッテに剣を向けている。

これまでだって戦闘中のコンラッドの姿を見たことあったけど……これほどまでに鬼気迫る我が護衛の姿を見るのは初めてで、追い掛けられているのはおれじゃないのに、ひやりと背筋が凍った。だらだらと汗が額を滑る。

おれが…言いだしっぺだけど……嫉妬に狂う名付け親の新たな一面から、そっと視線を逸らした。


「うわあぁぁぁぁぁー!!!!ちょ、一旦落ち着きましょ、ね?ね!」

「……」


うん、だっておれも自分の身が可愛いし、いくらコンラッドでもサクラの隊の兵士を傷つけたりしないだろうと信じて、ヨザックと共に視線を逸らして身震いした。

鬼と化したコンラッドは、逃げ惑うロッテを思う存分に追い掛け回し、ヨザックの嘘で命の危険を味わう事となったロッテは、揺れる気配に気付いたサクラの登場によって救われたのだった――…。

もちろん運悪く登場したサクラに、コンラッドの詰問が始まるのだが。それさえもユーリは素知らぬふりをした。







コンラッドの弱点?

(おい、ユーリ!!貴様、コンラッドに何を吹き込んだッ!?)
(……ぇ、ななんのこと?)
(へそを曲げたコンラッドほど厄介なものはないのだぞ!!どうしてくれる!!)
(厄介って酷いですね。サクラは俺だけを見てればいいんです。俺以外の男と話さないで)
(ユーリぃ!!!見てみろッ!こやつ、何だかヤンデレが……)
(俺以外の男を見るな、話すな!)
((ひいっ、))



[ prev next ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -