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「サクラ」


同郷同士、ほっとして盛り上がっておると、またコンラッドに名を呼ばれたので、そちらに顔を向けると――…いつの間にか灰色の長い髪をした、先程まで裸の男性にもみくちゃにされていたであろう男性が、コンラッドの横に立っておった。

銀色の長髪の男性で、これまた美形であった。儚げな雰囲気を醸し出しておる美人さん。スミレ色の瞳で熱く見られて、私は小首を傾げる。


「サクラ様…」


その男性にも親しげに呼ばれて、片眉を上げる。…――初対面のはずだが…。「生きてらっしゃったのですね!」と、嬉しそうに言われ――…ぇ。


―――……生きて…?


「ギュンター…彼女は」

『初めまして、ですよね? 私はあなた方を存じませぬが』


コンラッドの言葉を遮り、初対面だと発言する。言葉を遮るのは頂けないかもしれぬが、何度も知らぬ人と間違われるのは御免である。


「そっそんなっ!」


長い髪の男性改めギュンターと呼ばれた彼は、おおげさではないかとツッコミたくなるくらい衝撃を受けていた。


「サクラ様っ!このギュンターめをお忘れでっ!?わたくしは憶えております!憶えておりますよっ!! その麗しき黒い髪に吸い込まれるような黒い瞳っ!!わたくしがサクラ様を間違えるはずがありませんっ!! わたくしはっわたくしは、」

「くっしゅ」


ギュンターの発言の内容と言動に半ば唖然としておると、渋谷がクシャミをしたらしかった。自然と私達の会話も止まる。


『……』


忘れかけていたが、己も彼もずぶ濡れである。

皆の視線が渋谷に集まった所でコンラッドが城に入ろうと促してくれて、“城”のフレーズに固まりそうになったが、私も訊かなければならぬ事が多いので、素直に頷いた。情報は早めに得た方が善い。今後の為にも。


「サクラ…様も、このままでは風邪を引いてしまいます。中で温まってから話をしましょう」


つい先程まで呼び捨てであったのに――…コンラッドは私の名に敬称を付けて言い直した。

疑問に思いながらも歩きながら自己紹介。

抱きついてきた男性はウェラー卿コンラートで、噛みそうだからコンラッドと呼んでよいと申してくれて、ついでに敬語も善いと言ってくれた。


『じゃあ、私の事もサクラで善いぞ。様付けは慣れぬからな!敬語も止めてくれると助かる』


灰色の長髪の男性はフォンクライスト卿ギュンター。ギュンターと呼ぶ事にする。

ギュンターは様付けも敬語も止めてくれぬかった。訊くところによると、双黒は位が高いらしい。


――意味が判らぬッ。日本人は皆黒いぞ!

それに“卿”がついてるって事は、やはり彼等は貴族なのだ。たった今、こちらに飛ばされた後ろ盾のない私とは違って、身分ある彼等が、私に敬語を使うのは甚だ可笑しく感じる。

ユーリは、渋谷が下の名前で呼んでくれと申してくれたので、有利ではなくユーリ。コンラッドがそう発音していたので、私も伸ばしてそう発音する事にする。

城につくとユーリは仕事があるらしく、――うぬ?…仕事?別の部屋に連れていかれた。

なんだか判らぬ内にメイドさんが着替えを持ってきてくれて、私としても濡れたままでいたくなかったので助かった。


――のだが…。


『黒の…紐パン……ありえん…』


黒のパンティーに黒のブラジャー。何故サイズまで合っているのか。

それらを目にし頬が紅潮する。いろんな意味で恥ずかしくなったサクラであった。

着替えのワンピースもこれまた黒色で、見事に黒ずくめに。 なんとも複雑な気分になりながら、部屋から出るとコンラッドが壁に背を預けて立っていた。


「ワンピース、似合っていますよ」


待っていてくれたのかと思っておったら、歯に浮く様なセリフを爽やかな笑みと共にプレゼントしてくれた。…――恥ずかしい。


『そっ、そうか?…えーっと (なっなんて返せばいいのだー!お世辞など言われ慣れてないから判からぬっ!!)』

「えぇ。より一層サクラが可愛く見えます」

『(おぉー!やーめーてーくーれぇー!!)』


ストレートに言われるとお世辞だと判かっていても照れてしまう。


――慣れぬのだ!


「ぷっ」


目を泳がせながら思案していると、上から忍び笑いが聞こえた。


「ふふっ可愛いな、サクラは」

『なっ!な、なな!』

「な、しか言えてませんよ?照れているサクラも可愛いですね」

『く〜からかうなっ!可愛いなどと…恥ずかしいヤツめっ!!』

「本心だったのですが…怒らせてしまいましたね」


コンラッドはサクラを宥めながら、ユーリたちがいる執務室まで案内した。





実際サクラは可愛かった。

元来の白い肌に、高貴な黒のワンピースは滑らかな肌を引き立たせている。思わず抱きしめてしまいたくなる程に。


その白い肌に口付けしたい――…。

その桜色の唇に触れて、もう離れないでくれと懇願したい――…


「(だけど…彼女は俺をしらない)」


そう、未だ知らないのだ。

コンラッドは己の欲望と戦いながら、表面上は爽やかにサクラと長い長い廊下を歩んだ。






(ルキア…今日初めて紐パンを身に着けたよ……)
(ちょっと恥ずかしいデス)


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