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あからさまに、あたし達を見て顔を歪めた教師に案内されて校長室へと辿りつけば、
「とにかく、なんとかしてくれ」
挨拶や状況報告もなしに開口一番にいわれたのがソレだった。
歓迎されていない雰囲気なのは、学校側を相手にした調査は二度目な為、慣れてはいたけど。腹が立たないかと聞かれれば、あたしは腹が立つ。
ムキ〜っとしたのはあたしだけらしく、そろりと横を向いても、所長を始め先輩もぼーさんも顔色一つ変えてなかった。瑞希先輩は、愛想笑いを浮かべたまま、所長の斜め後ろに控えめに立っている。
「その為に君たちを呼んだんだ。なんとかしてくれないと困るんだよ」
投げやりに言われた後は、校長先生に付き添っていた生活指導の松山先生にあたし達の案内を頼んで。あたし達は、ものの数分で校長室から押し出された。
さも面倒ごとを押し付けられたといわんばかりの表情の松山先生。寒々しい廊下で、あたしの心も冷えていく。
校長先生は、去り際に授業の邪魔はくれぐれもするなと上から目線で言った。依頼してきといて、それはないんじゃないのって感じ。
まあ、ナルは校長先生からの依頼だからではなく、全校生徒の代表としてと頭を下げた安原修少年の訪問があったから、依頼を受けたのだ。依頼料は、学校から頂くんだけど。
順番として、校長先生の立場を立てたようだったけど。あんな態度だから、安原さんのコトがなければ、帰っていたかもしれない。……いやプライドの高いナルは知らないけど、あたしだったら帰るね。
「――お前が所長だって?」
そしてあたし達は、この松原という男に、嫌々ながら会議室へと案内される。
「お前、いくつだ」
「十七歳です」
鼻で笑われたナル。
ぐぐぐっとあたしの拳が唸る。
「高校は」
「御想像にお任せします」
「所長さんとやらじゃあ、行ってるはずないか。――お前は」
初対面の人間に、上から目線で、学歴を問うた後に皮肉を添えるなんて、ありえない。
涼しい顔で答えたナルの反応が面白くなかったのか、一つ鼻をならした男は、今度はナルの隣にいたあたしに目を付けた。――うわっ。
「十六ですけど。高校一年です」
「今日は学校はどうしたんだ。サボリか。どこの高校だ、言ってみろ」
ムッとしたけど。あたし我慢したよ。先輩に暴力沙汰は止めてねっと言われてたから。
松山先生を見上げてたあたしの視界が、白に染まる。ふわふわの亜麻色の髪も見えた。
松山先生の嫌な眼差しが、障害物となった瑞希先輩に向けられて、更にムッとした。ナルやぼーさんも、瑞希先輩を見ていて、何を言い出すのか気になってるらしい。
うんうん、暴れないでね発言をした本人だけど、先輩って常識はずれな人を前にしたら、ナルみたいに冷たい言葉で攻撃始めるんだよねー。愛らしい容姿の先輩だからこそ放たれる数々に、心にダメージを負うんだよね。
『お久しぶりです、松山先生』
「ん?お前は…」
――えっ。先輩知り合いっ?!
『生徒会関係で以前何度か御会いした事がありますよね。葉山瑞希です』
あーそっか。あたし達の学校って、他の学校と交流を持ちたがるから、それで先輩ってばこの学校にも来てたんだー。初めて知った。
『この子は』と先輩があたしを一瞥したのに気付いて、顔を上げ――松山先生とばちりと目があった。
『私の後輩です。それと私共の学校の許可は貰っていますから、安心して下さい。ご心配をおかけしました』
「(先輩…さすがです!)」
「あぁ。相変わらず、管理の甘い学校だな。弛んでる」
『貴校に比べればそう思われるのも仕方ないかもしれませんね』
眉を八の字に下げて微笑む姿は、営業用だ。あたし達には分かる。
松山の視線が一度外れ、ちょうどこちらを見ていたぼーさんと隠れて一緒に笑った。重くなっていた足も軽やかに弾む。
何かあれば、こーやって先輩はあたしを庇ってくれる。それがなんだか嬉しくて鼻が高かった。――ぼーさん!あたしの先輩すごいでしょ!
「だいたい、幽霊だなんだと大騒ぎするのは、馬鹿者のすることだ」
「(おっと…嫌味はまだ続いていたのか)」
そっか、そっか。
瑞希先輩コイツのコト知っていたから、車の中であたしとぼーさんに、あんなコト言って来たのか。確かに、先輩に言われてなかったら、嫌味の一つ返していたかもしれない。
「オカルトだがなんだか知らんが、最近の若いやつはすぐありもしないことに逃避したがるな」
――あたしの学校にこんなに嫌な教師はいないよ!
