3-4

[said ユーリ]





目を覚ますと豪華客船の一室ではなく、薄暗く狭い部屋だった。

なんでここにいるのか?とか、ベアトリスはどうなったのか?とか、いろんな疑問で混乱していたらコンラッドが、一から説明してくれた。

曰く、ベアトリスは助かって両親と一緒だとか。それからおれは、例の如く…魔術で賊を排除。……今回の魔術は何やらこの世のものとは思えないほど恐ろしいものだったらしい。で、シマロンの船がやって来て賊を拘束。

人身売買や売れないと判断された人たちは殺される手筈だったらしく、形的に助けたおれたちが拘束されているのは魔族だとバレたから。


「う〜ん…」


魔族と人間の壁は厚い。

人間がおろかだと罵るヴォルフラムに、人間の父親を持つコンラッド。…――複雑だ。

それからミス・上腕二頭筋が実は男性で、護衛でついて来てくれてたのだとか、実はコンラッドの幼馴染だとか。 起きてからいろんな情報を頭に入れ込んだ。

あ、ミスター・上腕二頭筋はグリエ・ヨザックらしい。名乗ってくれた。 ヨザックには、初対面でおれの息子さんを見られていたとか。――ショックな事も発覚!思春期に息子を見られるって、同性でも立ち直れないくらいショックだったんだからな!!





「で、ひとまず理解したけどさー…」

「なんです?」


おれは回想から意識を、護衛兼名付け親であるコンラッドに移した。

ああ、今日も彼の爽やかな笑顔は健在だ。傷心しているおれにとっては眩しい微笑みだ。


「あの綺麗な女性はどちらさん?彼女も魔族だったり?」


いろんな事を理解するのに時間がかかって、訊くのを忘れてた。

この狭い部屋の中に、ヴォルフラム、コンラッド、それから…コンラッドの膝の上で寝ているサクラ。――そして――そのサクラに従うように座っている青年は“青龍”でサクラの斬魄刀だったはず。


――…でっ……その隣には、ツェリ様並に美しい女性が座っていた。

いや、ツェリ様をセクシー系だとするならば…こちらの女性は大和撫子な美人さん。 とても綺麗な女性で。女性に免疫がないおれの顔が沸騰したのが自分でも判った。


「あ、彼女は…」

《初めまして、我は朱雀と申します》

「サクラの刀だそうですよ」

「え?でも…青龍が刀なんじゃ……」


チラッと青龍を見ると我関せずな感じで、答えてくれそうにない。

寡黙そうだとは思っていたけど、こうも綺麗に無視をされると、頬が引き攣る。


《我も斬魄刀ですよ。主は二刀流なのです》


――へ〜二刀流かーサクラってすげぇ〜な。でもなんで今まで出てこなかったんだろう?

ユーリは小首を傾げた。


《それは主が魔力のコントロールが出来なかったからです》


…――わっ、おれ今思ってた事が口に出てた!?

無意味なのに、慌てて口に手を当てる。


「あーなんかそんなこと言ってたっけ…」

《えぇ、それがあなたのお蔭で、抑えられていた主の魔力があふれ出たので我も出てこれるようになったのですよ》

「え?おれ??」

《おぬしが、おぞましい魔術を使ったからだ! おぬしの魔力が、主の魔力を一気に引き出したのだ》

《そうです。あなたのお蔭です、ありがとうございます》

「いえいえ」


会話に青龍も加わり説明してくれる。…さっきは無視してた癖にさー。


「おれの魔術がねー」


――でもおぞましい魔術って…どんなことをしでかしたんだ…おれ……。

青龍と朱雀が交互に説明してくれているのを耳にしながら、おれは遠目で上空を見上げた。その時だった――…。


《何でこんなやつにお礼なんか言うのさ! 全然ありがたくもないねっ!!》


突然、おれを非難する声が聞こえて、びっくりして、声の出どころを探した――ら。


《どこ見てんだよ!バカじゃねーのコイツ!》


サクラの肩に白いヘビがいた。


「!!へっ…ヘビがしゃべった〜!!!?」

《はぁ!?喋っちゃ悪いわけ?アンタ何様ー?》


思わずビックリしたら鼻で笑われました。


――コイツ…ヴォルフラムみたいだ。

おれは我が儘そうな白いヘビを前にして、心の中でそう呟いた。


《こらこら、あんまり苛めてはダメですよ?》

《えーコイツ生意気なんだもーん》

《…主が知ったら怒られるぞ…》

《そうですよ、思っていても決して口に出してはいけません》

《えーだってサクラ起きないし》

《そうだとしてもじゃ、サクラはこの少年を大事にしているみたいじゃから仲善くしときんさい!》

《…サクラが取られる…》


ヘビにこけにされまくりのおれを、朱雀さんはフォローしてくれたんだけど…フォローになっていません!

