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ハリーはその日、休日だったけど、リーマスに呼ばれていたので私服のまま彼の部屋を訪れれていた。
呼ばれたのはハリーだけったが、好奇心丸出しなロンと、心配でついて来たハーマイオニーと共に三人でその部屋に訪れたのだ。
「あのー…」
「なんだい?」
いつもよりニコニコと笑顔を浮かべているリーマス・ルーピン先生に、ハーマイオニーは訝しみながら声をかけた。
さらにニコッと笑うリーマスから、ハーマイオニーを始めロンもハリーも視線をそっと逸らして、テーブルの上にあるティーカップを見る。やはり可笑しい。数が合わない。
用意されているティーカップは全部で八つ。だけど、ここにいるのはハリー達三人とリーマスで四人だけだ。
――他に誰か呼んでるのかな?
ハリー達は顔を見合わせて、首を捻った。
「先生…僕たちの他に誰か来るのですか?」
勇気を振り絞って尋ねたハリーに続いて、隣でロンも勢いよく、ぶんぶん首を縦に振っている。
その質問にリーマスは笑みを深めた。
「そのうち分かるよ。さ、座って座って」
「あ、はい…」
しぶしぶハーマイオニーが席に着いたので、ハリーとロンも席に着いた。
リーマスは全員が揃うのを待っているみたいで、入り口のドアを何度も見ている。誰が来るのか聞かされてない三人は、席に座ってそわそわしていた。ふと、ハリーが室内を見渡していたら――…。
「やっと来たみたいだね」
ガチャリと金属の音が耳に届いて、全員の視線がドアへと向かった。
「おお!ハリー達ももう来てたのか」
「シリウス!」
「久しぶりだなー。ハリー」
ドアから登場したのはハリーの名付け親、シリウス・ブラックで、ハリーは顔を輝かせた。シリウスはニカッと豪快に笑って、ハリーの頭を乱暴に撫でる。
痛がっているのに、はにかむハリーに、ロンとハーマイオニーは顔を見合わせて、笑い合った。…――ハリーってば、シリウスの前では子供なんだからっ。
「シリウス、遅かったじゃないか」
「……すまん」
ほがらかな空気になっていたのに、黒い笑顔を浮かべたリーマスに、シリウスは素直に謝った。こんな状態のリーマスを敵に回すと痛い目を見ると、身に染みているのだ。
ジェームズもリーマスに頭が上がらない時がある。こんなにも威圧感のある笑顔を武器にするヤツとは、きっとリーマスくらいだろう。
シリウスが、辺りをきょろきょろ見渡し始めたので、ハリーは小首を傾げた。
「シリウス?」
「まだ揃ってないのか…」
「誰が来るのか知ってるんですか?」
ハーマイオニーの疑問に、シリウスはよくぞ聞いてくれたと子供のように無邪気な笑みを零して、ハーマイオニーと目線を合わせる。
だって、ティーカップの数が合わないから……とハーマイオニーは言葉を続けた。
「ああ!私はこの時を今か今かと待っていたのだ!」
「他に誰が…」
ロンがぼそりと呟いたら、それを拾ったリーマスがにっこり笑って、
「セブルスも来る予定だよ」
と、ハリー達にとって爆弾を落としてくれた。
「ゲッ」
「スネイプ先生も……」
シリウスとハリーとロンは、三人揃って同じタイミングで眉を寄せて嫌な顔をして、ハーマイオニー露骨に嫌な顔はしなかったものの、歓迎する表情を浮かべなかった。
「えらく嫌われたものだね、彼は」
それぞれのリアクションを間近で見たリーマスは苦笑する。…――何もそこまで毛嫌いしなくてもいいのに…。セブルスは、そんな役回りだね。
シリウスは不機嫌そうに鼻を鳴らして、ドカッと乱暴に席に座った。
「もうすぐ全員揃うと思うんだけど――…」
リーマスは語尾を濁した。
――この日について詳しく知っているのは、自分とセブルスだけ。時間帯ではもうそろそろなんだけど……。
訊いていた時間を過ぎても、誰も訪れないし、セブルスも一向に姿を現さないので、間違えたかな…とリーマスは顔を曇らせた。
リーマスが不安になって顔を曇らせたその時だった。
ボフンッ「――!?」
「ッ!?」
「な、ななな何ッ!?」
―――大きな音がしたのは。
ハリーは爆発音に似た大きな音が聞こえたと思ったら、室内いっぱいに白い煙が充満して何も見えなくなって、混乱した。
突然のハプニングに、ハリーとハーマイオニーは直ぐに席から立って、杖に手を添える。ロンも、引け腰になりながらも勇敢に杖を構えた。
――もしかしたら…またヴォルデモートのヤツが襲撃しに来たのかもしれない。
そう警戒した三人を尻目に、リーマスとシリウスは席に座ったまま視界がよくなるのを待っていた。
『《大地を舞う風よ》』白い煙の中から凛とした声が聞こえて――…突風が吹き抜けた。
□■□■□■□
眩しいほどの光が自身とリリーを覆った次の瞬間――…目を開けた私達を待っていたのは白い空間だった。
白い空間と言うには語弊があるかもしれない。何か靄がかかった感じが正しいかも。
「な、にかしら…」
『う〜ん』
何が自分の身に起こっているのか把握出来なくて、シルヴィとリリーは顔を見合わせて小首を傾げた。
ただ判っているのは、シリウスの魔法のせいで、こうなっているってこと。だけど、その原因となる人物とその仲間達三人の姿が一向に見えない。
「なんか変だわ」
『うん』
今度は、リリーの言葉に私は力強く頷いた。
悪戯が成功したのに、せせら笑うシリウスとジェームズの声が聞こえない上に、気配すらしない。リーマスとピーターの気配すら感じられないのだ。
「シルヴィ」
何も見えない中でリリーだけが見えるのには安心した。リリーと頷き合って杖を構える。
前方で空気が揺れたのが肌に伝わり、誰かが潜んでいるのかと警戒する。ジェームズ達かもしれないけど、用心に越した事はないと思う。
「――ルーモス!」
『《大地を舞う風よ――…》』
リリーが辺りを照らす呪文を唱えてくれたので、シルヴィはポケットから術札を取り出して霊力を込めた。
するとシルヴィの黒髪が重力に逆らってふわりと靡き――…
『《時として荒く吹き抜ける風よ、シルヴィ・カッターの名の元に我等を導きたまえ》』
呪文を唱え終えると、シルヴィとリリーを守るように風が集まり、辺りの白い靄を吹き払ってくれた。
無音だった空間からざわざわと人や動物の呼吸の音が聞こえ、不思議な空間から脱出出来たと、リリーもシルヴィも安堵の息を零した。
『ふぅ』
「で、ここは…」
突風に目を閉じていた二人がそっと瞳を覗かせたら――リリーとシルヴィの眼に、見知らぬ五人の人物が映る。
「誰なの」
リリーの固い声に我に返った私は今度はリリーと同じく杖を構えて、五人を見渡した。
いつの間にか移動した見覚えが無い室内に、恐らく誰かの準備室のようだが…ホグワーツにこんな準備室は見覚えが無い、そして全く知らない人達。警戒するのが当たり前。
「ママ?」
その中の少年が言葉を発して、杖を構えていた三人が三人とも杖を仕舞ったので、私もリリーも少年達でリーダー格らしき一人の少年を見遣る。
少年を目に留めたシルヴィとリリーは、目を丸くした。
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