他の高校って、こんな教師ばっかりじゃないよね?!違うよね!呪いをかけて生徒の仕業にする教師もいたりしないよね?!
あたし今の学校を選んでてホント良かった。瑞希先輩に会えたし、ナルにも出会えたし!
「しかもそれにつけこむ詐欺師まがいの連中までうろつく始末だ」
『…詐欺師まがい?』
先輩らしくない先輩の声にびくついた。
ぼーさんが慌てて瑞希先輩になにか声をかけようとしてたけど――…彼よりも彼女の方が早かった。
『私達が詐欺のグループに見えるのでしたら、他を当たりますか?』
『マスコミに注目されていますからね、(力がなくても)売名行為で飛びつく輩は沢山いるんじゃないですか?』とくすくす笑う彼女の横で、ぼーさんがぶるりと身震いした。
他に依頼しなかったんですかと笑う先輩を見下ろしたそいつは、気分が良くなったのか、ぺちゃくちゃと喋り出す。
「当たり前だろ!お前らのような胡散臭い連中より先にな、有名どころには全て声をかけたんだ」
「で?断られたんですか?」
と、ぼーさんが参戦した。お〜ぼーさんの敬語は初めて聞いたかもしれない。不思議な感じ…というか違和感しかない。
松山先生は、唯一の大人なぼーさんにも、見下した目で見遣り鼻を鳴らした。むかぁ。
「ふんッ。怖気づいたんだろうよ。知ってるか?有名な一族だからと言われて校長が…山田だ、山田」
『山田、ですか』
――それって先輩の一族のコトですよねー!
あたしとぼーさんは仲良くひくっと口元を引き攣らせた。
そうしている間にも、瑞希先輩とナルは歩を進めていて。ぼーさんと顔を見合わせて、慌てて早歩き。
「知らんのか」
『はい、存じ上げません』
「所長とやらのお前も知らんのか」
どう答えるのか…ごくりと息を呑んで、不自然にならないようにナルを見た。
瑞希先輩もナルもしれっとしていて。ナルもまた、知りませんと否定を返していた。
あああそう答えたら嫌味が返ってくるって分かっててー…あああでもそうだよねっ瑞希先輩の一族のコトは触れちゃダメだもんねっ!
「はっ、あきれたもんだな。ええ〜おい?有名な一族だぞ、霊能力者ってーなら知ってて当然だろう。知らんとか」
やはり詐欺軍団だなと目が物語っていた。
お前こそ、先輩の一族について何も知らないだろうがと言いたい。瑞希先輩達一族は秘密主義者の集まりなんだからっ!
「呆れたと言えば、その山田もな偽物だな」
「えっ(ぁ…やば思わず声だしちゃった)」
「依頼を断りやがって」
「山田一族ですよね、御会いになれたんですか?あの一族は常連しか会えないって聞いた気がするのですが…」
話の流れが何故だか、山田一族への愚痴になっていて。ぼーさんが話の中へと口を割って入った。
ぼーさんが流れるように瑞希先輩を一瞥し、松山はぼーさんへとそのいかつい顔を向ける。あたしもそっと先輩を窺ったけど、表情は変わってなくて、胸を撫で下ろした。
先輩にとって、一族の話はタブーだ。
好奇心で一族について聞いたら、きっと先輩はあたしにいままでくれていた笑顔をくれなくなると確信しているほどに。
御父上が亡くなっているのも知らなかったし、誰もその件については触れてない。“明良”って男性にも触れられなくて。真砂子は聞いたのかな。
「わざわざ会いに行くわけないだろ、そんな胡散臭い輩のところになど。なにが一族だ」
『……』
「俺も、その後電話したんだが…断りやがって。お前と同じくらいの子供の声だったな」
お前、と松山が指をさしたのは、瑞希先輩で。
断られたのが余程腹が煮えくり返ったのだろう――思い出してイライラとし始めた松山先生は、瑞希先輩に怒りをぶつけるように、お前のような喋り方だったと宣った。
――それって……瑞希先輩みたいな、じゃなくて…瑞希先輩なんじゃ…。
「アイツ、救いようがありませんねなんて言いやがったんだ。偉そうに言いやがってガキが。アイツ等に解決する力なんてなかったんだろうよ」
松山と瑞希先輩を除いた皆の視線が一ヶ所に集まる。
いやホントに救いようがない…頭が。と思ったに違いない――と、三人の心の中が一致した。絶対瑞希先輩だ。
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