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『はっ、はぁ、っ』


――いた!!

憶えていた一護の気配を追って走ったかいがあった。

角を曲がった瞬間、前方に一護の姿が見えた。彼の側に、最近は必ず一緒にいたルキアの姿がなくて、代わりに少女が見える。

あたしは走りながら眉間に眉を寄せた。

こうして一護の気配を探って辿り着いたが、そういえばルキアの気配を探る事は出来なかった。自然と一護を脳裏に思い浮かべて追って来たけど……今、気配を辿っても、ルキアの霊圧は全く感じられない。

死神としての力を一護に奪われたからなのかもしれないが――…あたしは、微弱なルキアの気配に、なんだか心配になって胸の中にモヤモヤが広がった。


『一護ッ!』


考えてる暇はねぇんだ。ルキアが近くにいなくて、少女が一護の腕の中で震えてるのは、そういう事なんだ。きっと彼女は、…正義感が人一倍強いルキアは、死神の力がなくても一人で戦っているのだろう。

ルキアと知り合ってまだ間もないと言うのに――…あたしはそれが正解だと妙な確信があった。

ルキアは責任感が人一倍強くて、人一倍寂しがり屋で、死神としての誇りも持っている。そんな子だ。


「!っ、…カンナ……、なんでここに…」

「あの子っ、」


あたしの声に反応して振り返った一護と眼がかち合って、ルキアはどうしたと訊こうとしたのだが、一護の腕の中で具合が悪そうにしている少女が震える声を出したので、あたしと一護の視線が彼女に集まる。


「…あの子、目の前で……目の前で、お母さんが殺されてた…!!」

『!』


怯える少女に、姿が見えないルキア。

漠然と何かが起こっているのだと頭の中で急げと言ってる自分がいた。が、少女の叫んだ言葉に――…日本で過ごすようになってから、良く見るようになった夢がフラッシュバックして、硬直する。




目の前で、親が、ころされた……?




「残念だよ。君達は素晴らしいほどの力を持っているのに、私について来る――…それが、賢い選択だというのに。本当に残念だ」

「―――、」

『―――、―――!』

「何をしているのか、判っているのかっ!」

『―――、』

「カンナッ!」

『!父上ッ!!!!!!!っ、ぁっ、ぁ……、』

「彼、死ぬよ。―――――、いいのかい?」





目の前で、親が、殺された。




「…おねがいだよ、一兄…」


何ながら懇願する少女の声に、“記憶”から意識が戻る。

少女が何を言っているのか、瞬時に理解出来なくて。鈍った頭で、少女が一護の妹なのだとそれだけは理解した。


「あの子を…あの子を助けてやって……!おねがいだ…!」


名も知らぬ少女の悲痛な声を耳にして、何かを思い出しかけたあたしの心臓がドクンッドクンッと早鐘を打っていた。だが、急激に落ち着いていく。

これには、霊が――…、十中八九、あの、インコの中に入っている霊が関わっている。

ならば、あたしは何が何でも霊体の元に駆けつけて、魂葬しなければならない。一刻も早く!


「あの子を助けてやって……!」


一護の気配を探った際に、微弱だがインコの中に入っていた魂魄の霊圧も感じた。ってことは、だ。インコに憑りついていた魂魄はまだ虚になっていない。それは目の前の少女の発言からも、察せられる。まだ救えるんだ。

救えるならば、あたしが行かなくちゃいけないだろうと――…何故だか強い使命感に駆られていた。不思議とその流れに違和感を抱くことはなく、ごく自然とそれがあたしの役目だと思って。


