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「騒がしいが一体何をして――…」
杖を振りまくって、一息ついた私とリリーに、部屋に入って来た人物の目が留まって、最後まで言葉が紡がれなかった。
部屋にいた全員の目が自分に集まり、不機嫌そうに眉を寄せる男性に、私もリリーもぷるぷる指差してしまう。
「……」
『……この陰湿そうな雰囲気は…』
「ま、さか……セブルス?」
二人は失礼な事を言っていると自覚が湧かないくらい目を見開いて硬直していて、リーマスとシリウスはぶッと吹き出した。
…――まさか過去の彼女達にそう思われる彼って一体……。
リーマスはギロリと鋭い視線も貰ったので、これ以上笑わないように震える腹筋に力を入れて、吹き出すのを堪えた。シリウスは我慢する事なく腹を抱えている。
シルヴィとリリーにセブルスと言われた男性は、シリウスに向かって舌打ちをした後、視線を二人に戻した。
「何を言っている?お前…リリーを巻き込んで、縮み薬なんか飲みおって。――リリー…今日はシルヴィとその他引っ付き虫と買い物に行ったのでは…」
『引っ付き虫って……』
「きっとメガネのことね!何でわたしがあんな男とショッピングなんかに行ってるのかしら……不思議だわ」
忌々しそうに顔を顰めたリリーに私は苦笑する。
恐らくそれは彼女とジェームズが結婚しているからだ。そう考えて、胸がツキンと悲鳴を上げたのは…気のせい。これは決まった未来で、それを私は知っているのだから。
そう言えば…この時代の私は一体何をしているんだろうかー。まだ彼等と友達付き合いをしているってことは、人間界で就職するって夢は儚く散ったのかな……。
『(ニートじゃないことを祈ろう)』
いろいろと言い合うシルヴィとリリーを余所に、途中で言葉を切ったセブルスは分かりにくいが、僅かに、はッと目を丸くして、それからリーマスに顔を向けた。
セブルスと視線が合ったリーマスは、口角を上げて、頷く。
「……だから、我輩をここに呼んだのか」
「そうだよ。だからシリウスも、ハリーも、そして小さいシルヴィとリリーもいるんだ。もちろん二人は縮み薬で、小さくなったんじゃないからね」
『わ、我輩って……マジか!』
突然入って来た全身真っ黒いセブルスは、やはり未来のセブルスだったみたいで。そのセブルスが自分の事を“我輩”と言った事に、反応してしまった。
セブルスは、リーマスの説明でシルヴィとリリーが過去から来てしまったのだと理解した。そして不躾な視線を寄越す小さな友人に向かって口を開く。
「…………なんだ」
『いや。なんだか長い年月を感じるよ』
口元が引き攣りそうになるのを堪えて、恨めしそうな視線をくれるセブルスを、私はしみじみ言いながら凝視した。リリーも私の横で彼を見ている。
セブルスは、シルヴィと反対側のリリーの隣の席に腰を下ろして、呆れた溜息を吐いた。
リーマスにセブルスがここに呼ばれたって零していたから、リーマスとセブルスは私達二人が過去からタイムスリップして来ると知っていたんだ…。私かリリーのどちらかが二人に話していたのかな?
――ってことは…私とリリーはちゃんと、過去に帰れるんだね。まぁ…帰れなかったら、未来に私達がいるはずもないか。
シルヴィとリリーは同じことを思考して、とりあえず心配していた問題を頭から除外した。彼等といれば、確実にいるべき時代へと戻れるだろう。
『我輩は…止めたほうが……せめて“私”に一人称を変えたら?』
シリウスもハリーもこの場にいるのに、座るなんて……セブルスどうしたんだ!?と、思ったけど、すぐにリリーがいるから居座るんだと勘付く。
シルヴィは、にんまり笑みを零した。
セブルスが大人しく座ったのを、笑いこけていたシリウスも笑みを止め、ハリーも困惑していて、リーマスとハーマイオニーは苦笑した。
そんな視線の数にセブルスは怯むこともなく、用意されていたティーカップに杖を振って、人数分全員の紅茶を淹れてあげたので――またもハリー達が仰天する。
「……お前は、いつになっても変わらんな」
リーマスが淹れてくれた紅茶よりも、セブルスの紅茶は口直しに丁度良く、私は焦るハリーを横目にコクリと一口飲んだ。
馬鹿にされているような含まれたその言葉に、私はムッとして、リリーの隣の男に指を差す。
『なにさ!それを言うならセブでしょッ!さりげなくリリーの隣を占領してるじゃーん!!』
「なっ、」
『リリー、男はみんな狼なんだから…特にこの不機嫌な男には気を付けるのよ!?』
図星を指されて、血色の悪かった頬が赤くなるのを見て、私はふんッと鼻を鳴らして、リリーの肩に手を置きながらそう諭した。
きょとんとするリリーの背後で、セブルスが「お前…」なんて、低い声を出していたけど……リリーがいる手前、私に何かをするなんて出来ないだろう。
リリーを間に挟んで、シルヴィは勝利の笑みを恨めしそうに見て来るセブに向けた。――この勝負っ私の勝ちッ!
