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「な……」
「何?今の……音…」
ボトッ『!』
不穏な空気の中…僅かに気味の悪い何かを肌で感じた。まるで…そうあの虚に追われている時に感じる圧迫感。
――まさか…。
冷や汗が背筋にたらりと流れれば、飾ってあったクマのぬいぐるみが床に落ちた。
「ああっ!エンラクが落ちてきた!」
「なんだヌイグルミか…びっくりした…」
「大丈夫!?エンラク!!」
「ていうか円楽…?」
あのぬいぐるみはエンラクって名前なのか……ってそうじゃなくって!
部屋に不気味な音が響いたのはぬいぐるみが落ちる前だ。という事は――…音の原因である“何か”はまだこの部屋に潜んでいる。
辺りを警戒しているカンナを余所に、織姫とたつきの楽しげなだけど何処かホッとした声音の声が聞こえる。
「あああっ!!ひど〜い!なんでこんな裂けてるの〜!!」
「うおっ、スゲー布が寿命だったんじゃない?」
「そんな〜」
ヌル「…何これ……?なんか――…血……みたいな…」
ぬいぐるみの無残な姿に嘆いていた織姫だったけど――……そのぬいぐるみにヌルっとした液体がついていてその液体が彼女の手を赤く染めた。
――その瞬間……、
織姫が抱えているぬいぐるみから圧迫感が強くなった。
『っ!――織姫ッ!』
「――え?」
嫌な予感がして織姫に近寄ろうとしてけど、ぬいぐるみから突如突き出るように現れた巨大な“手”は織姫を的確に狙う。
『(間に合わないッ)』
ドンッ『――かはッ』
「ちょっ…ちょっと!何!?どうしたのっ織姫!カンナ!?」
いきなり倒れた織姫とカンナ。
「何が……」
動かなくなった二人の横で――震えるたつきの声だけが室内に響いた。
□■□■□■□
「虚は……肉親を襲う!?」
同じ時刻――夜の民家の屋根の上で一護の驚愕の声が響き渡る。
「そうだ!」
「なんでだよ!虚ってのはハラ減って魂喰うんだろ!無差別なんじゃねーのかよ!」
静かに肯定の返事をしたルキアに一護は吠える。
――数刻前――…一護の部屋を襲撃して来て逃げていった虚は…織姫の兄の顔をしていた。
“虚というのは全て元は普通の人間の魂だったもの”
困惑する一護に無情にも告げられた虚の真実。――それは…一護に大きな衝撃を与えた。
「無差別に人間や他の霊魂を襲うのは…すでに肉親を喰い殺した虚だ」
「……な……」
尚もルキアから残酷な真実が紡がれる。
「それともう一つ。虚はハラを空かして魂を喰らうのではない…苦痛から逃れるために魂を喰らうのだ」
「…」
「虚というのは“堕ちた魂”だ。 死神にソウル・ソサエティへと導かれなかった魂、とりこぼされた魂、虚から守ってもらえなかった魂、それらが堕ちこころを亡くして虚となる。そして――…」
死神姿の一護の背中に背負われている彼女は、そこで一旦言葉を止めた。
織姫の家へと――…飛ぶように走る一護の背後から重苦しい空気が流れてくる。
「虚となった魂は亡くしたこころを埋めるため…生前最も愛したものの魂を求めるのだ」
「――!」
「よく夫が死んだ数年後に後を追うように倒れる妻の話などを耳にするだろう。あれは虚となった夫に魂を喰われた妻の姿だ」
「…………」
「…昼間、井上に会ったとき、足に大きな痣があっただろう…。――あれは虚が掴んだ跡だ」
「!」
「だから私はおまえに訊いたのだ。“あいつに家族はいるのか?”と。おまえは言ったな“年のはなれた兄貴が一人”お前の言う通り、奴の肉親が、その“年のはなれた兄貴”一人ならば間違いない…。
――
狙われるのは井上だ!!」
(真実とは…)
(時として残酷である)
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