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ゴンッ



「…な…」


動かなくなった二人に困惑していたら……“何か”に体を飛ばされるたつき。壁に叩きつけられて右肩から血が流れた。


「なに!?何だよコレ…?なんで血が…一体なにが…おき……」


たつきは何がなんだか判らなかった。

何で二人が動かなくなったのか…、何で自分の肩から血が流れているのか…。

何が自分の身に起こっているのか判らなくて――だけど漠然と危険が迫っている事だけは判って恐ろしく感じた。全身が恐怖で震える。




「ぐっ……」


混乱の中、たつきは情報処理をしていたけど…相次ぐ体に受ける衝撃に目を見開く。――胸と腹に感じる圧迫感……。


〈…な…何……!?何がどうなってるの…!?このでっかいオバケみたいなの…なに…?〉


たつきの体に跨るように乗っかている白い仮面をつけた化け物――それを傍らで見て驚愕する織姫。


〈あたしの体……あんなところにある…あたし……一体どうなっちゃったの……?〉


自分の身に起きてる異変。

たつきの近くには織姫の体とカンナの体が転がっていて、カンナはピクリとも動かない。


――なんで…。あたしはここにいるのに……なんであそこにあたしの体があるの……!?


〈…死んだのかなあたし……頭がくらくらする…この鎖……何だろ…?すごく……苦しい…〉


自分の体を見てみれば――…胸から身に覚えのない鎖がついていて、体もすごく怠い。


〈…ち……ちぎっちゃいたい…〉


鎖を触りながら思う。あの時――ぬいぐるみを持ち上げていた時、すぐ側でカンナちゃんの声が聞こえた。

車に轢かれそうになった時も、さっきもカンナちゃんはあたしを助けてくれた。助けようとしてくれて――……カンナちゃんも死んでしまったのだろうか…。

ピクリとも動かないカンナの体を見て悲痛な表情を浮かべる。

だけど…周りを見渡しても、あたしのようにカンナちゃんが鎖がついた姿でいない。あの動かない体だけしか見えない。それなら…カンナちゃんは生きてる…?


「うあ゛…っ」

〈…!たつきちゃん…!!〉


カンナの事や自分の事を考えていた織姫は、額に脂汗をながしながら、白い化け物に押しつぶされて喘いでいるたつきを見て悲鳴を上げる。――あのままでは、たつきちゃんが危険だッ!

体が怠いとか、どうなってるんだとか、考えている場合じゃないッ!


〈た、助けなきゃ…!〉


白い化け物の手だと思われる個所に体当たりをして――…


〈えい!!〉


たつきから離れさせた。


「ぷはっ、はあっ…え゛ほっ」

〈た…たつきちゃん大丈夫!?にげて!今のうちに!〉

「はあっ、は……」

〈たつきちゃん!どうしたの!きこえないの!?〉


圧迫されていて呼吸が困難だったたつきは、急に呼吸が出来るようになって返って…むせ返る。

そんな彼女の状態も心配だったが…今は一刻を争う。なぜなら……まだ得体の知らない化け物は側にいるのだから――。たつきには早くこの家から避難して欲しい、織姫はそう願ったけれど…たつきはその場から動かない。


“…ムダだよ。織姫…”

〈――!?〉


背後から、静かに白い化け物から言葉が発せられて――……織姫は息を呑んだ。


“彼女には俺たちの声はおろか…姿を見ることもできないよ…”

〈ど、どうして…あたしの名前……知ってるの…〉

“……。…俺の声も忘れたのか……”


白い化け物から名前を呼ばれて織姫は身震いする。怖い、何であたしの名前を…。

恐怖をかんじている織姫に、目の前にいる巨大な化け物は途端纏う空気をおどろしいものへと変えた。地を這うような低い声。その身も気もよだつ声と共に――


“…悲しいなっ織姫!!”

〈――っ…〉


化け物の巨大な鋭い爪が織姫に向かって振り落とされる。

織姫は危険だと判っているのに……恐怖で体が動かなかった。――怖い、怖い、怖いっ!たつきちゃんっ、カンナちゃんっ!



目の前に迫る爪。

織姫は目を見開きながらも――次に訪れるだろう衝撃に身を竦めた。



怖い、


怖い、怖い…。


 


――だけど――…その鋭い爪は織姫には届かなかった。なぜなら、


“………邪魔する気か…!”

『……織姫はあたしの大事な友達なんでね』



迫りくる鋭利な爪と織姫との間に現れたカンナの登場によって、彼女の危機は去ったのだから――。




〈……カンナちゃん…?〉






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