23-3



オリーヴ閣下から白鳩便が届き、火事場での捜索は打ち切られたのだと知った。

王城へ戻って行く兵士達を余所に、一つでも手掛かりを見付けたくて、瓦礫を掻き分けて。気付いた時には、自分だけになっていた。

焼け焦げた黒の中に、山吹色がぽつーんと一つだけ。


「クルミッ!」


文には、兄――ロッテが、ウィンコットの毒にやられ、魂の状態になった兄はクマハチのぬいるぐみに入ってるらしいと書かれてあった。

兄の無様な姿を嗤いに戻ろうかと思ったが、姫ボスの手掛かりを一つも見つけてない現状でのこのこと帰れないと思い留まり、未だにここにいた。

そんなランズベリー・クルミの名前を大きな声で叫ぶ人物が現われて。

二十年前は長かったロングヘアーはボブヘアーに変わり、短くなったクリーム色の髪を揺らして、振り返った先にいたのは、


「クルミ!姫ボスが行方不明って、」

「まだ見つからないのか?」


同じ山吹隊のミケとカールだった。

いつもほがらかに笑ってるミケが血相を変えて立っていて、彼に数秒遅れてカールが馬から飛び降りて声を発した。彼等は、昔と容姿は変わらず、短髪のミケに比べて肩まで伸ばしているカールの髪は、ふわりと肩で揺れている。

二人と幼馴染であるクルミは、彼等の顔も見飽きたな…と心の中で呟き、どうせ見るなら姫ボスの笑顔が良かったと一考した。


――あたいと同じく姫ボスが心配なのか。

あたい等兄妹やオリーヴ閣下に比べて、姫ボスを心酔してないようにも見えるこいつ等だが、こいつ等はこいつ等なりに姫ボスを慕っていたから。やはり生死がわからないこの現状ではいてもたってもいられない、か。


「あぁ。ここでの捜索は打ち切りになった」

「そんなっ」


今にも倒れそうな程顔を青くさせたミケを一瞥して。

「だからあたい等だけで動くぞ」と、クルミは言い切った。二人がついてくる前提だ。

オリーヴ閣下といい、姫ボスの御友人赤い悪魔といい――…眞魔国の女性は、男の話を訊かない節がある。と、カールは怠そうに溜息を零したのだった。


「オリーヴ閣下には」


クルミの暴走発言に、ミケは文句ないらしく、閣下に知らせなくていいのかと言い渋る。

カールは茶色の瞳で彼を見遣り、うんざりした様子で、「閣下には言えねぇだろ」と、ぼそりと呟いた。カールの小さな呟くを耳ざとく拾ったクルミが、力強く頷く。


「オリーヴ閣下は、山吹隊の副官としての職務がある。何やら上は、ごたごたしてるようだし?」


混乱を招くのを避けるためか、一般兵士には、詳しい情報は伝わって来ない。

陛下と漆黒の姫が此方へ喚んでもないのに飛ばされて来たと、ただ迎えに行けばいいだけなのに慌てた様子のウェラー卿はフォンクライスト卿と、兄貴の姿に、これは何かあるなと考察して。

オリーヴ閣下と兄貴は、上がごたついている何かを知っている様子だった。

その情報をクルミに教えないのは、そこまで鬼気迫ってないからか、考えているよりももっとヤバイものなのか――クルミの中ではその二択だけしか考えられなくて。

戦争中に嫌というほど感じていたピリッとした空気が閣下達を取り巻いているのを敏感に感じ取り、まさか戦争なんてしねぇよな…と胸をざわつかせたのも記憶に新しい。


「そのごたごたにオリーヴ閣下は身動きが出来ねぇ…王が不在なんだ、フォンヴォルテール卿が動かなければならないだろうからな。それに…兄貴も使い物にならねーみたいなんだ。だからよ、閣下は勝手には動けねーんだよ」


オリーヴ閣下を巻き込もうとすれば、姫ボスを心酔する彼女の事だ、執務を放って人間の国へ乗り出すだろう。

それはダメだ、クルミとしては頼りになるオリーヴ閣下に来て欲しいとは思ってる。けど、山吹隊が勝手な事を組織的にしてしまえば、全員責任を追及される。それでは姫ボスが戻られた際に顔向けできなくなる。


「あたい等だけで姫ボスを見付けんだ。二人はどうする?もちろんついて来るよな」


――表立って部隊では動けねぇなら、個人的に動いてやる。

それならもしもの時でも、山吹隊を解散させられる最悪な事態にはならねぇだろう。そう思考した。

クルミの考えを察したミケとカールは、神妙な顔して頷いてくれた。カールが内心、訊いておきながら自分で勝手に肯定してるじゃねーかとツッコミを入れていたとは露知らず。


「待って。ロッテが使い物にならないって?」

「…ロッテの身に何かあったのか?」


幼馴染の様子を心配している二人の横を通り過ぎ、クルミは自分の馬に跨って。突き刺さる二つの視線に、


「生きてるから、心配すんな。…脱皮しただけだ」


と、完結に答えた。詳しく説明すんの面倒だ。

「だっぴィィ!?」と、声を揃えて驚いている二人を、「行くぞ」と急かした。説明しろとかなんとか言ってるカールの声は無視だ、無視。

余談だが、同じ山吹隊の一員であるカンノーリとナツが別の手段で姫ボスを捜しに行ったとは――…クルミもカールもミケも全く知らなかった。





(手掛かりが何一つねぇから)
(陛下が見付かったカロリアへ行こう)
(一緒に飛ばされてなくても、)
(姫ボスなら陛下を心配して追うだろうから)



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