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『また古典的な…』
人がいない所まで出ていざ瞬歩を使って血盟城を目指そうとしたら――…先ほどまでいた街が何やら騒がしい。
気にせず先へと進もうと思ったが、なんなのか気になる。ひょっとしたらユーリがスタツアして来たのかも?と思いもう一度戻ってきたのだが、そこでサクラを待ち受けていたのはラザニアに突っ掛かっている柄の悪い連中だった。
通行人かはたまた見物人かに詳しく事情を伺うと、花売りの女性がリーダー格の男性にぶつかり、それに怒った取り巻き二人がその女性に暴言を吐いているとの事。
そして冒頭に至る。
この場からでは詳しく見えぬので、見物と化した人々をかき分け前へ出る――と…取り巻き二人がラザニアの花を踏み潰していた。
『!』
「何をするのっ!」
「うるせーボスのシャツが汚れたじゃね〜かッ。詫び入れろよ!詫びッ」
「あ、あやまったじゃない!」
「はんっ!言葉だけじゃね〜姉チャン誠意ってもんを見してくれよー」
何処にでもおるのだな、あのような輩は。
「ありゃ〜人売りでないかい?」
「あぁ。あいつら何度か見たことがあるな」
『それは…誠か?』
助けるタイミングを窺っていたら、聞き捨てならぬ会話を耳にし老夫婦に問う。
「ここじゃー話にならねぇ、ついて来な」
「ちょっと!止めてよっ!」
『!?――っおい!謝ってるのだ、許してやれ』
取り巻きの一人がラザニアの手を掴み引きずろうとしている。いよいよヤバくなったと焦って止めに入った。
「なんだー?」
『彼女は謝っておろう、許してやれ。何処かに連れて行く必要もないであろう!』
「それが人様に頼む態度か?」
「ん?おいっ、こいつスッゲー可愛い顔してるぜッ!!」
「おっホントだ。ボスどうします?」
サクラの顔を見るなり取り巻き含む三人は、下品た笑みを浮かべた。
「丁度いい、こいつも連れてけ」
「サクラ…」
「ひゅ〜やりぃ」
ラザニアは誰も助けてくれない中で絶望し、助けに入ったサクラを見て何故か光を見た気がして安堵したが――…自分のせいで彼女も危険な目に合わせてしまうと悔しくて歯噛みした。
そんな彼女に『大丈夫だから』と、子供に言い聞かせるように穏やかにゆっくり言葉を放つ。
ラザニアを背後に隠し、私の手を掴もうとした取り巻きの一人の手を逆にこちらから掴みねじる。
「痛っ!」
『…命は取らぬ』
痛がる男を背中がこちらに向く様に尚も手をねじり、手刀で気絶させる。
「っ!?」
「うッ!」
驚いておる残った手下の最後の一人も腹に蹴りを入れ、くの字に曲がった瞬間、手刀を決めた。
『後は…貴様だけのようだな。貴様にも捕まってもらうぞ!』
カッコよく宣言したら、ボスだと言われておった大柄の男は腰に下げていた剣を抜いた。
陽に照らされてキラリと光る銀の輝きに、私の眉はぴくりと反応した。その反応をどう捉えたのか、目の前の男はにやりとあくどい笑みを浮かべ、
「商品になるからって大人しくしておけば…多少傷が入っても見目がいいから高く売れるな」
っと、己に言った。……笑止千万である。
『…。――私に剣を向けるのか、覚悟は出来ておるのか?』
「はんっ!何の覚悟だよ?お前こそ商品になる覚悟をしておくんだな。おいっ、テメーもだ!」
『貴様は少しなりとも剣を嗜むのなら、覚悟くらい出来ておろう?――斬る斬られる覚悟をだッ!!!』
サクラの十八番“刀”を向けたのだ、ならば一剣士として礼儀を…と思ったのだが、男はまだ懲りずにラザニアに声を荒げた。
湧きあがる怒りをそのままに己の右手に“青龍”を出す。
「っ!?」
いきなり現れた刀に驚きを隠せない男と、周囲の見物人たち。
怒りを目に込めて、じわりと殺気が剣を伝う。男を睨みながら刀を下段に構えた。
『斬れるものなら…貴様から参れっ!その剣は飾りではあるまい?』
その言葉をバカにされたと思い男が剣をサクラ目がけて振り下ろす。その瞬間、背後でラザニアの悲鳴が上げた。
『その程度か?』
その一手をあっさり躱し、まずは様子見だと、男からの攻撃を軽やかに避ける。
「っ!」
『ほれ、こっちだこっち』
「大口っ、叩いたくせに、避けるだけかよっ!」
鼻息荒くゲスは己の帽子を弾き、耳朶に空気を斬る鈍い音が届いた。
「な、なに!?」
その拍子に露わになるサクラの髪――…。
「黒髪っ!?」
『剣の心得も誇りもない貴様を…』
「そんな…」
サクラの髪に驚いている男との距離を一気に詰め、ヤツの手元に一撃を入れた。衝撃で弾き飛ばされた男の剣は私の横の地面に突き刺さった。
―――この程度の輩に、青龍を始解するまでもない。
『……貴様のようなヤツを斬るのは青龍が可哀相だ。誇りもないヤツが剣を持つな!――たわけがッ!!』
「双黒って…じゃあ……」
「あのお姿は――」
「サクラっ!!」
外野の声に交じって私の名を呼んだのは…もう既に聞きなれた彼の声だった。
その声が聞こえたのか聞こえなかったのか定かではないが、サクラに敗北した男は周りを威嚇しながらコンラッドの方向へと逃げて行く。
「ッくそっ!!覚えてろよ」
……最後まで三流なヤツだった…。
『コンラッドっ、その男を捕らえてくれ!』
「!?」
剣を持っているサクラと、いきなり突進してきた男を見て、コンラッドは目を丸くしたが、「捕えろ」との声に瞬時に理解し剣を構える。
「っ!!」
「…」
鋭く刃を向け、数秒で男を倒したコンラッドの姿は多くの人を魅了した。一瞬の静寂ののち黄色い悲鳴や歓声が沸く。
サクラもその内の一人で、頬がほっこり朱く色付いた。
(彼を見て…)
(帰ってきたなどと思ってしまう私を許せるか?――ルキア…)
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