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ザシュッ




『……ぁ…、い、一護…?』


思わず目を瞑っていれば、何かが斬られた音がしたのに自身が斬られる痛みは訪れなくて、恐る恐る目を開けば――…あたしと織姫の前に背中を見せる形で一護が立っていた。


〈…黒崎…くん…〉


一護が虚の攻撃から助けてくれたのか…織姫をチラッと一瞥して、カンナは安堵の息を漏らした。


“お前も…邪魔する気か!”


「…悪ィが……それが死神の仕事なんでね…井上を殺したけりゃ…先に俺を殺すんだな!――…って…お前もって…」


虚の言葉が意味深で一護は眉をひそめた。――瞬時に部屋の中を見渡す。

一護のそう遠くない所にたつきが転がっていて…喘いでいるから、生きているんだろう。 そして…そこから右側に織姫とカンナが倒れている。


「――ん?(織姫とカンナなら後ろに……)」


虚を追い掛けて来て、部屋の中に突撃したら…ちょうど二人の危機だったから……こうやって背後に庇って……。

一護は嫌な予感がして、虚が前にいるのにも関わらず、勢いよく振り返った。


〈あ…!やっぱり!黒崎くんだ!!〉

「……おまえ……どうして俺の姿が見えて…」


死神姿の一護は云わば霊体。だから、同じ霊体にしか視えない。


「(なのに…)」


織姫は視えている。確実に視線があっている。それに――…


〈え…?えっと…?どうしてって……?〉

「カンナ…お前、その格好…」


カンナは一護と同じ黒装束を身に着けていた。それはまるで…彼女が死神化したみたいで――…。


『あたしにも…わ、かんないー…』


気が付いたら、こんな恰好だった――…と紡ごうとしたけど、あたしは痛みでその先は言えなかった。代わりに眉間の皺が増える。




カンナの腹から留めなく溢れ出る血。


――血、血。

ひたひたと滴る朱い液体に、一護は目を見開いた。


「っ!お前怪我してるじゃねぇかッ!」

『んあぁ、だが…今はっ、そ、んな事、言っ、てる…場合じゃ、ない』


そう言って部屋の隅を見たカンナにつられて、そちらを見た一護は、ああ…そうだったと茫然とした。

そこには、さっきも見た織姫の肉体とカンナの肉体が転がっていたのだから。でも…何で――…。


「な、んで…」

“決まっているだろう。そいつが魂だからだ!!”

「――!」

“残念だったな。織姫はもう―――死んだ!!”


愉しげな声が一護の背後から聞こえ、空気を切る音がした。危険を察知して振り返り、剣で受け流す。

時間を与えずに、尚も虚は爪を鋭く一護に向ける。一護は舌打ちしながら剣を構えた。


『っ!一護っ、そいつはッ!(織姫の兄貴かもしれないんだ)』


斬らずに何か方法はないのかと、虚と一護の前へ体を滑り込ませる。


「っ!っつたって!」


カンナが何を言いたいのか判った一護。二人で、問題の虚と向かいながら、会話をする。


『…知ってたの』

「ああ。ここに来る前に、俺の家に現れた時に見た」

『どうするっ』

“余裕だな”

『――!っ、ぁッ』

「カンナッ」



ドンッ


さっきあたしが斬った先がない尻尾に、一護を庇って、外へ殴り飛ばされた。

ふわりと体が浮いて壁に激突したのち――ぶつかった壁ごと、外へと落下する。織姫の家にポッカリ穴が空いた。



――ドカッ

受け身すら取れずに、コンクリートにぶつかった。


『ぐはっ』

「姉様ッ!」


視界が白く薄れそうになったけど…血が溢れ出るお腹から、背中から伝わる激痛と――…何処かから聞こえた、ルキアの切羽詰まった声に、意識が留まる。

自分では動かせなかった体が、温かい感触と共に、楽な姿勢へと動かされた。


『っ、ル、キア…?』

「姉様っ」


外で待機していたパジャマ姿のルキアは、カンナから出ている赤い液体に、目を見開いて、名前ではなく「姉様」と何度も呼びながら、死の恐怖に震えた。

震える体を叱咤しながら、カンナに鬼道を施す。赤いお腹の上に淡い光が、灯った。


『ルキア…』

「大丈夫です!今、傷を治してるので…喋らないで下さい!」

『……』


ルキアの両手から、温かいものが体に沁み渡って来る。じわじわと傷口が塞がって行くのが、自分でもわかった。


『…あ、りがと』

「っ」


伝わる熱に――ああ…あたしはまだ生きてる…、なんて痛みから頭が働く様になって、治療してくれている彼女を見たら――ルキアは…泣きそうな表情だった。



――ツキン


『…?』


泣きそうで、でもそれを懸命に堪えながら、治療をしているルキアの顔を見たら、あたしは何故かそんなルキアの顔が見たくなくて、胸に痛みが走った。

なんでだろう…。会って間もないルキアをあたしは、泣かせたくないと思う、笑っていて欲しいと思うのは。

友達に抱く想いではなく、弟のリョーマに抱く想いに似たソレ。

だけど、ソレは不快ではなくて――…ルキアを守りたいと思ってしまうこの気持ちは、くすぐったい感覚で――なんで、こんな感情が?と思うが、同時にこの感情を大事にしたいと思ってしまう。

痛みも薄れて、難なく動ける様になった右手で―――彼女の頭をポンっと撫でて、安心させるように笑みを零した。



これもまた――自身に起きた“変化”であった。





(姉様のこの恰好…)
(死神の力が戻られたのか)
(然し…未だ、姉様から霊圧が一切感じられないのは――…)


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