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真実の先にあるものは――…?


 第六話【真相解明】





「残る問題は、犯人が誰かってことだ」

「……それについては、想像がついている」


「おい、本当か?」と、病人に詰め寄ろうとした滝川さんを、ナルとの間に手を差し出して制した。

麻衣はずっと気にしている風だったのに、事件の話になった途端、滝川さんはナルの心配は頭の中から何処か彼方へ吹き飛んだらしい。

すまんと頭上から声が降って、浮かせていた腰を静かに椅子に落とした。


――あなた方は、心配でお見舞いに来たのではないのかと言いたい。

でも我慢よ…と私は毒づきそうになるのを必死で堪えた。余談だが、今日のお供はジェットだけ。皆には視えない仕様。病院だしね。


「ああ。犯人には僕が会って話をつける。今回はこれで終わったと考えてくれ」

「それは、俺たちには犯人を教えないって意味かなあ?」


ヴァイスにはそのままジーンについて貰っていて、テイルにも留守番を頼んだのでこの場にはいない。

只でさえ病院は、霊の巣なのに、元気な二人について来られたら、私の元気が吸い取られそうだったから――…ってのが本音なのだが、ヴァイスとテイルは知らない。察しのいいジェットは知ってそう。


「知る必要はないだろう。要は呪詛が終わればいいんだ。それで事件は解決したと看做して問題ない」

「それはないだろ。少なくとも俺は知る権利があるぜ。と言うより、知る義務がある。きっちり依頼を受けてるんだからな。犯人が分かったうえで、呪詛をやめたって確信が得られないと、終わりにはできないんですがね」


再びナルに詰め寄る滝川さんと、


「あたしだって同じよ。途中参加でも事件に関わったことには違いないんだから」


綾子さんを、どうどうと宥める。

ん?結局犯人って…誰なんだろう。私が怪しいと思っていたあの人なら、ナルはどうして滝川さん達に教えないの?もしかして犯人を庇ってる…とか?

人を呪って返さずに処置してあげただけで十分、犯人の心は守られてると思う。これ以上、守る必要ってある?

別に学校側に告げ口するわけでもないのだし。…あれ?報告するのかしら。黒田さんの件みたいに、除霊して解決しましたーって報告するのだとばかり思ってた。どうなんだろう。


「……ぼーさんはとにかく。あとの人間は外れてくれ」

「あたしも?」

「麻衣もだ。瑞希は…会う必要あるか?」

『それって…やっぱり?』


ナルが頷き、滝川さんは私を見て目を剥いた。


「お前さんも犯人が誰か知ってるのか」

「一体、誰ですの」

『んー私は言ってもいいと思ってるんですけど、』


ナルの意に反するなら、言えない。


「――駄目だ」

『ってことなので、上司の意向に従います』


苦笑してそう返せば、滝川さん達は納得がいかない顔をしていた。あのジョンまでもが。

まああんなに扱き使われて、手の平を返したように邪険にされたら私でも納得できないわ。けど、私はナルの部下に位置するからどうにも手助け出来ない。

真砂子に責めるように見つめられるのは、心が痛いんですけどね。ナルの馬鹿。


「ねぇナル、瑞希先輩……まさか笠井さんが犯人って言うんじゃあ…」


――どうやってあの人に犯行を認めさせるんだろう?

考え込んでいた瑞希は、麻衣の不安な声を聴き流してしまった。ちょうどその時、ナルの病室がノックされる音が室内に響き、一旦みんなは言葉を飲み込んだのだった。

ジョンも綾子さんも真砂子もナルのベッドからほど遠い窓際にある椅子に座った。

ナルに一番近い位置に私が座り、私の左横にリンさん。

結果、扉から近い場所にいた麻衣が、ナルの視線を受け、立ち上がって扉を開くと、そこにいたのは我々の疑惑の渦中にいる人達だった。


「はい。…ぁ、タカ…笠井さん……」

「入って貰ってくれ。僕が呼んだんだ」

『(ナルが?)』


わざわざ病院に?


