6-5

[side コンラッド]





グウェンダルとサクラと別れたコンラートは――…。


滑り落ちた砂の中で、ヴォルフラムを探す前にサクラの斬魄刀を見つけていた。


「(サクラ)」


愛しい彼女を思い浮かべコンラートは口元を緩めた。

ただ危険な場所に自分を送ったのではなく、もしもの時の為に大事な刀も送ってくれていたなんて。刀がないとサクラも動きにくいだろうに。

コンラートにはこの刀が青龍なのか朱雀なのか判らなかったけど、用があったらどっちかが出て来るだろうと――…細かい事は、気にせず腰に差した。



それからが大変だった。

ヴォルフラムを探し出すのは簡単だったが、その弟が、子供の様に愚痴るのでそれを宥めるのに労力を用いたからだ。

まぁ、それも度が過ぎなければ自分の弟なので可愛く思えるのだが。

当の本人は現在、髪の毛をしきりに触っている。砂に埋もれた為、髪に砂が溜まっているのだろう。短髪のコンラートは、自分の髪の短さに少し安堵した。

それと、グウェンダルの部下の報告で、一人以外は無事に脱出出来た事を知った。 その、一人とはライアンでコンラートの部下だ。

見渡すとグウェンダルや自分の部下が混ざっている状況。この状況下では閣下の自分が指揮を取る。 


“ライアン”

彼は…無類の動物好きだったので……どうせ、また動物を追い掛けてでもいるのだろう。

安易に想像出来たので、報告して来てくれたグウェンダルの部下に「討伐の必要はない」と、伝えて彼に先頭からの警備を任せ、今現在――…先に向かったサクラ達が待っているだろう近場の街を目指している。





「(サクラ、今どうしてるだろうか)」


頭を占めるのはどうしてもサクラの事。

サクラの事を考えるだけで、胸がほっこり温かくなる。どうしようもなく彼女が好きだ。

気が付くと彼女の事ばかり考えていて、彼女の姿を思い浮かべるだけで気分が高揚する。それほど俺はサクラにベタ惚れしている。


「ふんっ」


馬に揺られながら、幸せな想いを噛み締めていたら、それがさも面白くないと言っているかのような鼻で笑う音が耳に届いた。


「…そんなに落ち込まれても」

「なじぇボクが落ち込まなくてはならないじゃり!?」


魔王陛下のユーリがこの場におらず、その陛下の護衛である自分がここにいる状況に、ヴォルフラムは気に入らないみたいだ。


「……まず口の中の砂を吐き出せよ」

「うるさい!お前なんかにわからないじゃり!今頃ユーリは兄上と……兄上と……っ」

「陛下とグウェンが?」


――あぁ…そっちが気に入らないのか。



「どうだろうヴォルフ、婚約者だと公言しているんだから、もう少し信じてさしあげては」

「だがグウェンダルはあのとおりの可愛い物好きで、ユーリは自覚のない尻軽だッ」

「し…(尻軽って…)、それにオリーヴもついているし姫もいらっしゃるから、心配しているようなことにはならいと思うのだが」


どうやらヴォルフラムは、グウェンとユーリが浮気をしてないかを懸念している模様。

だけど、二人っきりではないのだからそこまで心配しなくても…と、思わず苦笑した。


「ボクは自力で脱出できたのに、お前が戻ってきたりするからこういうことになるんだ! そんなにボクの剣の腕がそんなに信用ならないというのか!?」


こちらを見ずにそう言ったヴォルフラムを見て、コンラートは弟を可愛く思った。

人間の血だと罵っていても、やはり兄であるコンラートからの信用は気になるらしい。


「まさか」と、否定の言葉を放ち、湧き上がる笑みを、これ以上ヴォルフラムが拗ねないように堪えて言った。


「お前が一流の剣士なのは知っているけど、俺自身が初めてあいつに遭遇したときのことを思い出したんだ。 弱点をしらなくて手酷い目にあった。 だからそれを教えようと」


――それにあんな顔したサクラを見たら…。

「それにユーリもヴォルフラムが心配だと言ってたんだ」


その言葉に照れたヴォルフラムは、


「うっ、そうは言うが…コンラートっお前だって気にならないのかっ!」


矛先をこちらに向けて来た。


「…何が?」

「サクラのことだ! もしかしたら…兄上と善からぬ仲になってるかも……」

「それは…」

「心配じゃあないのか?」

「……サクラは、簡単に靡いたりしないよ。――…俺にだって、ね…」

「…」


自嘲気味にそう言ったコンラートにヴォルフラムは言葉を失った。



現に、未だ告白の返事を貰っていない。

でも、それは自分がいいといったからで、サクラの立場で誰を好きになろうと責められない。だけど…、それを実際目撃したら自分は許さないだろう。嫉妬深いのは血筋なのか。

グウェンダルが手を出す男じゃないと知っているから落ち着いているだけで、赤の他人と二人っきりだったのならヴォルフラムの様に心中穏やかではないはずだ。

あぁ、やはり嫉妬深いのは血筋だろう。



会話しながら進んでいる間に街の入り口に辿り着き、すかさず馬から降りる。



「俺が先に様子を見てくるから」


入口付近に兵がうろついているので、人間に慣れている自分が行った方がいいだろう。こういう時こそ地味な外見を役に立てなければ。

この場にサクラがいたら真っ先に否定するだろう事を考えながら、街へと足を向ける。


「コンラート!」


振り向くと真っ直ぐにヴォルフラムがコンラートを見ていた。


「もしお前が魔笛探しに同行したくないのなら、ここから引き返しても構わないぞ」

「また、どうして」

「だってお前は、あいつと顔を合わせたくないだろう。 魔笛のある場所には恐らくゲーゲンヒューバーがいる。 あいつのせいでサクラは…」

「……」

「と、とにかくっ、ユーリやサクラがいたら、すぐにボクも呼べ! 行きたくなくなったら言うんだぞ!お前がいなければユーリもボクに頼るだろうしな!」

「……はいはい」


気を使ってくれているらしい。何とも言えない気持ちになって手を口で塞いだ。きっと今俺は締まりのない顔をしているだろう。

兄弟の仲は…グウェンダルともそうだが、ヴォルフラムが物心ついた時には酷く冷めていた。自分の中に人間の血が半分流れているからだ。

血をどうすることも出来なくて。荒んだ時期もあったけれど――…二十年前にサクラに出逢って、子供のようにぐれるのを止めた。

それでも、兄弟の仲は悪化の道を辿るばかりで、自分ではどうすることも出来なくて。

最近は…ユーリやサクラが眞魔国に来てから、俺も陛下の護衛になったしで接する事も多くなり会話もそれなりに増えてきて、徐々に回復しているとこうした時に感じる。

コンラートにとって、ヴォルフラムは可愛い弟で、グウェンダルは頼りになる兄だ。

だから二人のお蔭で、グウェンとヴォルフとの仲が修復されるのを――…くすぐったい気持ちになるが、とても嬉しく思っていた。



「(ゲーゲンヒューバー…)


ヴォルフラムが心配してくれた原因の名前を反芻する。

―――俺は本人を前にしたら、どんな感情に囚われるのだろうか。





 □■□■□■□



「それから、かなり身長差のある男女の四人組が、この街に宿をとってはいないだろうか」


少し独特なヘアースタイルをした兵の一人と、世間話をして警戒心を取った所で、一番聞きたかった事を尋ねる。


「ああ! あんたあイつらの知り合イかイ!?」

「こイつらだろ、通ったさ、そんでオレらがとっつかまえてくれようとシたら、手に手を取り合って逃げチまイやがった!」

「……いや、その絵とはかなり違う感じ……」


ほら、と見せられた手配書は子供が書いたような絵で判りづらいが、ユーリともサクラとも、ましてやオリーヴやグウェンダルには見えなかった。


「奴等を追っているってこたぁ、アレだな? お前さん、女房だか恋人だかを、寝取られたってこったな?」

「寝取られ……」


歯に着せぬ物言いに絶句する。違うだろうとは思うけど、脳裏にサクラが浮かんだ。


「まあ無理もねえ、お前さんもかなりの男前だが、相手の男が悪すギらぁな。 妙に迫力のある魔族だったからな。女もえれー別嬪だった、ありゃーお似合いの二人だったな。 あ、そう言えばもう二人いたな!」

「ああ、偉そーな女の魔族と女みてーな男がいた」

「最初その女みてーな男が手配書のヤツだと思ったンだけどな、男だったから」


妙に迫力のある魔族とはグウェンダルの事で、偉そーな女の魔族と女みてーな男とはオリーヴとユーリの事だろう。

違うと思ったのに、彼等の話を訊いてると、グウェンダル達のことだろうと頬が引き攣りそうだった。


「けどそう遠くまで逃げられねーはずだ。 手鎖でがっチリ固めてやったからな、どっちにもだ! お前さんニゃ悪ィが、先に見つけるのはオレたチ仲間だぜ。 なんせ駆け落ちもんを捕らえりゃ実入リもでかい。 国からたっぷり報奨金が……」


ここまで、この兵達が発言している人物像が似ているとなると…サクラ達は誰かと勘違いされて手鎖されたのだろう。

話が本当ならユーリはオリーヴと手鎖しているはずだ。 ヴォルフラムには言えないないな。きっと俺より発狂するに違いない。





――グウェンダルとサクラが手鎖……あんまりいい気がしない。それに…駆け落ちって……。

コンラートは渡された手配書をグシャっと握りしめた。







[said コンラッドEND]

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