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『ン、?っな、んで…』
「すみません。文句はあとで聞きますから」
『へ――っ!』
達しそうになり素直に波に乗ろうとした己の秘部からコンラッドの指が消えて。思わず強請ってしまった。
ギラリと雄の眼差しをしたコンラッドが一言謝罪をして。小首を傾げ疑問符を飛ばす前に、彼は行動に移したのだった。何が起こったのか――…、
「っ、キツっ」
避けるような痛みと圧迫感、遅れて感じた熱によって把握した。
扉に重心を置いて、コンラッドに両足を抱えられている…その心もとない浮遊感が怖くて、甘えるように首に縋った。途端嬉しそうに微笑まれて、キスの雨が降る。
間昼間から…その、このような展開は初めてではないけれど。明るい室内、着衣のままの私達――と客観的に思考して、恥ずかしくて仕方なかった。それもコンラッドの脈打つソレをナカで感じ、薄れて最後には脳から遥か彼方へ消えた。
『ぁあん、ぁ、っ、あ、ぁ、ぁあ、あン』
「……」
限界を突破したコンラッドの律動は、最初から激しくて。労わるように降るキスはゴメンねと言っているようだった。
普段こういった時のコンラッドは余裕綽々で私の反応を面白そうに観察して。
これでもかってくらいに甘い拷問のような快感を寄越して、いやらしく此方が恥ずかしくなる言葉の数々を頼んでもないのにくれるのだが。今のコンラッドは、荒い呼吸を整える事もせず、無言だった。
『ひっ、やっ…!あっ、んっ、ンん、っは、』
「……」
私を不安にさせぬように、目線を合わせたりしてくれていたのだと、乱暴に揺すられて気付く。
快感を解放させるだけの抽挿に、もっと触れてほしい願望が強くなる。痛みが消え、脳髄が痺れるような快感を貪欲に拾って、ナカの滑りが良くなったと彼が忍び笑った。
『だ、めっ……ぁ、ぁぁぁっ、アっ、ぁアア……ん、ぁう…は、っ、』
ガツンガツンと打ち付けられる度に背中に当たる扉もまた激しい悲鳴を上げていて。
内壁を擦る男根が膨れたのを感じ取って、襞が嬉しそうに彼の放たれるソレを今か今かと逃さない様に収縮しているのが――…己自身でも判った。恥ずかしい、でももっと。
頭がぼんやりと陶酔して、感じるのはコンラッドの熱だけで。
薄っすらと目を開けると、彼もまた終着を迎える面差しをしていて、嬉しくなって回していた腕に力を入れて、コンラッドの首筋に顔を埋めた。
すると更に容赦がない動きになり、男の色気と匂いを纏ったコンラッドにゾクリとして――…下から湧き上がっていた熱を爆発させた。続いて、ナカでドクンッと熱い体液が。
「サクラ愛してる」
浮いていた両足が床を踏みしめ、私もと答えた。
ぎゅうっと抱擁を交わし、どちらともなくキスをして。余韻に浸る――…いや、余韻に浸ろうとしていたのは己だけだったらしい。
奴はふうっと大きく息を吐き出したかと思えば、私を窓付近にある作業台に降ろして、にっこりと微笑んだのだ。この笑みの種類は……二回目を催促しているやつだ。ぬえー。
『い…やいや、今…した!シたばっかだぞ!』
「シたなんて、漆黒の姫がはしたない」
『〜〜!コンラッドに言われたくないのだがなっ!』
「えぇ、サクラのお陰で少し治まりました」
『………少し、だと?』
欲を吐き出した筈の彼の性器は天井を仰いていて、血管が浮き出て直ぐに挑めそうな……、「ね?」なんて可愛らしく小首を傾げられても。大の男のくせに。
隠れもしてない下心が、……文字通り下半身隠れてないしな……って何を考えてるのだ、己は。
力の抜けた体はまだ回復してなくて。頭を振って邪な思考を追い出した。理性的な、萎えるような話題を探す。
不意に私とコンラッドを影が包み、コンラッドと二人して窓を振り返ったら、いた。骨飛族が羽を揺らして、三人?三匹?私達に向かって手を振っているのを目撃して、血の気が引いた。
『み、みみみみみみられて?見られておった!』
「大丈夫ですって、彼等からサクラの体は見えません」
『そーいうこと申してるのではなくっ!』
やれやれと今度はコンラッドが頭を左右に振った。
『私の方がやれやれ、なのだ!』
「常々思っていましたが……」
『なんだ』
「サクラは性に対して消極的すぎます。此方では、あーチキュウでいう欧米のような感じで、性交関連はオープンですよ」
間髪入れずに嘘だと反発。
「後世に子孫を残すのは彼等だって同じ。自然の摂理です。覗いたりしませんよ、ホラ」
至極当然とばかりに窓の外を促され、骨飛族達がもういないのを確認してコンラッドに目を戻して。
そうだった、コンラッドの下半身は剥き出したったと――…なんだか彼が間抜けに思えて、己の乱れた姿を棚に上げ、笑いがこみ上げた。
「なに笑ってるんです」
『だって、ぷっ。コンラッド、ちょ、それ仕舞ってくれ』
カチンと頭にきてると知らぬ私はツボに入って声を立てて笑った……のを後悔するのは数秒後のこと。
