8-2
『薫のバカああああ!!―――……はっ!』
叫びながら、体を起こせば…そこは荒れた地であった。…否、何処だここは。
寝起きの鈍る頭で、ぼんやりと――…寝る羽目になった記憶を探っていく。
「起きたか」
『うぬ?』
――あ、そうか。魔力の使い過ぎで、倒れたのであったな…。
私の隣にいたグウェンダルを見て思い出した。ふと右手を見ると、気絶している間に誰かが治療してくれたのか、包帯が巻かれてあった。
己の目線に何を見てるのかに気付いた彼は、トレンドマークの眉間の皺を深くさせた。
『あ、ユーリは?マルタと赤子も無事か?あ、グウェンは…』
グウェンダルの不穏な空気に気付ず、目の前の男の体に視線を走らせた。――グウェンは無事だったみたいで安堵する。
彼と別れた時は、法術のせいで顔色が悪かったから、気になっていたのだ。
ほっと、小さく息を吐き出していたら、上から深い溜息が聞こえた。
――何だ…?
「お前は…人の心配だけでなく自分の心配もしろ。無茶ばっかりしおって」
『う、うぬ…』
――あれ?デジャブ?
いつの世も…説教されておる気がする……。
「この右腕だって…お前が怪我をする事もなかったんだ。私を刺せば良かったものを」
『それはっ!刺せる訳ないであろうッ!』
「何故だ」
『それは貴様が大切だからだ。逆に問うが、貴様だって私を刺せぬから、私に委ねたのであろう?――…結局刺せぬのだ。ならばあれが正解だろう』
そう言われたグウェンダルはまた溜息を吐いた。そしてこれ見よがしに頭を抱える。
「お前は…何も判っておらん。私はサクラに怪我をして欲しくなかった。お前は…大人しく私に守られていればいいんだ」
『なっ!』
守られるだけの存在では嫌だ。そう反論したかったが…目が合ったグウェンダルの目は真剣で私は言葉に詰まった。
グウェンダルもまた守りたいと思った存在に守られるのは嫌だったし、いつだって無茶をするサクラに少しは女性だと言う事も自覚して欲しかった。
『……善処する』
自虐的行為で心配をかけたな…と思うところもあって、だけど、約束は出来ぬのでそう言ったサクラ。
拗ねたように朱くなった顔でそっぽ向いたサクラに、グウェンダルは口端を僅かに吊り上げた。
「グウェンダル…それはどういう意味なんだ?」
気まずくて、だけどくすぐったい空気が二人の間に流れていたら――…突如、背後からそれはそれは恐ろしい声が聞こえた。
瞬時に固まるグウェンダルとサクラ。
振り返ると――ニッコリ笑みを浮かべておるコンラッドと、その背後から身を寄せ合うユーリとヴォルフラムが見えた。
「い、いや…別に深い意味は…」
「深い意味もなくサクラに守るなんて言ったのか?」
「いや、それは…」
下心などなく、純粋に臣下としての言葉だったのに…。グウェンダルは何と言おうか視線を彷徨わせた。
『(怖っ!)』
身の危険を感じて、ヤツの目がグウェンダル向いてる内に、と……コッソリ前かがみにユーリ達の所に逃げる私。
因みにユーリとヴォルフラムは青ざめていた。
「…サクラ、何処に行くんです?」
『ひっ』
「悲鳴なんて酷いですね」
苦笑するコンラッド。こんな時の彼の目は笑っておらぬのが常。
「俺、言いましたよね?――俺の知らないところで、無茶しないでくれ、と。俺の知らないところで、怪我をしないでくれとも約束しましたよね?」
コンラッドのその言葉に、言われた時の事を思いだす。
無茶をしないとモルギフの剣で怪我をした時に言われて。コンラッドが近くにいない時は、緊急事態以外は、戦わないでくれと、ラザニアを助けてた時にも言われたな……。
だが、無茶はしておらぬ…と、反論したかったが、目の前には恐ろしいコンラッドと、その後ろには――先程もその事を話をしていたグウェンダルが見えるので――…反論はしない。
『うぬ、すまぬ』
素直に謝る事にした。謝る事で場を丸く収める。
「…なんで右腕を怪我しているのか、教えて頂けますね?」
『う、うぬ…』
もう怪我なんて、してしまったのだから、怪我してしまった時の状況まで掘り下げなくとも善いではないか……。
内心コンラッドに反抗していたら…心を読んだかのごとく、瞬時にコンラッドの視線が鋭くなった。
――ひいッ。…薫やグウェンより怖いっ。
それから私は洗いざらい吐かされる事となった…。
(もう説教はこりごりだ)
(サクラ?)
(ひっ、イエ、スミマセンデシタ)
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