『ふふん』
「…チッ」
「まぁまぁ、さあみんなも紅茶を飲んで」
穏やかな笑みだけど有無を言わせないリーマスの笑みに、渋っていたハリーもシリウスも、セブルスが淹れてくれた紅茶を口に含み、リリーも味わいながら飲んだ。
なんだか不思議なメンバーだよね。だって時代が違う私とリリーに、セブと仲が悪いハリーとシリウスが同じ空間で、これまたセブが淹れてくれた紅茶で茶会なんて。
「みんなもそれぞれ聞きたいことがあるだろう?シルヴィとリリーには悪いけど、未来に影響が及ぶようなことは教えれないが」
「ええ、わかってるわ」
『うん』
シリウスを苛めてスッキリしたシルヴィとリリーは、素直にリーマスに頷いた。
帰りたいって駄々こねても直ぐに帰れなさそうだし…それに、知らないからこそ未来を想像して生きるのは楽しいのだ。彼等の口から誰かの死など聞きたくないし。
――ん…?
そこまで思考して、何かこう…違和感を感じた。違和感が何かに気付く前にリリーが疑問を発したので、そちらに目を向ける。
「そこの生徒たちは未来の生徒?リーマスとシリウス、セブもホグワーツにいるってことは先生になったの?」
「この子たちはホグワーツの生徒だよ」
「じゃあ!そのメガネの子、メガネ…あらゴメンなさい、いつもの口癖で。ポッターに似てるけど、まさかあいつの子供なんて言わないわよねッ!?」
『んー…ポッター君の子供に一票』
明らかにハリーだとは思うけど、興奮で頬を赤らめるリリーを余所に私は呑気に右手を上げた。
私とリリーからじぃ〜ッと見つめられて目が泳ぐハリーは、見た目からして、私達よりも年上だ。上級生くらいかな?見ればみるほどジェームズに似ている。ジェームズが成長したらこんな感じかなって想像する。
『ここまでポッター君に似てると、母親の遺伝子は何処にいったのか。……性格かな』
「性格じゃないかしら。だって見て、彼、メガネと違って仕草が可愛らしいわ」
『ん〜、ん…?』
「どうしたの?」
ハリーの瞳を見て、またも違和感を感じて、小首を傾げた。
「そのまさかだよ」
「ああ。ジェームズの子供だ」
「おいっ!未来のことはあまり言っては……」
肯定したリーマスとシリウスに、セブルスは声を荒げた。…――無闇やたらと未来のことを口にしてしまったら、今ある未来が崩れて歪んでしまうッ!
だけどリーマスはシルヴィを見て彼の言葉を遮る。目が合った私は、頭に疑問符を浮かべた。
「そうは言っても…あまりにも似すぎているからね。教えなくてもバレるよ。それに…シルヴィもいるし」
『……え』
――それってどういう意味…。
戸惑う私をセブルスは一瞥して、浮きかけた腰を椅子に下ろした。え、何…私の名前で何で納得してんのっ。
「名前は?聞いても大丈夫なの?」
「そうだねー…大丈夫かな」
『その前に、私たちから名乗るべきかな?』
「そうね」
名乗ってなかったとふと気づいてリリーと顔を見合わせて笑う。
「二年の、リリー・エバンズよ」
『同じく二年のシルヴィ・カッターだよ』
二人の未来の姿を知るハリー、ロン、ハーマイオニー達は、もちろん二人の名前も知っていたけど、改めて自己紹介されて、背筋を正した。
「僕は四年で、ハリー・ポッターです」
「僕は…ロン・ウィーズリー」
「ウィーズリーですって!?」
赤毛に負けないくらいに顔を赤くさせてはにかむロンに、リリーが素っ頓狂声を出した。途端、ロンは居心地悪そうに身じろいだ。
恥ずかしがり屋なところは……両親に似てないかな。容姿は父親に似ているんだけど…と、思いつつ私はフォローをしようとリリーとロンの間に入る。
『あーやっぱり。アーサーとモリーの子供なんだね』
「ママとパパを知ってるのっ?」
「ええ。尊敬できる先輩だわ」
『うん』
最後の一人に目を向けて、お互いに微笑みあう。ロンは両親を褒められて嬉しくなって、はにかんだ。
「私はハーマイオニー・グレンジャーです」
ハーマイオニ―はふわふわの髪を靡かせて、名乗ってくれた。
この目で生のハーマイオにーを見れるとはッ!私ってば感激致しました。生まれるならこの世代が良かったと常々思っていたので、会えて嬉しい。
しかし…四年生か。って事は、シリウスの無実が晴らされた頃?あれ、でも…表立って証明できなくて、外は歩けなかったんじゃ……シリウスここに来てていいのかな。セブもいるのに。
疑問に思ったシルヴィだったけど、みんなで楽しくお茶会が始まったのだった。
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