「う、うん…あのそれと……産砂先生が……」

「産砂先生?」


ナルの声が僅かに低くなったのを敏感に耳が拾う。

産砂先生と聞いて思わず警戒してしまった私は悪くないと思う。


「あの……ごめんなさい。来ては行けなかったのかしら」


戸惑った麻衣の視線を受けたナルが渋面のままだったからか、全員歓迎ムードではなくて。

まあ来客がなければ犯人について追及していただろう事を考えると、滝川さん達が事情を解ってないのに、ナルと同じく歓迎してない風なのは納得。

あからさまではないけれど、喜んでいるようには見えない空気を感じ取ったらしい産砂先生は、高橋さんと笠井さん越しに顔をひょこりと見せた。


感情の読めない彼女の眼を見たくなくて視線をナルに戻せば、バチッと視線が絡まって。

どうする?と言われているようなその瞳に、一度滝川さんや綾子さんを見遣って、もういいんじゃないかなという意味を込めて、ナルに苦笑を送る。

皆、犯人を知りたいと言っていたし、私としては犯人を庇護するつもりはないので。

ナルがなんで二人を呼び出したのかは大体予想がつく。私にとって――そこに産砂先生が加わって一番心配なのは、滝川さん達に犯人が知られる懸念ではなく、笠井さんに知られる事だ。


「入っていただきなさい」


そう言われ、麻衣は産砂先生を含めた来訪者を病室に迎い入れた。

もともといた私達は窓際に座り、笠井さん達には扉付近に近い場所にナルを囲む形で各々座った。……人口密度が一気に高くなった。


「高橋さんと笠井さんに来ていただいたのは、訊きたいことがあったからです」


微妙な空気が流れて。高橋さんと笠井さんを呼び出したナルに自然と視線が集まったのは当然と言える。

居心地の悪い空気にも視線にも、平然と表情を変えないナルは淡々と口火を切った。


「二人は僕が陰陽師だという話を聞いた?」

「なにソレ?」

「訊いたよ」


頷いたのは、案の定笠井さんだけ。


『(…って、え?ナルが陰陽師?嘘、知らない)』

「笠井さん、それを誰かに話した?」

「…うん、恵先生に……いけなかった?」


表情には出さずに、内心絶叫している私を余所に、ナルの質問は続く。


「今回、麻衣は妙に冴えた勘を発揮してくれたんだが、そのことは?」

「話のついでに……聞いたと思う」


その質問に頷いたのは、またも笠井さんだけ。


「誰かに言った?」

「…恵先生に……」

「私が聞いてはいけなかったのかしら。でも私は他の人には言ってませんから……」

《あの女、人間か?》


表情を一つも変えずに淡々と言った産砂先生の声と、ジェットの呟きが重なった。

人間かと聞いておきながら、答えは求めてない様子のジェットは、渦中にいる人物を凝視していて。妖怪が好む瘴気を纏っているからだろうとジェットの呟きに、何故そんな事をとは思わなかった。


「…そうですか」

《つーか、この餓鬼が陰陽師?マジか》

『(おそっ。反応、遅ッ)』


瑞希もジェットも、麻衣による勘違いによって起こったのだと知らない為、大変驚いたのだった。

陰陽師ならそうだってジーンも話してくれてもいいのに、それも隠したい事の一つなのかしらと瑞希が考えていたなんて――ジーンとナルは知る由もなかった。


「ついでに一つ、確認させて下さい。先生の母校はどちらですか?」

「私の……ですか?私でしたら地元の大学を卒業しましたが……」

「御出身はたしか、福島ですね?」


「はい」と、頷く産砂先生に、私は何かが引っ掛かった。

あれ?私は何で先生が、あの学校の出身だと思っていたんだっけ?女の先生は、みんなあの学校の出身だと思って疑わなかった。違ったようだ。


「東京へは教師になってから初めて来られた?」

「ええ、そうです」


しかしナルは何故そのような質問を?

脈絡のないように聞こえる質問に、私は頭の中で大量の疑問符を飛ばしたのだった。


「それで分かりました。――ありがとうございました。これで、現在学校で起こっている問題は解決できると思います」


疑問の嵐の私を余所に、ナルが自信を持って強く言い放った為、とりあえずそれ等の疑問は一旦横に追い遣って。

ポカーンとしている滝川さん達と、戸惑った様子の笠井さんと産砂先生を見遣る。高橋さんは、嬉しそうに顔を輝かせていた。


「…あの、解決できるって…?」

「事件の様相はわかった。あれは呪詛だ。それもヒトガタを使った厭魅……ということはヒトガタを始末すれば終わりだ。後は犯人に呪詛をやめさせればいい」


笠井さんと高橋さんは、話しについて来ている様に見えて、半分も理解してない様子だった。


『呪詛とは人を呪う方法の一つよ。ヒトガタとは、呪う際に使う道具のこと』


と、簡単に説明してあげた。

高橋さんは素直に相打ちをしてくれて、笠井さんは事の展開を先まで読んだらしくぐッと眉間に皺を作った。で、キッと私とナルを睨む。


「…じゃあなに?あたしをここへ呼んだってことは、つまりあたしが犯人だって言いたいわけ!?」


憤怒した笠井さんと、


「……いや、笠井さんは犯人じゃない。――犯人は産砂先生です」


高橋さんと麻衣の顔に衝撃が走った。






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