1-2 [2/39]


麻衣を追って中に入ると……今まさに靴箱が倒れようとしていた。



――危ないっ!!


思わず近くにいた男性を安全な角度に突き飛ばす。その瞬間、頭に衝撃がっ!と思ったのち、靴箱の下敷きになった。



バタ―ン



もの凄い音が響いた後、静寂が訪れる。

私はあまりの痛みに、意識が飛びそうになった。



「なっ!」


激痛の中、麻衣の驚きの声が聞こえる。男性は無事だっただろうか?


「だ、だいじょうぶですか?」

「どうした?…リン?」

「何があった?」

「はあ、それが」

「…私は大丈夫です、それより彼女が……」


どうやらあの男性は大丈夫みたいだ。後からやって来たのだろう男の子の声も聞こえる。

未だ靴箱の下敷きになっているから顔は見れないので、現状が聴覚からしか拾えない。

私が助けた?男性の声で、そこにいる皆さんは私の存在に気づいたみたいだった。


「!!わっ」

「大丈夫ですか?」


背中を圧迫していた物がなくなり、空気を吸った。

男性が靴箱をどかしてくれたのだろう、私と目線を合わして私の怪我の状態を確認している。


『っ!(これは…痛い)』


頭から血が出ているのだろう…。たらりと目に液体がかかり、片目をつむる。


――これは…今日は帰った方が賢明だろう。


「――怪我は?」

「あの、すみません! あたし、びっくりしてっ…大丈夫ですか?」


麻衣も私の様子を窺う。


『っ、大丈夫』

「立てるか? 足は?」

「本当にごめんなさい。こっちの男性に急に声をかけられたもんで、びっくりして……」

「言い訳はいい。昨日会った子だな」

「……はい」

「言い訳より病院のほうが先だ。このあたりに病院は?」


――病院っ!?

この少年、今…病院って言った?冗談じゃないっ!


「校門を出て角を曲がったすぐのところ……」

「きみも手伝ってくれ」


左側に立っていた私が助けた男性と、その隣にいる少年が私を支えて起こそうとする。


――やめて

――やめてっ、触らないでっ



『ッ!麻衣っ!!』

「え?」


男性達に大丈夫だと手で制しし、ふらりとなりながらも自力で立ち上がる。

その間もおろおろしていた麻衣に声をかけると、彼女はようやく私だと気づいた。


「…瑞希先輩?」

『う、うん、麻衣…さっきチャイムが鳴ったよ…私は大丈夫だから、行っていいよ』


そう麻衣をこの場から逃そうとそう言えば、麻衣は、「げっ! 遅刻っ!!」と寛大に叫び……瞬く間に彼女の姿が消えた。

あまりの速さに私も呆気にとられる。


「…」

「…」

『……』

「では、病院に…」


少年が私に親切で進めているが…私は病院が嫌いだ。


『いえ、大丈夫です。見た目ほどひどくありませんので…』

「だが…頭を打っている。内部はどうなっているか分からないだろう?調べた方がいい」


確かにそうである。内心舌打ちした。


『……歩けますから、自分で行けます。失礼します』


ふらふらになりながら旧校舎を出ようとする――が…ぱしっと男性に手を取られた。


『…なにか?』

「病院までついて行きます」

『……結構です。そこまであなた方にしてもらう訳にはいきません』


案に、手を放せ、そしてこれ以上私に関わるなと意味合いを込める。


――私は人間が嫌いだ。

冷めた目で男性と――…男性の身長が高すぎて目を合わせづらいので、この男性の連れらしき少年に、どうにかしろと冷めた目を向ける。


『!!』


少年の顔を初めて真正面から見た途端デジャブを感じた。



その時、

《瑞希?》

『! (ジェット!)』


背後から毎日聞いている声が聞こえ振り向く。


――ジェット!

彼は私が降した式神であり、私の家族だ。


『(ナイスなタイミング!)』


彼は今、わざわざ他人に見えるように妖力を高めて姿を現してくれている。


『あ、兄に病院まで連れて行ってもらうので結構です』


ジェットの名前は他人に言えないので、彼は外では兄をしている為、そう断りを入れ未だ掴まれている手を半ば無理やりほどいた。


「!」

『では、失礼します』


驚いている風の男性の視線を無視して、彼等に頭を下げて、この場から去る。


《血がすげぇな》

『そお? 自分では分からん』


ジェットの登場で私の頬も緩む。


『あー病院嫌いなんだけどなー』

《大人しくしとけっ》


肩を支えてもらい軽口をたたき合いながら旧校舎を後にした。






《式がいたな》

『んー? あーいたね、五つ』


あのリンと言われていた…私が庇った男性の後ろに式が控えていた。

きっとリンさんとやらが使役しているのだろう、リンさんが危なかった時騒いでいたから。


『…バレたかな? ジェットが式神だって』

《力を持っているって事はバレただろうな、けど俺が式神だとは分かってねぇだろ》


――そこまで力を持っていなかった。



『はぁー病院か〜』


まぁ、式をはなっていたから授業の心配はないけど、それだけが憂鬱だ…。


《諦めろ》

『そんな殺生な!あっ!そう言えば…あの男の子似てたね』

《あ?あぁ、お前が助けた子供か…似てたな、双子か?》

『だろうね』



ちょうど一年前の春に予知夢を見てしまい、湖に落とされた男の子を助けた。

さっきの少年と顔が瓜二つなので血縁者だろう。

あれからかなりの日数が経つと言うのに…いまだ目を覚ましてくれない。

結界術で肉体の“時”を止めているけど、ずっと結界を張ったままなのはやはり疲れる。定期的に結界を張りなおしたりしているんだけど…はやく起きて欲しい。

魂は未だ散歩中なのでしょう。人の苦労も知らずに…。


『はぁ〜』


もはや溜息しか出ない。…――今日は厄日だ。







- 4 -
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -