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開けた場所に出ると――…その通りは行き交う人々で溢れていた。道端で物を販売している商人や、外に出て客引きしているパン屋の売り子さん、何処を見ても賑やかだ。
『おぉー』
楽しそうな人々にサクラのテンションも上がる。
ここが何処なのか、兵士がいたら軍服で見分けようと思っていたサクラだったが、当初の目的も忘れて町の様子に目移りさせていた。
「お客さん、このお花いかがですか?」
『ん?』
ゆったりと道を歩んでいたら、花を売っていた赤い髪のショーットカットの女の子に声をかけられた。
色とりどりの――…不思議な花ばかりだ、眞魔国ではこのような鮮やかな花が主流なのだろうか? どれも地球にはない花ばかりだ。
――…ま、まぁ地球の花と比べられる程、花の知識はないのだが…。
コスモスのような、けれど真っ赤な色の花や、アジサイのような、けれど虹色の花。見ているだけで楽しくなる。
『綺麗だな』
「そうでしょう!どれも田舎の母が育てている花なんです」
『へ〜毎日ここで販売をしておるのか?』
彼女の背後にも花はあれど…どれも売れていない様子であったし、ほとんどが萎れている。
「出稼ぎに来てるんですけど…なかなか」
深い溜息と共に彼女は自分の心境を語った。母が体が弱く、自給自足の生活でたまにこうやって出稼ぎに来るのだそうだ。
『そうなのか。…購入したいとは思うのだが……如何せん私は今お金を持っておらぬ、すまぬ』
「えっ」
罪悪感いっぱいに告白するとその女の子は、きょとんとして「そんなこといいんですよっ」っと明るく笑った。
「それよりお金がないって…全くなの?」
『うっ、そうなのだ…』
「貧乏って感じじゃなさそうだけど…財布落としたとか?」
『…そんなとこだ』
正直な話、通貨すら知らぬ。前に眞魔国に来た時は、すべてコンラッドが請け負っていてくれていたし……あ、そうであった!
『あげく迷子なのだが…ここは……その何処なのだ?』
そう尋ねれば女の子に寛大に笑われた。
「あなた迷子なのっ!?その歳でっ?やだ〜おかしっ、ぷっ」
『うっ』
「ふっ、はぁ〜。ゴメンね、笑っちゃって。ここはね、城下町のはずれよ。あっちに行けば血盟城に辿り着くわ。で、反対側に行くとずっと先に国境の近くに出る」
『…なるほど。(ってことは、ここは眞魔国なのだな)』
「あなた、あっ!名前を聞いてなかったわね、私ラザニアって言うの!」
『ラザニア…(美味しそうな名だな) 私は、サクラと言う』
「えっ、サクラって…そう漆黒の姫様と一緒の名前なのね!ステキっ!」
『……。あー…、ありがとう』
「知ってる?その姫様が戻ってらしたんですって! ユーリ陛下と並ばれたお姿を拝見した人たちが興奮してたのっ!麗しいお姿だって! いいなぁ〜私もお二人を見てみたいわっ、そう思わない?」
何とも言えぬ話題で曖昧に笑うが、ラザニアは気にせず更に鼻息を荒くして、サクラ達に会いたいと高らかに宣言している。
『あー…ぁはは、(まさか己がそうだとは言えぬ…) そう言えば…その陛下は血盟城におられるのか?不在だと小耳に挟んだのだが…』
気になっていた疑問を問いかける。ユーリがこの町に現れたのなら話題になるはず。
私みたいに、変装なしに黒髪で飛ばされるはずだし。
「えっ?まさか〜ユーリ陛下はこの国を良くする為に、日々お忙しくしてらっしゃるはずよ!」
それからもラザニアの陛下&姫ラブ会談に拍車がかかった。
「ふふふ、私ユーリ陛下と姫様が御即位されている間に城で働くのが夢なの!メイドになるのが一番なんだけど…血盟城のメイドは花形だから……」
――難しいのよ…
彼女は、深い深い溜息をついて悩ましげに、手を頬にあて微笑した。
「それで?どっちに向かうの?」
『あぁ血盟城の方角に』
「…歩いて?」
『…歩いて』
眉を寄せたラザニアに、至って普通に肯定する。――しかし賑やかな町だ。ここから去ろうともう一度ぐるりとこの光景を眺め感嘆する。
「大丈夫なの?いくらここら辺りが治安良くても、あなた可愛いから襲われたら大変よ?」
『ぷっ、大丈夫だ、私のような輩を襲うやつなどおらぬ』
余計な心配を思わず手を振って笑って答えると、ラザニアは腰に手をやり眉の皺をより深くさせた。
「サクラ…あなた、もしかして自分の容姿がどんなのか自覚していないの?」
『うむ? 己の顔くらい知っておるが…』
何を当たり前の事を…思わずサクラも眉間に皺をよせる。これでグウェンダルが二人出来上がった。THE眉の皺。
ユーリはここにはいないと判った事だし、と、何か言いたそうにしているラザニアに別れを告げてここを後にした。
徒歩で向かうから、夜になる前に着くといいのだけど――…その前に誰か見つけてはくれぬかー。
あー…私は、ユーリみたいに迎えに来るような存在でもないから、最悪誰も来ないかもしれぬ。やはり己で何とかせぬとな。
『瞬歩でも使うか…』
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