6-11





「でも首都を迂回しようとして通った街で……そこでも井戸が涸れていて、子供達までが喉の渇きに耐えてる姿を見たら、あたしもうたまらなくなっちゃって。 宿で、ヒューブが居ない間に、あの雨を降らせる筒を取り出して使おうとしたの。 雨さえ降れば子供も走り回って遊べるんだと思って。 磨いたり覗いたり叩いてみたり、最後には口を付けて吹いてみたりもした。 でも駄目だった、雨は降らなかったわ。 それどころか街の長老に見咎められてしまって……。 あれは魔王の使う魔笛だって、それを持ってたあたしは魔王に違いないなんて、そんな、とんでもない言い掛かりを」


そこまでニコラの話を聞いて、私達の間にひゅるりと風が流れた。


――え…今、なんと言った?


「宿屋から逃げたんだね!?」

「ええ。すぐに捕まってしまったけれど。どうして知ってるの?」


全員がまさかと脳裏を過ぎった疑問をユーリが掴みかからん勢いで尋ねる。


「それで、処刑されそうになったんだね!?」

「え? ええ、でもあたし首都の名士の息子に妙に気に入られて、彼と結婚すればヒューブを解放してやらないこともないって、それであの兵士と……」

「そっくりさん!」


ユーリはガッツポーズで喜びを露わにした。

対してサクラとグウェンダル、オリーヴの三人は互いに視線を合わせた。 

ここを訪れる原因だったのが、魔王が処刑されると噂があったから。

もちろんユーリじゃないと、予想しておったわけだが――…二十年前に魔笛を探しに行ったゲーゲンヒューバーかもしれぬと確認しに来たのだ。

そしてユーリと合流し、処刑される奴がユーリでないと判った上で訪れた教会で、ニコラに会い彼女の口から耳にしたゲーゲンヒューバーの名前に、ああやはり処刑されようとしておるのはヤツなのかー……と、つい先程まで見解しておったのだ。…が……


「あの……あたしはあなたと間違われたってこと?」



――お ま え だ っ た の か!!

全員でニコラを半眼で見た。



「最初からそう言ってるじゃないっ、あなた達だと勘違いされて手枷されたってッ!」


オリーヴがさもバカだと言いたげにニコラを見下げて言った。

魔王と間違われたニコラが、その魔王がユーリだとはバレてはいけないので、手配書に勘違いされた話をここでしたオリーヴ。


「それで、筒とやらはどうした」


話題を変える為に、目的の一つの魔笛だと思われる筒の場所を冷静に尋ねるグウェンダル。

よく状況を見ておる――と、私は、二人を見て少し感動した。


「あのな、まず先に従兄弟がどうなったか訊くべきじゃねえ?」


だけど、情に熱いユーリは冷たい視線でグウェンダルを見る。と、この重大な…彼女にとって重大な事実に、


「従兄弟なの!?この人ヒューブの従兄弟なの!?」


ニコラはグウェンダルを指差しながら目を見開いた。


「どうしよう、ご親戚の方だなんて。 あのあのっお初にお目にかかりますっ、ニコラですっ。 ヒューブさんとは真剣にお付き合いをさせていただいて……じゃあもしかしてあなた……サクラも親戚関係なの!? 従兄弟さんの愛人ということは……」

「……愛人って」

「…」

『うむ?』


急にテンションを上げたニコラに、ユーリは口を引き攣らせ、グウェンダルはひたすら沈黙。

こんな会話をしていたなんて、弟に知られたら……グウェンダルは身震いした。


『いや、グウェンを差し置いても、そもそも婚約者がグウェンの弟だから……遠い親戚になるのでは?――あ、そうなるとユーリも遠い親戚になるな』

「まぁ!そうなの!?」


私は脳裏に相関図を作成した。


「いいいやいや、ちょっと落ち着いてっ」

「ユーリっ、改めましてニコラですっ!」

「いやいや…っちょっとッ!サクラッ!何てこと言ってるんだよっ!」

『……事実だ』


またも暴走し始めたニコラに、ユーリは大声を出してサクラを批難。


――しまったッ!

口を滑らせてしまった私はニコラからせがまれておるユーリから視線を外した。


『(……すまぬ…えへッ)』

「筒と…グリーセラ卿はどうしたの?」


オリーヴが上から目線で話を戻す。


「…ヒューブは解放されたはずだけど、半月前からずっと会ってません。 筒は……ここにあるわ」


彼女が懐から取り出した物は誠に焦げ茶の筒だった。全員で、シャスも一緒に見つめる。


『誠に…筒だな』

「こ、これが」


――あれ…?

『(…確か…さっき……)』

「ヒューブもあたしもこの国に雨を降らせようとしたけど、筒は何の奇跡も起こしてくれなかった。 きっと魔族の秘宝だから、魔族の人にしか恵みを与えないんだわ」

『いや、それは…』

「そう、かな」


沈んだニコラの声に私は疑問を口にしようとしたが、ユーリに遮られる。

そして、ニコラが問題の筒をグウェンに渡した。 渡された彼は暫し筒を見て、ユーリに引き渡そうとした、けれど。


「……なんだよ」


ユーリは眉に皺を寄せた。


「お前のものだ」

「なに、どうして? どうせおれこんなの使いこなせやしないよ。 あんたが持ってたほうが安心だってェ」

「お前のために作られたものだ。 お前の命令しか聞かない。モルギフのときを思い出せ」


二人を見て、否…サクラはグウェンダルを見て笑みを零す。

あんなに邪見にしておった癖に。


『(少しは…ユーリの事を魔王と認めたのか)』

「あれは……」

「じゃ、しゃあ試に一発、吹いてみよっか。ひょっとしたら嵐を呼んじゃうぜ?」

『あ、』


グウェンダルに言われて吹いてやるぞーと意気込んで立ち上がったユーリ。

構えて、息を吹き込む。





すかー





だが、筒は音色を奏でなかった。

期待して見ていた一同は拍子抜けで。ユーリも、がっくりと肩を落とした。


「……っあれ」

「あのぉ、ユーリ、それは本当に笛なの?」


ニコラにまでそう言われ、ユーリは自分は魔王なのに……と落ち込む。 気まずい雰囲気に包まれ、私は、ずっと引っかかっていた事を投げかけた。


『グウェン…』

「なんだ」

『先程…ニコラの話でゲーゲンヒューバーがニコラと出会った時に、探しておった物をある所に隠したと申しておっただろう。 恐らく、その筒単体では魔笛にはならぬとは思うのだが……』

「「「「……」」」」


サクラの言葉に、そう言えば……と、グウェンダル、オリーヴ、ユーリとニコラの四人は顔を見合わせた。


「そーだよっ!きっとこれ魔笛の一部なんだっ」


ユーリは満面の笑みで叫び、こうして愛の逃避行の果てに我らは魔笛をゲットした。








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