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ポーン



ポーン、ポーン




近づいてきた心地よい音が耳を撫でる。

レギュラーを決める為の校内ランキング戦。その試合が行われている筈のコートが見えてきた。

どうやらこの道であってたらしい。先ほどの可愛らしい三つ編みの女の子を脳裏に思い浮かべ――…そっと笑みを零す。

何日かかけてレギュラーを決める青春学園の行事らしいこの試合トーナメントは、今日をもって終わり誰がレギュラーとなるか決まるとリョーマから聞いた。



――リョーマはどうなったかな…。


『あ、そこのメガネの人』

「はい?…他校生が何か用ですか」

『――っ!?』


コートの外で偉そうに立っているメガネをかけた男に声をかければ、あたしに気付いた男が振り返る。視線が合った途端、息を呑んだ。



「カンナ」

『――』




会った事などない筈なのに……何故かメガネのこの男の声に何かが頭の中を過ぎり――頭痛に襲われた。同時に、よく見る夢の男性と殺される女性の声が頭に響く。

目が合った途端に頭を押さえたカンナに、目の前の男が困惑してるのが空気を通して伝わる。


「どうかしましたか?」

「どうしたんだ、手塚。……その人は?」

「大石」


すぐに痛みも治まり、今一度男に視線を戻したら――…レギュラージャージに身を包んでいる卵かと目を疑いたくなるようなユニークな頭をした少年と、数人の少年がこっちに歩んで来ていた。

当然、部外者のあたしに視線が集まる。それを不快に思いながらもここに来た目的を口に出す。


『……。あー…ちょっと人を探しててね』

「人ですか。失礼ですが、空町座高校の方ですよね、探してる人とはテニス部に?」

「手塚…」


人を探していると言えばメガネの男は――手塚と呼ばれた男は冷たい空気を纏ってあたしに冷たい視線をくれた。

大石と手塚に言われていた卵頭の少年は、攻撃的になった手塚を宥めに入る。が、この大石も困惑気にあたしを見る。


『ああ、偵察ではないから、そうピリピリしないでくれないかな。越前リョーマを探してるだけなんだけど』


思わず舌打ちしそうだ。初対面では恐れられるからしないけど。


「おや、カンナじゃないか?」

「竜崎先生」

『――え、あ!すみれちゃん』

「「「すみれちゃんッ!!?」」」


あたしの周りを囲んでいた少年たちの背後から監督であるすみれちゃんが現れて、あたしは彼女に向けて笑顔を見せる。と、少年達は雷が落ちたような衝撃を受けていた。

それは…あたしとすみれちゃんが知り合いだから、そんなに驚いているのか?と、思った。

実際は監督の竜崎先生を名前でちゃん付けで呼んだあたしに驚いていたのだが。そんな事情はあたしは知らなかった。


「リョーマに会いに来たのかい」

『ん、そう。レギュラーに選ばれたのか早く知りたくてね。まぁ、あいつが負けるわけないと思うけど』


カンナのリョーマをかっている発言に、すみれちゃんは嬉しそうにだけど先輩選手が近くにいる手前――困ったように笑った。


「リョーマなら…」

「――姉貴?」

『あ、リョーマ』


背後から聞きなれた高めの声が聞こえた。


「「「姉貴〜!!?」」」


再び、生徒達に衝撃が走る。この女性はお前の姉だったのかー!


「…なんでいるの」

『結果を知りに。で、迎えに来た』

「待ってて、着替えて来るから」

『もう終わってるの?』

「うん」


そう言ってリョーマは更衣室に向かっていった。


「お前の姉ちゃん…すげぇ美人だな!なッ?」

「「う、うん」」

「……」


弟の後に金魚のフンのようについて行った、三人の男の子達の会話が聞こた。


――聞こえてるからー!


「越前の姉…」

『似てないって?』


茫然と呟いた体格のいい刈上げ頭の少年に眉を寄せる。顔は似てなくても…髪質と髪色は同じだから、すぐに姉だと気付かれるんだけど。同じ翡翠色だもの。

半ば睨むようにそいつを見れば、借り上げ頭の男――桃城は、「に、似てるッス」と焦って弁明し、


「越前カンナて……アメリカの試合を総なめにした越前カンナさんですか?」

「――!」


別の少年――メガネをかけたヤツがあたしに尋ねて来た。そして隣で目を見開く手塚。若干、見せ物状態にあたしの機嫌は急降下。


『……よく知ってるね。でもそれは昔の事だよ、子供の部だったし今は…テニスしてないからね』

「え、そうなのかい?」

『まあ…部活には入ってませんよ。少し打つくらいで』

「…もったいないねぇ」

『……。…少し気持ちが落ち着いたら本格的に復帰するけど、今はちょっとね、』


もったいないと言ってくれたすみれちゃんに言葉が詰まる。

その後、続けてすみれちゃんが言ってくれた言葉に――…あたしは目を見開いて驚いて。また言葉に詰まった。


『それは…』

「返事は今度でいいよ」


すみれちゃんの言葉がぐるぐるあたしを蝕む。曖昧に彼らに別れの挨拶だけをして、門へと向かった。






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