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カンナがストーカー疑惑の喜助に出会っていた頃、カンナの高校、空座町では――…誰もが羨む巨乳な天然美少女、井上織姫は悩ましげに溜息を吐いていた。


「織姫〜また一護のことでも考えてんの?」

「あーたつきちゃん」


そんな彼女に声を掛けたのは彼女の友達である有沢たつきであった。


「あの転校生と出てってから戻って来ないな…一護のヤツ」


たつきは苛立たしげにそう言い後頭部を掻いた。


「うん…。黒崎君のこともだけど…今日カンナちゃん来ないのかな〜って」

「そう言えば…来てないな」


もうすぐ四時限目も始まると言うのに、朝から姿がないし担任にも連絡が来てないみたいで、二人はカンナに何かあったのかと心配。

翡翠色の髪に栗色の瞳をした派手な外見の彼女は、一見サボりそうに見えるが実は生真面目なので、授業をサボったりなんてしなかったのに。

朝が弱くて遅刻する事も、多々あったけど、それでも連絡はあったのに…今日は連絡がなかった。何で来てないのか…気になる。


「なんかあったのかな」

「カンナちゃん…」


二人は主がいない空席の机を、たつきは眉に皺を寄せて織姫は眉を八の字にさせて――見遣った。





 □■□■□■□





『いっーちごっ!』


あれからどう見ても異様な格好をした一護と隣の少女が気になって、二人の背後から声を掛けた。


「っ!?…なんだ…カンナか」

『なんだとは何さ』

「いや、なんでもねぇ、つーかやっぱお前には視えるか」

『?』


いきなり声を掛けられた二人は一瞬固まったが、一護が先に回復して溜息を吐いた。



――視えるってなんだ視えるって。

一護もあたしも派手な見た目の他に似ている事があって、それが実は霊が視える事だったりする。それも視える触れる喋れる霊媒体質だ。


『ん?その言い方だと…死んだの?君』


一護に言われた事を反芻して、目の前に立つ着物姿の男をまじまじと見たら……頭を軽く叩かれた。


『っ〜!』

「まだ死んでねぇよっ!」

『ん?死んでないなら視えるって……いや、それよりも…生きてるなら君、それ銃刀法違反で捕まるよ?』


叩かれた頭を撫でながら、一護を見る。ついでに大きな刀を指で差すのも忘れない。

そのカンナの指摘に一護は何とも言えない顔をした。


「あールキア、こいつには詳しく話してもいいか?こいつ霊感あるし」


そう一護が隣の少女に話しかけたので、あたしもルキアと呼ばれた少女に眼を向ける。一護と話していて、少し存在を忘れてた。ゴメンね。

ルキアは、あたしよりも小柄で黒髪が良く似合う女の子だ。同い年なのだろうか?

固まったままの彼女は、一護の質問にも眼もくれずひたすらあたしの顔を見ていて――…震えながら口を開いた。


「っ、あっ…ねぇ、さま……」

『――ん?』


信じられないくらい固まっていたルキアから出た言葉は、聞き取れなかった。とてもか細く消え入りそうな声で。


「おい、ルキア?どうしたんだ…?」


どうやら様子がおかしい彼女に一護が眉を寄せた。


「姉さま?姉さまですかッ!?」

『え…え??』


掴みかからんくらいの勢いであたしに迫って来たルキアにびっくりする。知り合いらしい一護にどういう事か助けを求める視線を向けたけど、一護もまた困惑していた。

とりあえず、この小柄な彼女を落ち着かせなければ――…と、背中を撫でてあげる。


『ちょっと、落ち着け、な?』

「っ、はっはい」


しばらく撫でてあげると、ルキアはゆっくりカンナから離れた。ルキアもまた困惑しているみたいだった。


『あー言い辛いんだけど…そんなにあたしは君の姉とやらに似てるのかな?』

「え…」

『言っておくけど、あたしには弟はいても妹はいないよ。人違いだ』

「…え…」


何を言われたか分からなかった。こんなに…こんなにも姉様に似ているのに。ルキアは言われた言葉を理解したくなかった。だけど…。


「(そうだな…だって姉様は…)」


――この世にいる筈がないのだから。

ルキアは自嘲気味にだけどどこか悲しそうに笑った。

その笑みを見てしまったあたしは、この少女を放っておけなくなってしまう。元来カンナは姉御肌だ。


『でも、友達にはなれるから…友達になってくれない?名前、越前カンナって言うんだけど、君の名前は?』


カンナはルキアに微笑みかけた。



――越前カンナ…。

ルキアは心の中でカンナの名前を復唱して、カンナを凝視した。そして…納得する。――そうか…この女性は、きっと姉様の生まれ変わり…。

普段は突き放した言い方をする姉様だけど――…ルキアに笑いかけてくれる時はそれは穏やかな笑みだった。

そのルキアが好きだった笑みを浮かべている目の前の女性を、これでもかってくらいに焼き付ける。怒った時に口調が荒くなる熱血な姉様も、ルキアは好きだった。



――嗚呼っ、


「(会いたかった…姉様……)」


貴女はきっと覚えていないでしょうけど、私は今でも覚えています。貴女の笑顔、貴女の声――。

ルキアは記憶に残っている面影よりもずっと幼くなったカンナを真っ直ぐ見つめ返し――……、



「私は、朽木ルキアと申します」



自分の名前を嬉しそうに名乗った。






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