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『あ、』
騒がしい声が聞こえて公園に目を向けると、同級生と見知らぬ少女がいた。何か二人で言い合いをしているのが遠目でも見える。
『一護じゃん』
「……黒崎一護とお知り合いですか?」
誰に言うでもなくポツりと呟いたのに、意外にも喰い付いてきた喜助にびっくりする。
『え、オッサン一護の事も知ってるの』
「まあ…それで黒崎サンに好意を寄せているとか?」
――何でそうなる…。
やっぱりこの男はあたしのストーカーなのだろうか?カンナは訝し気に喜助を見た。
『はあ?違うよ。一護は……高校に入って出来た気の合う同志みたいなものかな。アイツもあたしも髪の色が派手だから、染めてんじゃないのかって色んな人に目を付けられやすいんだよ』
入学式の出来事を思い浮かべる。
アメリカから来て右も左も分からない中、知り合った彼とは直ぐに意気投合して――それから、いろんな女友達も出来た。
一護と出会ってなければ…今では親友とも言える彼の幼馴染の有沢たつきと、その親友の井上織姫とは会えなかっただろう。彼には感謝してる。
『ん、まあー憧れてはいるかな。一護って何事にもまっすぐだしね』
「……」
――好意は持ってないけどね。
あたしは一護を一途に思っている織姫の事を応援してるし、彼に好意を寄せるなんて論外だ。
はっきり違うと言ったあたしに喜助は何処かホっとしたような複雑な表情をしていた。あたしは一護と少女に目を向けていたからそんな喜助の様子には気付かなかったけど。
『でもアイツ…何で着物で……しかも刀なんか…』
「……」
同級生で同じクラスの黒崎一護は――…黒い着物を身に着けていて、体と同じくらいの大きい刀を持っている。この現代社会では異様な光景だ。
なのに……隣に立っているカンナと同じ高校の制服を身に着けている少女は、それが当たり前だと言わんばかりに平然と一護と会話を続けていた。
二人に見入っていたら……にゃーんと鳴き声が聞こえ我に返ったカンナだったが―――…。
『あのオッサン何だったんだ…』
気付いた時には黒猫も怪しげなストーカー男も姿が消えていた。
―――あの黒猫も。
カンナはまるで白昼夢を見ていたような感覚に襲われた。
夢なのか現実だったのか――…困惑気味のカンナの肌を生ぬるい風が肌を撫で、周りの木々達もザワッと音を立てて。少し気味が悪くなりぶるりと身震いした。
□■□■□■□
「夜一サン」
自分達を探しているカンナを死角になる壁から覗きこみ――…喜助は同じように塀の上から彼女を見ている黒猫に話かけた。
「何じゃ…」
猫が話せる筈がないのに、黒猫から出たのは鳴き声ではなく人の言葉であった。
喜助は遠くにいるカンナを見ながら言葉を続ける。
「カンナサン記憶を失って生まれ変わったんスね…。喜んでいいのか悲しんでいいのか」
また会えて嬉しい筈なのに…自分の事を覚えている筈もなくて。
あの頃より少し幼い顔で、あの頃と同じ栗色の瞳を向けられて――…喜助は何とも複雑な気分だった。
「……喜んでおけ」
「そうっスね。でも…きっとアタシ達はカンナサンを巻きこんでしまいますよ?彼女、霊圧が全く感じられなかったのに…虚が視えていましたし…、――それに……」
「あやつに見つかるのも時間の問題、か…」
夜一サンと呼ばれた黒猫は空を見上げた。
夜一もまた――あの頃より幼くなったカンナの顔を思い受けべて…少し悲しくなった。
「それが彼女にとって幸せかどうかは分からないっスけどね」
「でも、あやつに見つかれば手放さんじゃろうな」
「そうっスね〜ベタ惚れでしたしね」
喜助と夜一は互いに顔を見合わせ笑った。
「どちらにしろ…カンナサンが巻き込まれなければいいんスが…」
「無理じゃろうて」
「……」
しんみりした空気が二人の間に流れ、喜助もカンナから視線を外し空を見上げた。
思うのは――カンナの幸せ。だけど、それが困難なのは喜助も夜一にも分かっていた。
(でも…何でカンナサンから霊圧が感じられないンすかね)
(…)
(自覚もなしに霊圧隠せる筈ないンすけど)
(…わからんな)
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