3-7
ユーリが、自分の根性のなさに落ち込んでいる頃――…サクラは、夢を見ていた。
「たいちょ〜」
『何だー』
「ちょっと隊長っ!仕事して下さいよっ!!」
『うぬぬ!聞こえぬー私は何も訊こえぬー』
「たいちょ〜?…何処に行ったんだ、あの人は…」
『しめしめ、あやつ気付いておらぬな』
「お前…仮にも隊長だろう? こんな所まで遊びに来るなっ!!」
『何を申しておる。今は休憩中だ!断じてサボりではないぞー』
「兄は何を焦っている?」
『……焦ってなど…』
「土方隊長っ!!」
『うぬ?薫?』
「た〜いちょっ、大福食べに行きましょっ♪」
『乱菊!』
「サクラ隊長!」
「土方隊長っ」
「たいちょ〜」
「隊長っ、僕はあなたに何処まででもついて行きます!」
□■□■□■□
『っっ!!!!』
懐かしい夢を見た。久しく流していなかった涙まで流れ出る。
『うぅっ、ふっ』
止めようと思うと余計に涙が止まらなくて――…声を押し殺して必死に堪えた。
『ぐずっ、うっっ、っっ』
どれくらいそうしていただろうか―――……隣の部屋から怒鳴り声が聞こえて、涙が止まる。
溢れて来る涙が止まったら、思考は落ち着いて来て冷静に辺りを見渡す、と――。
『そう言えば…ここは……』
見渡すとどこかの宿の一室らしかった。 外は暗く室内も薄暗い。…――何故、ここに?と思い、記憶をたどると、最後に憶えているのは骨のおぞましい記憶だ。
『気絶したのか…私は』
そう考えている間にも、隣から聞こえてくる怒鳴り声はヒートアップしてきた。
――何だ、なんだ?野次馬根性で隣の壁に耳を澄ませる。
『……』
「だからといって」
『(コンラッドの声だな)』
「お前だってそうだろう? 何人の部下を失った? どれだけの友を奪われた? シュトッフェルなんかに任せずに、ツェリ様がご自分で判断されていたら、ジュリアに…サクラだって失う事はなかったっ」
「ヨザック!!」
『(…私?)』
「……今後、陛下を惑わすような言動があれば、お前をこの任から外すことになる」
「悪いけどウェラー卿、閣下にその権限はないぜ。命令したいなら早く復帰しろ、まさか新王陛下のお守りして、一生を過ごすわけじゃねーだろうな」
「陛下のお許しがいただければ、そうするつもりだよ」
「お前サクラはどうするんだよ?記憶がないからって陛下を優先する気か?」
「…サクラを手放す気はないし、陛下にずっとお仕えしたいと思っている」
どうやら私が気を失っている間に、ヨザックはユーリになにか善くない事をしたみたいだ。それにコンラッドは怒っているらしい。と状況を把握する。
――それよりも…。
『(…二十年前に戦争があったんだったな……)』
二人の会話を脳内で繰り返して、思考する。
二十年前の絶対に私が生きておらぬ時代に、己の名が出てくるのは若干気になるが――…詳しく知るのは怖いな。 知ってしまうと後戻りが出来なくなる。
私は、そっと溜息を吐いて壁から離れた。
『……』
――随分寝ていたのだろうか?夜なのに眠気が来ない。
窓から外に出て空を見上げた。ひんやりとした夜風がサクラの漆黒の髪を撫でる。
この世界の空は綺麗だ、地球では拝めぬ星が見られる。
『なんだっけなーなんか変わった名の星があったような……』
それでなくとも日本での空は夜見ても建物が邪魔して星が見えないのが現状。 こうしてゆっくり星を眺めるなんて…今世では初めてかもしれぬ。
尺魂界の夜空も、それはそれは綺麗だった。
――うぬっ…?
『(あれは…ユーリではないか?)』
闇に蠢く何かを見つけて目を凝らしてみるとユーリがいた。 しっかりした足取りで何処かに向かっておる。
だが、しかし今は夜だ。 ユーリの近くを見ても誰もおらぬので、お供を付けずに出歩いておるらしい。仮にも一国を担う王なのだ、危機感を持ってほしい。
それは、双黒の姫、サクラにも言える事なのだが――……本人は知らない事柄であった。
『(全くしょうがないヤツめ)』
にんまり笑い、その窓から外に降りた。
尺魂界で零を背負っていた頃は、善く隊首室の窓から逃げ…否、遊びに出かけたものだ。
先程、夢を見ておったからか、懐かしい気分になって、サクラはルンルンと窓に足をのせた。
『ふふふ、窓から出かけるのも久々だなー♪ (さて、ユーリは何処にゆくのだ?)』
バレない様に忍び足でユーリをつけて行く。
さらに、その後ろをコンラッドが着けていたなんて事も――……。
「あれは……」
_____これまたサクラは知らなかった。
(抜け出すって)
(わくわくするのだ!!)
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