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麻衣を追って中に入ると……今まさに靴箱が倒れようとしていた。
――危ないっ!!
思わず近くにいた男性を安全な角度に突き飛ばす。その瞬間、頭に衝撃がっ!と思ったのち、靴箱の下敷きになった。
バタ―ンもの凄い音が響いた後、静寂が訪れる。
私はあまりの痛みに、意識が飛びそうになった。
「なっ!」
激痛の中、麻衣の驚きの声が聞こえる。男性は無事だっただろうか?
「だ、だいじょうぶですか?」
「どうした?…リン?」
「何があった?」
「はあ、それが」
「…私は大丈夫です、それより彼女が……」
どうやらあの男性は大丈夫みたいだ。後からやって来たのだろう男の子の声も聞こえる。
未だ靴箱の下敷きになっているから顔は見れないので、現状が聴覚からしか拾えない。
私が助けた?男性の声で、そこにいる皆さんは私の存在に気づいたみたいだった。
「!!わっ」
「大丈夫ですか?」
背中を圧迫していた物がなくなり、空気を吸った。
男性が靴箱をどかしてくれたのだろう、私と目線を合わして私の怪我の状態を確認している。
『っ!(これは…痛い)』
頭から血が出ているのだろう…。たらりと目に液体がかかり、片目をつむる。
――これは…今日は帰った方が賢明だろう。
「――怪我は?」
「あの、すみません! あたし、びっくりしてっ…大丈夫ですか?」
麻衣も私の様子を窺う。
『っ、大丈夫』
「立てるか? 足は?」
「本当にごめんなさい。こっちの男性に急に声をかけられたもんで、びっくりして……」
「言い訳はいい。昨日会った子だな」
「……はい」
「言い訳より病院のほうが先だ。このあたりに病院は?」
――病院っ!?
この少年、今…病院って言った?冗談じゃないっ!
「校門を出て角を曲がったすぐのところ……」
「きみも手伝ってくれ」
左側に立っていた私が助けた男性と、その隣にいる少年が私を支えて起こそうとする。
――やめて
――やめてっ、触らないでっ
『ッ!麻衣っ!!』
「え?」
男性達に大丈夫だと手で制しし、ふらりとなりながらも自力で立ち上がる。
その間もおろおろしていた麻衣に声をかけると、彼女はようやく私だと気づいた。
「…瑞希先輩?」
『う、うん、麻衣…さっきチャイムが鳴ったよ…私は大丈夫だから、行っていいよ』
そう麻衣をこの場から逃そうとそう言えば、麻衣は、「げっ! 遅刻っ!!」と寛大に叫び……瞬く間に彼女の姿が消えた。
あまりの速さに私も呆気にとられる。
「…」
「…」
『……』
「では、病院に…」
少年が私に親切で進めているが…私は病院が嫌いだ。
『いえ、大丈夫です。見た目ほどひどくありませんので…』
「だが…頭を打っている。内部はどうなっているか分からないだろう?調べた方がいい」
確かにそうである。内心舌打ちした。
『……歩けますから、自分で行けます。失礼します』
ふらふらになりながら旧校舎を出ようとする――が…ぱしっと男性に手を取られた。
『…なにか?』
「病院までついて行きます」
『……結構です。そこまであなた方にしてもらう訳にはいきません』
案に、手を放せ、そしてこれ以上私に関わるなと意味合いを込める。
――私は人間が嫌いだ。
冷めた目で男性と――…男性の身長が高すぎて目を合わせづらいので、この男性の連れらしき少年に、どうにかしろと冷めた目を向ける。
『!!』
少年の顔を初めて真正面から見た途端デジャブを感じた。
その時、
《瑞希?》
『! (ジェット!)』
背後から毎日聞いている声が聞こえ振り向く。
――ジェット!
彼は私が降した式神であり、私の家族だ。
『(ナイスなタイミング!)』
彼は今、わざわざ他人に見えるように妖力を高めて姿を現してくれている。
『あ、兄に病院まで連れて行ってもらうので結構です』
ジェットの名前は他人に言えないので、彼は外では兄をしている為、そう断りを入れ未だ掴まれている手を半ば無理やりほどいた。
「!」
『では、失礼します』
驚いている風の男性の視線を無視して、彼等に頭を下げて、この場から去る。
《血がすげぇな》
『そお? 自分では分からん』
ジェットの登場で私の頬も緩む。
『あー病院嫌いなんだけどなー』
《大人しくしとけっ》
肩を支えてもらい軽口をたたき合いながら旧校舎を後にした。
《式がいたな》
『んー? あーいたね、五つ』
あのリンと言われていた…私が庇った男性の後ろに式が控えていた。
きっとリンさんとやらが使役しているのだろう、リンさんが危なかった時騒いでいたから。
『…バレたかな? ジェットが式神だって』
《力を持っているって事はバレただろうな、けど俺が式神だとは分かってねぇだろ》
――そこまで力を持っていなかった。
『はぁー病院か〜』
まぁ、式をはなっていたから授業の心配はないけど、それだけが憂鬱だ…。
《諦めろ》
『そんな殺生な!あっ!そう言えば…あの男の子似てたね』
《あ?あぁ、お前が助けた子供か…似てたな、双子か?》
『だろうね』
ちょうど一年前の春に予知夢を見てしまい、湖に落とされた男の子を助けた。
さっきの少年と顔が瓜二つなので血縁者だろう。
あれからかなりの日数が経つと言うのに…いまだ目を覚ましてくれない。
結界術で肉体の“時”を止めているけど、ずっと結界を張ったままなのはやはり疲れる。定期的に結界を張りなおしたりしているんだけど…はやく起きて欲しい。
魂は未だ散歩中なのでしょう。人の苦労も知らずに…。
『はぁ〜』
もはや溜息しか出ない。…――今日は厄日だ。
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