「むこうに行けば、お母さんに会えるって、あの子に教えてやってよっ……あの子を…これ以上一人にしないで…一兄…」


カンナの眼下で、泣きながらそう兄に縋る少女を一護が優しく抱き留めていて。

兄の顔から決意を決めた顔になった一護と、自然と眼が合い、カンナもまた栗色の瞳を細めた。


「俺は、夏梨を家に連れて帰るから」

『ん。何があったの…ルキアは?』

「昨日、チャドが背中に大怪我を負ってウチに運ばれて来たんだ。朝になったら姿がなくて探してたんだが――…さっき見付けたのに逃げられた」

『……で、今に至ると?』


チャドが怪我をしたと訊き、ひやりと心臓が跳ねた。

一護に虚の仕業なのか、それからチャドは無事なのか、と、知りたいことがまだあったが…夏梨がいる手前詳しく尋ねられなかった。駆けつけて、この眼で確認すればいい。


『あたしは、ルキアを追う』

「………ああ…無茶、すんなよ」

『…ふんっ。あたしが怪我をするなんてへまをするわけないでしょ!これくらいで心配するなんて、君もまだまだだね』


今朝、起きてから病室にチャドの姿がないことに気づいて、ルキアと慌てて探していたところ……目の前に現れたのは、友ではなく妹だった。一護の妹、夏梨はあのインコの中にいる男の子の存在に影響されて、学校を抜け出し兄を探していたらしく。衰弱している妹を独りで家に帰すわけにもいかず、ルキアがチャドの後を追ったのだ。

だがルキアには力が戻っていない。それに…死神とは言えど、ルキアは女性だ。女の身で無茶をして欲しくなくて、カンナが現われる前に、ルキアにも言った科白をカンナも放った一護。だが彼の心配を余所に、カンナは不敵に口元を吊り上げてみせた。

ルキアとほぼ変わらない返事を寄越したカンナに、一護も自然と口角を上げた。

ルキアとカンナは時々、発言や仕草が似ている事がある。疑問に思ったが、そんな二人の頼もしい態度に、一護は安心したのだ。





 □■□■□■□



一護とカンナが鉢合わせたその頃――…。


“へぇ”


ルキアはカンナが心配していた虚を前にして、戦っていた。


“一発で死なねえか…中々やるじゃねえの…”


死神の力を蓄える為に、義骸という仮の肉体に入ってるルキアには、従来の素早さを出せなくて、どうやって虚を倒そうか攻撃を受けながらも思案していて。

対面する虚は、攻撃を繰り出されて、飛ばされても瞬時に手首を地面について受け身を取ったルキアを見て、愉しげな…ルキアにとって耳障りな笑い声を上げた。


“それにアンタ、俺が見えてるみたいだしよォ…一体何者――…!!!”


虚の耳障りな科白を最後まで言わせず、ルキアは巨大な顎に蹴りを入れた。

油断していた虚は、なすすべもなく痛みで背後に吹き飛び――…、ヤツが体勢を整える前にルキアは鬼道の詠唱を唱える。


「君臨者よ!血肉の仮面、万象、羽搏き、ヒトの名を冠す者よ、真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよッ!!」


死神の力の大半を一護に取られていなかったら、この義骸になんか入ってなかったら、詠唱を破棄して鬼道を放てるのに――…など、もしたらばの事を考えつつ、ルキアは虚の背後から両手を構えた。


「――破道の三十三!!蒼火墜!!」


この詠唱は、ルキアがもっとも慣れ親しんでる攻撃で、弱い虚なら一撃で倒せる。

言い終えた瞬間――…構えた自身の拳から青い爆炎が派手な音を立てて虚に向かって行った。


「!…な―……くッ」


――バカな…無傷だと…!?

倒せると思ったのにッ!土埃から出て来た虚が動く気配を感じ取って、迫る拳から距離を取る。考えるよりも、戦いに慣れている身体が先に反応した。

信じられんっと目を剥くルキアの顔が、面白いと言ってるような勘に触る笑い声が住宅地に響き渡る。と、言っても視えない一般人には、この奇妙な声すら聞こえないだろうが。


“へへ…今の術知ってるぜ…。死神の術だ…!そうだろ!?だけどアンタのは弱いな…!スカスカだ”

「……」


やはり今のままでは、満足に鬼道の威力を出せなかったか。

虚に優位な状況にも関わらず、ルキアは冷静に答えを弾き出した。と、同時に舌打ちをしたい気分になった。

死神を知ってるこの虚――…それが何を意味するのか、なんて深く考えなくとも判る。

死神の存在を知っていて、尚且つ死神の術の威力まで知っているような発言をしたこの虚は、過去同志と戦っているのだ。そして、こやつが生きているって事は、今まで対峙して来た死神がこやつに敗北したのだろう。

ルキアの正体を知っても虚の顔に恐怖の二文字は浮かんでいない。余程、自分の力に自信があると見える。


“そうか…アンタ死神だったのか…どうりでウマそうな匂いがするワケだ…、死神か…なつかしいなァ…”

「(……これは手こずるかもしれない)」


ルキアは、動きを見逃さないよう笑いを噛み締めるヤツを睨みあげた。







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