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ポーン



ポーン、ポーン





ボールがラケットに当たる音がする。

耳慣れた音は心地よく感じる。その音を頼りに慣れない校舎を見ながら…敷地を歩く。


『……はぁ』


――視線が痛い。


他校の制服を身に着けているあたしが珍しいのも判るけど……あからさまに見んなっつうの!

ちゃんと他校の敷地に踏み入る許可は取ってるよ。ジロジロ集まる視線に舌打ちしそうになるのを堪えて、目的の人物を探す。



――ん?


「う〜ん…うまくいかないよ〜。せっかくリョーマ君に教えてもらったのに…」

『……(リョーマって言った?あの子…)』


白とピンクのテニスウェアーを来ている三つ編みの女の子が、素振りしながらあたしの弟の名前を呟いていて…素通りしようとしていた足をふと止める。

悩みながらも力強くラケットを振っているのを見て、あたしは息を軽く吐いた。


『ヤケにならないで』

「――え」

『力みすぎ。もっと肩の力を抜いて』

「は、はい」

『そう、そのまま振り下ろしてみ』

「はい」


いきなり話しかけられて驚いた様子の女の子だったけど、あたしが教えた通りに素振りしたら思う通りにラケットが振れて顔を輝かせた。その様子にあたしも笑みを零す。


「ありがとうございますっ!」

『ふっ、まだまだってね。――男子テニス部のコートは何処?』

「え、えっと…あっち、あっちです」


リョーマと同じ口癖のカンナに女の子は、一瞬目を丸くしたけど、訊かれた質問に指で右を指した。


「いや、ちょっと待って下さいっ!間違えましたッ、あっちでした!」

『……』


礼を言って、言われた方向に体を向けたら全く真逆の方角を指された。――方向音痴なわけね。

合っているのか定かではないが…もともと左に向かっていたので、素直に頷いて今度こそ女の子とサヨナラをする。






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