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いきなり現れた白い虎に、どよめく兵士達。


「ちょ、サクラ!?」

「――サクラっ、何を…」


ユーリとコンラッドが同時にサクラを見て、焦る。


『うぬ?無茶をするわけではないぞ。少々、蹴散らせてくるだけだ』

「蹴散らせるって…」


何て事はないのだ。無茶はせぬ、時間稼ぎをするだけ。

簡単に言ってのけたサクラにユーリは口元を引き攣らせ、コンラッドは目に見えて焦っていた。


『時間稼ぎだ。では白虎、参ろう』

《うむ》

「っ!」


――だって砂熊を蹴散らせる事は出来ぬもん。

コンラッドは砂熊の相手をしてくれるであろうし、適材適所だ。私がまとめてあやつらを伸してしまえば善いのだ。






 □■□■□■□




「おい…なんか白いものが来てるぞ…」

「しかけていた砂熊だいね」


近づいて行けば…追っ手の兵士達の声が聞こえた。


「いや…あれは……」

「!」

「逃げろッ!」

「化けものだッ!白い獣の化け物だー!!」

「逃げろー!」


ざわめきが悲鳴に変わるのを見て、溜息を零す。化け物とは…酷い。


《化け物とは…失礼じゃのう》

『うぬ』


存外、ガラスの心を持っていた白虎に軽く笑いながら頷く。

追っ手の人間の兵士は――…ざっと二十人から三十人くらいだろう。これくらいなら…脅かすぐらいが丁度善いかな。


『朱雀』

《はい、主》

『全てを焼き付くせ、我らが朱雀』


朱雀を始解する。そして――…右手に握った刀をそのまま腕を伸ばして右から左へ――…、


『焼け、炎海地獄』


振りなが魔力を込める。と、こっちに向かっておった兵士達を円を描く様に炎の壁が囲んだ。

このまま一瞬にして体内の水分を取り去ってミイラにする事も出来るのだが…今回は殺す事が目的ではないので、囲むだけ。


《これだけで…善いのですか…?》

『うぬ。今回はな』


暴れたりぬのか、刀からやや不満気な朱雀の声が聞こえた。 同時に……背後から聞き覚えのある――…懐かしいメロディが耳に届く。


《おや?》

『これは――』


“茶色の小瓶”

低学年で習って…テストで暗記とかした記憶が蘇る。

目の前で炎の壁に囲まれておる敵の軍団から背後の若干離れた味方の軍勢を見る。 やはりというか、演奏しているのはユーリだった。


《…あれが魔笛》

『魔笛?』

《どうしたんじゃサクラ》


ユーリのつたない演奏に、困惑気味の朱雀の言葉を聞いて、思う。あれが魔笛の演奏ならば……雨が降って来るのではないだろうか…。

チラりと敵の輩を一瞥する。

雨が降ったらこの炎の壁も相殺されるだろうが――…雨でこやつらも追っては来れまい。


『…白虎、戻ろう。時期に雨が降る』

《あい、判った》


朱雀を戻して、来た道を戻る。

背後の熱い、熱い、などの悲鳴を聞きながら…乾いた風の中で湿気を感じ取った。





人々が…切望していたこの乾いた土地に―――…雨が降る。








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