「そんなに笑ってていいんですか?」
『――ぅ、ぬ。ぇ』
「二度目は優しくしようと思いましたが止めました。笑う余裕があるんだ、容赦はしません」
据わった瞳で見下ろされ、冷や汗が垂れる。
逃げようにも、左右にがっちりと彼の腕の檻により、後退するしか逃げる術はなく。逃亡は一瞬で終わりを告げた。
『――っ、ぁ、んッ』
宣言通りまたもいきなり挿入され、混乱の最中の己を嗤うかの如く律動は速い。
上から伸し掛かる態勢故、逃げようともがいても逃げられず、腰を掴む腕に情けなくも手を添えるだけになってしまった。容赦ない突きに喘ぎっぱなしの口端から涎がたらり。
あられもない恰好のサクラが尚も快感から逃げようとかぶりを振って腰が後退する動きを見せる。
逃げられないと頭で分かってるだろうに逃げる様子は、みっともなく映るのに、愛おしさが込み上げるから不思議だ。感じてるくせに…と、コンラートは口元に弧を描く。
『っあぁ、はぅ、ぁんぁああア』
欲望と一回吐き出した為、コンラートの理性は幾分か戻っていた。眼下で喘ぐ妻を上から押さえつけて、最奥を何度も突く。
腰を彼女の秘部に埋めながらも、あますことなく甘い痺れを感じ取り顔を歪めるサクラを眺めた。
腕の中で喘ぐサクラを見るのが好きだった。こうしてると、サクラに一番近い男はコンラートなのだと知らしめてくれているような気がするから。
サクラが欲しくて欲しくて堪らないコンラートはいつも行為を止めたくなくなってしまう。ずっと二人で溶け合っていたい。
『っあ、ぁぁん、はぁ…ン、』
荒い息遣いも、目尻に浮かぶ涙も、可愛い艶やかな鳴き声も、全てが興奮の材料。
コンラートを魅了して止まない内の一つ、口紅を付けてなくても血色のいい唇――コンラートが貪ったから、赤く男を誘うその唇からだらしなく垂れている涎。
絶え間なく喘ぐせいで、サクラの唇は開けっ放しで、唾液が垂れるのだろう。
掬って舐めれば、虚ろな黒曜石の色とかち合い、にやりと挑戦的に笑うコンラートは、ゆらゆらと狭間を行ったり来たりだったサクラをゾクリとさせた。
『ふっぁ…ぁ、』
情欲がとどめなく溢れて止まらないのは、どちらの方か。
窓辺から差し込む日光により作られた影は一つに重なり合い、熱の籠る吐息も同じリズムに重なっていた。
『こんらっど、すき』
「サクラっ」
『あンッ、あっ!ぁ、すき、すき』
「俺も好き」
お互いの名前を呼び合って、一緒に果てた。
「気持ちよかったですか?」
『ん、ぁっ、もっ…うごかすな』
「仕方ない人ですね」
――理不尽な。
とは思ったが音にしないのは、体力をコンラッドのヤツに持っていかれたから。
独特な疲労から来る睡魔、瞼が眼球とこんにちはしそう。眠そうな私にコンラッドが一つ笑って、ナカから出た。
『ン、』
抜く瞬間毎回切なく感じる。敏感になった膣が過剰に反応するから、つい力が入ってしまうのだ。
「俺もサクラを堪能できたので一先ず満足できました」
……一先ず?
まるでまだ次が待っているような言い方だな、おい。
「サクラのその顔は誰にも見せたくないので、俺の胸に埋めてて下さいね」
『……?ぁ、』
「すみません、急いで階段を駆け上がりますから……暫く我慢して」
脳も視界もぼんやりと。
乱れておった着衣を整えてくれたコンラッドが、力の抜けた私を姫様抱っこで抱えて、己に注意をしてくれたのだが。思考が追い付かなくて、半分も理解できなかった。
『ぇ、?ちょっと待、』
「漆黒の姫様専用のお風呂を堪能した後、自室でゆっくりシましょう」
『…うそ』
時間をかけて理解した時には、私は吹き抜けの回廊にいた。
辺りには人っ子一人おらず、ほっと安堵して。外に見えた太陽の位置が、最後に見た時よりも近くなっている。絶句だ。ついでに絶望した。
『この絶倫めッ!』
「ははは誉め言葉ですよ」
『くっ』
「サクラを見てたら勃起してしまうので、俺ではなくサクラのせいなのではないでしょうか」
すっ呆けるコンラッドを見上げて悔しがる。
彼をぎゃふんとさせる正論を叩きつけたいのに名案すら思い付かぬ。悔しい。
秋の風はひんやりと冷たく、火照った身体にはちょうど良かった。考えを放棄した私は、お腹を空かせた満足すらしてない狼の腕の中にて、吹き抜ける秋風に目を細めておった。
翌朝辛うじて覚えていたのは、バスルームで一戦、自室のソファで一戦、その後運ばれた先が寝室で……やっと解放されるともろ手を挙げたベットの上だ。その先は記憶がなかった。
寝室で何回コンラッドに抱き潰されたのかは覚えておらぬ。昨晩の記憶を辿って、コンラッドの絶倫さに私は戦慄したのだった。
夫婦になっても変わらぬ愛を(サクラと重なる度に新しい欲が生まれる)
(…少しは自重してくれぬか)
(エロいサクラが悪い)
(貴様の方がエロい!エロ魔族!色欲魔!)
(………言いたい事はそれだけですか?)
(ひっぃ)
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