8-6



「これは――…」

「……なんだ?」


取り出して――中から顔を出したのは変哲もない筒だった。ただの筒。


――何故筒を、ユーリに…?

サクラの意図が判らなくてヴォルフラムは長男の如く眉間に皺を寄せた。 隣でユーリも困惑していたが――…


「ッ!」


何かに気付いた彼は、サクラと視線を合わせて二人で微笑み合った。


「なんだ!」

「…」

「どうしたんですか?」


戸惑う魔族似てねぇ三兄弟を尻目に、ユーリは持っていた茶色い魔笛の一部と手に持っていた筒をつなぎ合わせた。



そうそれは――魔笛だった。



先程、ジルタ達が来る前に、私が見つけていたのは“筒”魔笛の一部だったのだ。

二人でイタズラが成功したように笑いあい――…怪訝な顔をしている三兄弟の前に「ジャーン」と見せつける。



『――魔笛だ』

「ソプラノリコーダー!」





ぽぴ〜





ユーリは早速リコーダー……もとい、魔笛を吹いた。

奏でられた音も小学生の時に何度も吹いていた懐かしい音で――そして少々間抜けな音であった。だが、魔笛には違いない。

私は遠い眼をしそうになったのを、頭を振る事で考えを改める。そうあれは魔笛だ!間抜けな音だったが、魔笛だ。


「さすがですね陛下! 手にしていきなり音が出せるなんて! ほら日本の諺でも言うじゃないですか、桃栗三年、書き八年……」

「……」

『たわけ!それを申すなら――“首振り三年ころ八年”だ』

「え、そうでしたっけ」


目を丸めたコンラッドに、ユーリと一緒に深く頷く。見た所…冗談ではなく間違って覚えておったみたいだ、こやつ。


「おれ、この楽器、初めてじゃない気がする。遠い昔にどこかで会っているような」

『……奇遇だな、ユーリ。実は私も見た事があるような気がしてならぬ』


何処か遠い眼を夜空に向ける私とユーリ。そんな二人に顔を傾けるコンラッド。


「そういうの、デジャ・ヴっていうんじゃないですか?」

『…や、』

「違うと思う。 まあこれが赤くないけどシャア専用ザクだとしたら、量産型の方で六年近く訓練積んでたというか……」

『奇遇だな、私もだ』

「こんなもんプーピー練習したところで、将来なんの役にも立ちゃしねえって思ってたけど……」

『…善かったではないか、役に立てて』


小学校の義務教育が役にたてって善かった、と言ったが不意に思う。私は?


――私も、リコーダーなら吹けるのだが…、魔笛はどうであろうか?

不意にそんな疑問が湧き、試したくなったサクラは、ユーリに好奇心を胸に尋ねる。


『あ、ユーリ私にも吹かせてくれぬか?』

「――え」

「「!」」


私の突然の申し出に、ユーリは硬直し、何故かグウェンダルとコンラッドは目を見開いた。

そんな反応される覚えはないので、私は器用に片眉を上げた。


「だっ…」

「駄目ですっ!ダメッ!!」


駄目だよッ!と言おうとしたユーリの声は、我に返ったコンラッドの声にかき消された。声音には焦りが籠められていて。


――それって、間接キスになるじゃないかー!

そう心の中で叫ぶユーリの頬に赤みが差した。

そんなユーリに意味が判っていないサクラはきょとんと目を丸くする。


『うぬ? 貴様…何故そんなに焦っておるのだ。そこまで言われたら諦めるが…』


コンラッドとユーリは、ホっと息を吐き出した。

しかしユーリは同時に、少しだけ…ほんの少しだけ残念に思った。それは…自分の命が危なくなるので、けっして表には出さなかったが。


「ゴホッ、それで――…短いほうはどうやって手に入れたんです?」


ユーリの葛藤に気付かぬかったコンラッドは、私と魔王を交互に見た。


「これはニコラに貰ったんだよ。 ニコラは彼氏のゲーゲンヒューバーに……ああ、そうか!――ヒューブだ。全部ゲーゲンヒューバーに繋がってるんだよ」

「ヒューブがどうした」


殺したい程憎いのか、ゲーゲンヒューバーとユーリが出した名に、グウェンダルは低い声を出して尋ねて来た。 ヴォルフラムも眉に皺を寄せる。

騒がしくなってきたところで――…シャスを始め、ジルタと手を繋いだノリカも私達に目を向ける。


「隠したんだよ、この部位を! 埋められたばかりの赤ん坊の墓に! 生まれてすぐに母親から離されて、死にかけている赤ん坊を掘り返したんだ。 だからジルタは生きてるんだよ!」

「――なんだと」


殺気混じりの――低い声が耳に届く。グウェンダルは、どうあってもヒューブが気に入らぬらしい。


「その通りじゃとも。―――……ジルタを私のところへと届けてくれた魔族の男が、まだ生きていた赤ん坊をこの墓の中から救い出してくれたんだいね。 その赤ん坊の包みに私の名と娘の名、それから赤ん坊の名前が書いてあったと…ああの男はいうとりました」

「ゲーゲンヒューバーのやつこんな所に魔笛を隠していたのか」


シャスの口から明かされた真実に、グウェンダルの眉間の皺がより深くなる。だが――…


「怒るなよ、グウェンダル。 赤ん坊を助けてついでに魔笛を隠したんだろ。――いいやつじゃん、ヒューブって」


純真無垢なユーリの言葉に、彼は目を丸くしたのち――ふっと笑みを受けべた。


「フンっ、どっちがついでだか判るものか。だが…赤ん坊が生きて母親に会えたのはアイツの行動の結果ではあるが、な」

「だろ」


きっと話の半分を理解しておらぬだろう、シャスやジルタにノリカ――それから魔族組の私達の間に穏やかな夜のひんやりした空気が流れる。




『これにて一件落着、ってね』






「何してるのッ!アンタたち! さっさと逃げるわよ」


穏やかな雰囲気の中、聞こえたのはオリーヴの声だった。








(オリーヴ、まあそう申すでない)
(サクラ様?)
(無事、魔笛も見つかったぞ)
(ええーホントですかッ、流石私のサクラ様っ)
(オリーヴ…君のではないだろう)
(うっさいわ!ウェラー卿)



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