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「にゃーん」
『!』
正門でリョーマを待っていたら――…カンナの前で一匹の黒猫が鳴いた。
『君…』
あたしと目が合ったその紅い瞳をした黒猫は、主に忠誠心を示すかのように――頭を垂れた。
『――!?』
最近会ったストーカーなオッサンと一緒にいた黒猫じゃないな…。あの時の黒猫の瞳は金色だったし…と、目の前の猫を見ながらそう思った。
あたしの足元で蹲った猫を抱き上げ、紅い綺麗な二つの瞳とかちあう。
――なんだろう……あたしはこの目を知ってる?
紅い瞳を見た途端に襲われる既視感。
『なんだろう…君、あたしと会ったことある?』
「にゃーん」
『行くところがないならあたしの家に来る?』
「にゃん!」
――ついて来るらしい。あたしの言ってる事が判るんだなー。
カンナは優しく黒猫に微笑んだ。
『よしっ、君の名前は“咲夜(さくや)”にしよう。――どうだ?』
「!」
紅い瞳の黒猫――咲夜は目を丸くした。
黒い毛並みに深い夜を思わせるから“夜”を名前に入れた。不意にその二文字が脳裏に浮かんだのだけれど……気に入らなかったかな?
「にゃーん」
『お、咲夜で気に入った?』
「にゃん、にゃーん」
固まったままだった咲夜は、気に入らなかったかなーと別の名前を考え始めたカンナの腕の中で、嬉しそうに尻尾をゆらゆら動かした。
「…姉貴…なにそのネコ」
『あ、やっと来た。このネコはあたしが飼うことにした!』
「え。したって…カルピンもいるのに、母さん説得できるの?」
『ん…ま、まあ大丈夫。咲夜も来る気満々だし』
リョーマはカンナの腕の中にいる黒い猫を見つめる。
気分で生き物を飼いたいなんて言わない姉貴なのに…しかももう咲夜なんて名前を付けてるし。この猫の何処が魅力だったんだろう?リョーマはそう疑問に思った。
『あ…』
咲夜を優しく撫でていた姉貴だったが――不意に顔を上げて何かに気付いた声を上げた。
「(また…なんか視たのか?)」
姉貴のカンナは、リョーマが物心つく頃から普通の人には視えない“モノ”が視えた。
小さい頃は「あのおばちゃん何してんだ」とか「あのおとこのこ血が」とか意味深な事を口にしていたけど、現在は、表立って言わなくなった。
家族である俺達はそれを前向きに受け止めているし、拒絶したりはしてないのに。
だから、遠くを見ている姉貴を見て、今までは何かあるのかなくらいで深く追求せず流してたけど――…この前の朝の出来事を思い出して顔を顰める。姉貴の身に危険があるなら…俺だって心配くらいする。
『――っ!織姫ッ!!』
「ぇ…姉貴?」
リョーマの目には全てがスローモーションで映った。
カンナは、抱えていた黒猫をボトッと落として――…
“ギギギギギギギギギギ”いきなり車の前へと躍り出た。
「っ、姉貴ッ!」
カンナに迫る車。
「―――っ!!」
リョーマの全身に悪寒が走った。
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