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ルキアとあの子と、流水系になる睡蓮鳥の能力は相性が良くて。

鳥を司る風系の技は、使いこなせてなかったから。だから余計に、水の技ばかり磨いていた。何より妹と可愛がっているルキアと相性がいいこの能力が嬉しかったから。


『ルキアはねあたしの親友に似てるのさ』

「それで妹のように可愛がって下さるのですか」


あたし――…かつてのあたしは、眼下のルキアにへにょりと眉を下げていた。


『迷惑だった?』

「いえ。嬉しいです」


ルキアのはにかんだ笑顔が驚異的に可愛くて。あたしの頬も自然と緩むが、継いだ音に激しく動揺。


「姉様は、いずれ本当に義姉になるのですから」


そう照れて言われても……ルキアは可愛いけど。心臓に悪い。

確かに“彼”は恋人だけれどと、唇をまごつかせ、『ルキアにあたしの弱点を教えてあげよう』と、無理やり話題を変えた。

彼は、ルキアに冷たい。

ルキアは知らない。彼女はあたしの親友の妹だ。病弱だった親友はもういないけれど。あたし経緯で、ルキアを引き取ったのは他でもない彼なのに、ルキアに対して厳しく当たる。

不器用な彼だから、接し方が分からないのだろう。その不器用な優しさはルキアには伝わらず、兄妹の距離はいっこうに縮まらない。

ルキアが勘違いしてるのは、あたしや彼の目から見ても明らかで。それでも、あたしが何とかしようと行動に移さないのは、こういうのは当人同士が気付かないと意味がないから、見守る姿勢に決めたのだ。……最期まで見届けられなかったな。


「弱点…それは…ぇ。聞いても良いのでしょうか」

『うん。ルキアだからね、大丈夫』


このやり取りをしたのは、いつの時代だっただろうか。懐古の念が胸にジワリと広がる。

過去の自分と同調してルキアと喋ってる間は、ルキアと親しかったのを思い出せた。パズルの一つのピースだけ手に入れた、そんな感覚。完成された記憶のパズルの絵柄が分からない。分からないなりに、思い出せない大事なモノはまだ沢山あるのは想像がついた。


『あたしの斬魄刀はさ、流水系だけど風も使えるんだよ』


始解しなければ、脇差サイズのソレを、慈しみながら撫でる。


「?風系?姉様が風系の技を使用しているのを見たことがないので知らなかったです」

『そうだろうね。水系に比べて、風系は苦手でね。いまだに克服してない』

「それが弱点?」

『そ。扱いきれてないから睡蓮鳥が不機嫌なのは、あたしが悪いって分かってるのだけどね。こればかりはどうにも』

「珍しいですね」


瞬く妹の様子に、こくりと小首を傾げた。

修行は怠ってない。シンクロ率を上げるために、斬魄刀との対話を毎日欠かさずしているし、自分でも思うが努力はしてる。

まあそんな感じなので、始解と卍解まで習得しているのに、水鳥だけ使ってあげられない現実に、毎日愚痴られる日々で。どうにかしたいと思ってはいても、苦手意識を乗り越えられなかった。仕方ない。

片方の力ばかりを偏って使いまくっているから――…始解して大きな技を使えば使う程、戦闘後に動けなくなるくらいの疲労度が溜まる。これがあたしの最大の弱点だ。

滅多にない事態だが、敵に囲まれた状態だった場合に、力尽きてしまえばあたしは恰好のエサ。

仮にも“隊”を預かる隊長なんだから、部下の命を預かっている責任は取らなければならないわけで。理解していても、やっぱり風系は苦手で、嫌煙していた。


「姉様はクールに見えて実は熱い御方ですから」

『負けず嫌いなのは認める。――苦手でも、弱くても、あたしは誰にも負けない。努力してるからね』


――結果、あたしが辿り着いた答えは、始解し力尽きる前に、早めに卍解し派手に技を繰り出せばいいのだ、だった。

卍解すれば、偏った方ばかりの技を使用しても、安定しているから画期的な案だ!当時はそう信じて疑ってなかった――うん。改めて反省する。安易な発想である。


『…今の話は秘密ね。これでも隊を背負ってる身だから』


案に、弱音なんて吐いてはならないと込めた。その行為は同時に、ルキアだからこそ本音を告げたのだと打ち明けたのも同然で。

嬉しく思うも、ルキアは顔を引き締めて頷いた。弱点があると知っても、自分にとって姉様は尊敬する死神だと、心の内で一人ごちる。

今一つ自信が持てなかったルキアを心配して、喋ったのも理由の一つ。弱点がない人間はいない。弱点をカバーし合う仲間や努力が必要なのだ。

全く、“彼”だって心配していたというのに。あたしが何故に彼のフォローをしなければならないのさ。



“彼”に、傷つけられ、傷心の彼女を励ますこの構図は、もう何十年も続いていた。

当たり前のように、その先も続くものだと思っていた。

幸せな未来を、いつかは三人で花見などしながら笑い合えるのだと思い描いていた。



永遠なんて戦いに身を置いているあたし達が望むものじゃないと突き付けられたのは、それから十数年後だった――…自惚れじゃなければ、彼女も彼も。あたしと同じ願いを胸に抱いていた。





「姉様。最近忙しそうですね」

『…まぁね』


――ああこれは。

少し前に、夢で覗いた記憶の一部。ルキアに彼を頼むところだ。

そう。あたしは既にこの時に、ひょっとしたらもう戻って来れないだろうと予感していた。

もしもやり直せるならば、あたしはこの数時間後に。とある場所に父上と共には向かわない。独りで向かう。なーんて。今更悔やんだところで、父上もあたしも還っては来れないというのに。ホント何を今更……こんな記憶をあたしに見せるの。


「兄様が…」

『…――が、どうしたの』

「姉様と会えなくて…寂しそうでした」


彼等は、家で会話らしい会話をしないから。

泣きそうな顔で奏でられた旋律は、的を得ていたとしても、本気では受け取れない。恋心は時として、信念の邪魔になってしまう上に、彼や彼女を不本意に危険に晒せないと過去のあたしは一考した。

八の字に下がった眉から、目線と意識を逸らして、さらりと流した。


「次はいつ家に来て下さいますか」


確かな約束を欲している。それさえもさらりと流す。


『手が離せない…仕事が立て込んでて。もういいかい?喋ってる時間すら惜しいんだけど』

「っ、すみませんでした」


突き放して、ほんの少しの罪悪感と後悔から逃げたくて、意味深な発言を放ってしまった。


『……ルキア…――を頼むな』

「――え」

『ちょっと厄介な仕事が残ってて、もう暫くはお邪魔出来そうないから』

「そんな…」

『なんて顔してんの。――別に死ぬわけじゃないんだから、そんな顔しないでよ』

「当たり前です!そんな事冗談でも言わないで下さいっ」

『ん、怒っちゃった?』

「いつ帰って来れそうなのです」

『さぁね』

「姉様っ!茶化さないで下さい!」

『ルキア。――行って来る』

「!はいっ。行ってらっしゃいませ!」


パァァァと輝く妹のくるくる変わる表情を眺め、思えばただいまと言えてないと嘆息した。

行って来ますと言ったあたしの意図をルキアは理解していたからこそ喜んでいたのだ。――行って帰ってくるから“行って来ます”帰還が叶わないのなら、行って参りますと告げるのが正しいのにね。







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