8-4



「こっち、こっちに集まって〜」


ノリカ探して、岩陰や牢の中など一通り見たが…彼女は見当たらなかった。

もしや…あの騒動で逃げてしまったかな?そうだと善いのだが――…ノリカは、まだこの地にいると確信していた。

サクラは遠くで、残った女性達の人数を確かめておるユーリの声を耳にしながら、軽く息を吐いた。


『ノリカ〜ノリカさん〜?』

「…いませんね」


歩きながら声を出してみる。

後、心当たりがあるとすれば――…今向かっている墓場であった。ノリカが…この墓場を悲し気に見ていたのを思い出す。

あれからコンラッドは何事もなかったかのように、私の隣を歩いている。

辺りを照らす松明は、コンラッドが持っていてくれていて。それに感謝しながら思考に耽る。


『子供…か…』


前々世はともかく前世は戦ってばっかりの人生だったから、今世では子供が欲しいと思っているサクラ。

人並み結婚願望はアリマス。うむ。あ〜でも結城が成人するまでは…やはりそれ処ではないな。うむ。





「――い、……ない、……いない、いないッ!」

『うぬ…?』


墓の奥から女性の声が聞こえる。……ノリカの声だ。

日も沈んで、薄暗く墓場独特の気味の悪いうすら寒さの中――…恐る恐る足を進める。幽霊や虚が視えたとしても、やはりこのような雰囲気は怖い。怖いものは怖いのだー!


『……ノリカ…?』


やっと見つけた彼女は、脇目も振らず必死に土を掘っていた。何を――…。もしかして、己の産んだ赤子の遺体を探してるのだろうか。

手も服も、汚れるのも気にせず、涙を流しながらノリカは、ひたすら土を掘っていた。

彼女の周りの地面は、何ヶ所窪んでいて、ノリカがいろんな場所を必死に探していたのだと判る。


「いないッ、いないッ!どうして…どうしてよッ!」

『…ノリカ…』


叫びながら泣いているノリカを放っておけなくて、サクラもまだ掘られていない場所を掘り返す。


「っ!アンタ…」

『…私も一緒に探すぞ』

「アンタ…本当はロビンって名前じゃないんだろ?」

『う、うむ。すまぬ…騙すような真似をしてしまって。 誠の名はサクラと言う。――…改めてよろしくお願いする。こっちにおるのは…』

「ウェラー・コンラートです」


私も土を掘り返しながら…改めて自己紹介をした。

騙すような事をして怒られるかなと、ビクビクしておったら――…ノリカの笑う声が空気を通じて伝わる。


「――ふッ」

『…う、ぬ?』


先ほどまで涙を流しておったノリカは、私の顔を覗き込んで目を細めた。近距離で、互いに見つめ合う。


「サクラ、サクラは髪も瞳も黒だったんだね」

『――ッ!?』


既にコンタクトも髪も色が戻っておるのに、気付かなかった。  魔力を使った時に、本来の姿に戻ってしまったのだろう。

前回と同じく髪も瞳も赤に染めていたのだが……ハッとして、手で眼を隠す。


――黒は不吉。

黒は魔族の象徴で、不老不死だとかいろんな不吉な噂が人間立の間で囁かれておるのを知ってる。今まで、仲良くしてくれていたのに…黒いってだけで人に蔑られのは堪える。

私は視線を地面に戻した。


「怖がらないで、もっとよく見せて」

『…え』

「ああ本当だ、ほんとに深く澄んだ黒をしてる。こんな綺麗な瞳は見たことないよ。 あの人は王都で一度だけ、ずっと昔の賢者様の肖像画を見たんだって。その絵がどんなに気高く美しかったか、何度もあたしに話してくれた。 あんたみたいに知性を持った黒の瞳と、同じ色の艶めく髪をしていたんだってさ」

『もしかして…』

「サクラと同じ、魔族だったの」


ノリカも…ニコラと同じく魔族の男性と関係を持った女性だったのだった。初めて出会った夜に、話してくれたのに、今の今まで忘れていた。

魔族との関係が、明るみに出て、ここへ連れて来られたあげくに赤子を――……。

己にはどうしてやる事も出来なくて…だけどそれも悔しく、やるせない気分になって下唇を噛んだ。

何を言ったっって、それは同情の言葉にしかならぬ。私は子も、ましてや旦那もおらぬのだから。

大粒の涙を流すノリカを見ておれず…またも地面に目を戻して土を掘る作業を再開する。――コンラッドも、私の手元を照らしてくれながら、土を掘ってくれていた。


「あたしさ…もう生きてないってわかってても、自分の目で自分の産んだ可愛い息子を探してやりたいのよね。 死産だったって聞かされて、顔も見せてもらえずに諦めたけど……もしかしたらマルタの赤ん坊もたいに……どのみち十年も前の話。 けど此処から出られるときには、必ずあの子も連れて行こうって決めてたんだ……骨の一欠片でもかまわない。砂の一握りでもかまわない」


節々に嗚咽が聞こえる。


「ああ…ジルタッ」

『――っ!?』


告げられた名に息が止まった。聞き覚えがあるなんてものではない、だって同じ名の少年と昨日一緒にいたのだから。

止まった脳を動かして…詳しく思い出せば、己が出会ったあのジルタも十歳だと申しておらぬかったか……?

そこで、はたっと思い出す。――魔笛の残りの部品が何処で手に入るのか。

この世界の知識があると言っても――…元々、詳しくはなかったし、読んでたのも随分前で。部分、部分でしか憶えておらぬのだ。 今みたいに、何かを突然思い出せば…芋づる方式に肝心な事を思い出したりするのだが。

手を止めたサクラにコンラッドはどうしたのかと眉に皺を寄せた。


「サクラ?」

『うぬ?――あ〜…』


ノリカとコンラッドの視線が私に集まっておる。

貴様の息子は生きておると告げる前に―――…ゲーゲンヒューバーがジルタを助けた際に、代わりに埋めただろう魔笛の一部を探して証明しなければッ。

私はコンラッド達に何も言わず、懸命に土を掘る。掘って、掘って掘りまくる。







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