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あの子に…ルキアに“姉様”と呼ばれたからだろうか――…こんな夢まで見るようになったのは。
「姉様!――、―――?」
『――』
ルキアに似た少女が一護と同じ黒い着物を着て、女性に向かって笑顔で何かを尋ねている。
あたしからは、その女性の顔も声も靄がかかっていて判らなかったけど…ああ、あの女性が例のルキアの姉さんなんだな〜と他人事のように思った。
この光景が夢だと何故か判る。でも…何であたしがこんな夢を……。いつも見る誰かが死ぬような夢じゃないのは喜ぶべきなのかね。
『……ルキア…――を頼むな』
「――え」
『―――、―――』
「そんな…」
『―――。…別に死ぬわけじゃないんだから、そんな顔しないでよ』
所々、聞こえてくる会話から察するに――…あの女性は何か危険な事をするみたいで、ルキアに何かを頼んだのか。
ルキアは不安そうな表情をしていて、目の前の姉さんの事が本当に好きなんだなと窺える。
女性はルキアのそんな表情を見て、ふっと笑い頭を撫でた。
――あ。もう目が覚めるみてぇだ…。
どんどん視界が白く靄がかかって行く中で―――あの女性と目があったような気がした。
何だか…懐かしい気がしたのは――きっと気のせい。 □■□■□■□
『――ん』
「こらっ、もう放課後だ」
『あ、っいた〜痛い!』
意識が浮上したと思えば、後頭部をポカっと軽く叩かれた。
「カンナ、あんた大丈夫なの?最近なんか…上の空だけど……この前も遅刻してたし」
「なんかあったの?」
『んーたつきに織姫か』
叩かれた後頭部を撫でながら、叩いた犯人であろうたつきと、織姫を見遣る。
周りを見れば…いつの間にかホームルームも終わったみたいで、教室はガラ〜ンとした状態で。
『……最近、なんだか夢見が悪いだけだよ』
「夢見?」
『ん…なんか知らない人が死んだり』
「ん〜、あたしは最近食パンとあずきの夢を見るよ〜」
心配してくれる二人に、このところよく見る夢について話す。夢と言っても…悪夢ではないので、話す事には躊躇わない。
『…あー』
「織姫…あんたね」
ちょっとどころか……ズレた夢を見ている織姫に、たつきは頭を抱えカンナの口元は引き攣った。織姫らしいと言えば織姫らしい。
「えへへ」
『まあ、気にしないでよ。夢は見るけどちゃんと寝れてるから』
――頭痛はその度にするけど。
内心そう思ったが、口にすることはしないで、幸せそうに笑ってる織姫を見ながら笑う。
「カンナ」
『んあ?』
「起きたのか」
「くっ、黒崎君」
二人と談笑していたら――…一護とルキアに声をかけられた。
一護とルキアとは、死神について教えてもらってからはよく一緒にいる。
一護としてはあんまり危険な事にカンナを巻き込みたくなかったみたいだけど、ルキアがカンナと一緒にいたいと言ってくれた為―――微弱ながらもあたしも死神活動に協力できる事は協力していた。
「カンナさん」
まあ…襲われてる霊をあたしが避難させるくらいで、ルキアと一護が虚と戦闘しているのを、見てるだけだけど。
一護の登場に織姫が頬を染めているのを、たつきと見守りながら――…あたしも一護に要件を言う。
『あ、今日は弟を迎えに学校まで行くから…今日は二人で帰って』
「あぁ、わかった」
「弟…?」
弟と言えば、ルキアが顔を顰めた。
『弟が一人いるんだよ、言わなかった?』
「そう、なんですか……」
『…どうかした?』
「いえ…」
何もないと笑っているルキアだったけど、実のところ…姉のように慕っているカンナに弟がいるのは少なからず嫉妬の対象になる。
弟を優先しているカンナに少し面白くないと思ってしまったルキア。
『そうか…』
「っ!」
そんなルキアに考えるよりも先にあたしは彼女の頭をポンと撫でた。
自分でも…自分よりはるかに年上のルキアを撫でるなんて、そんな事普段はしないのに。何故か自然と頭を撫でてしまった。
息を呑んで目を見開いたルキアが可笑しくて、可愛らしく思えて自分の行動に対する疑問も気にならなかった。
『じゃあ、また明日ー』
「ああ」
「またね、カンナちゃん」
「また明日ー」
そして―――教室を後にする。
懐かしむような瞳を宿したルキアを残したまま――。
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