あれ?なんか爺さんみたいな声が入っていたような……。


「あれ?」

《あ、ワシは白虎じゃ、ひさしゅう》


小首を傾げるおれを横目に、コンラッドは「あ、はい」と、頷いていて。ヴォルフラムは、「お前…あの虎か…」と、言葉をかけていて――二人が、突然現れた虎と知り合いだと知る。…――って!


「……えぇぇぇぇぇ!!!虎!?虎がいるぅぅぅぅう!!!」

《うるせぇな…》


コンラッド達と話している、これまた白い虎も喋れるみたいだ。というか、いつ出て来たんだ…。


「って!!サクラが取られるとか…もしかしなくても君達も刀なのっ?」

《誰がお前に教えるかっ》

「き〜さーまっ!!さっきから黙って訊いていればっ! ボクのユーリにそんな口きくな!!」

《え?なにコレ君のなの?》

「そうだっ!ユーリはボクの婚約者だ!」


おお!おれを庇ってくれてありがとう、ヴォルフラム!!でも君のではないかな…ははは。

それを聞いたヘビはチラリとこちらを見て、そしてまた逸らした。


《…俺様は玄武だ。覚えておけ! お前の紹介はしなくていい》

《あーワシらは刀にはならんが…まぁー斬魄刀のような存在じゃな。 あー詳しく話さんぞ?理解できなさそうな面しておるからのーぅ》

「なんか…おれ、ことあるごとにコイツらに貶されてないか?」

《それは判るのか、はっ》

「…(イラッ)」


流石のおれも、このヘビを絞めたくなった。が、拳に力を入れて堪える。


《白虎、玄武…こやつは主の大事な友人だ、友人!》

《そうです。懸念すべきはウェラー卿です。主に求婚なさいました》

《…》

《…》

《……は?》

《……求婚じゃと?》

《えぇ》


その瞬間、白いヘビこと玄武と…白虎はコンラッドに向かって殺気を出した。

二匹は、またあいつッとかあの小童ッとかブツブツ呟いている。…――また?


「えっと…つまり、おれに突っかかっていたのはサクラを取られるかもって思ってたからで、今はコンラッドに怒っているってことは………ただの嫉妬!!?」


おれの声に戦意喪失したのか、玄武と白虎は眉を寄せたままこちらを見て来た。


「サクラ想いなんだなー」

《当たり前じゃ、ワシらはサクラがいてからこその存在じゃからのぅ》

《ふんっ》

《じゃから……どこぞの小童にはサクラは渡さんわいっ!》

「本気でもですか?」

《…》

《…チッ》

「(コンラッド…本気でサクラの事好きなんだなー)」


――え、……なにこの空気。コンラッドが本気発言したのに、白虎も玄武もシカトだよ!

ひゅるりと身震いしたくなるような肌寒い風が吹き抜けていく。





ん?


「ヴォルフラム…どうしたんだ?」

「いや…それならボクはサクラを姉上と呼ぶべきなのだろうか?」

「はぁ?」


うわっ、真剣に考えているから何かと思えば…確かに悩むべきなんだろうけど、今この場で言うの止めてー!! この状況が見えないのか?ヴォルフラムっっ!!


《まぁまぁ、安心して下さい。我らがいるではございませんか!》

《あぁ》

《玄武も白虎も…我らが、じゃまをゴホっ!…えぇ主から離れませんので大丈夫です》


えぇー!今はっきり邪魔って言ったよー!!黒いっ!朱雀さん一番黒いっ!!

……おれ、コンラッドが怖くてそちらを見れない。進行形で無視され続けているよー! 助けてサクラー!


「…あれ?みんな出てるのに、サクラ起きないね」

《それはお前のせいだろうがっ!》

「え」

《サクラは魔力の使いすぎで倒れたのじゃ。ワシらは具現化するだけなら自由に出てこれるからのーぅ》

《…何日間は主は起きぬであろう》

《ああ渋谷様、お気になさらないで下さい。あなたのお蔭で外に出れるようになれたので、感謝はしています》


うん。でも…なんか責められている気がするよ?


「サクラ大丈夫なの?」

《あぁ、寝ているだけだ》


その言葉にコンラッドは安心したみたいだった。


《あっ!そうそう。あなたの息子さん…主も見てましたよ》


――へ? 主ってサクラだよな…って、息子さん?


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


―――ショック!!

確かに…サクラとこっちで会ったときは…おれ素っ裸にコンラッドの上着を羽織っただけの状態だったけど。――…嘘〜……同い年の…しかも知り合いの女の子に見られていたとか…。


「(……立ち直れるかな…おれ……)」

《玄武、こうやって精神的に揺さぶれば相手にダメージを与えられるのですよ》

《お〜!流石、姐さん!》


なんて、会話は聞こえない、訊こえないよー!あー!このまま寝てしまいたいっ!

絶対、朱雀って女性は、おれの事嫌いでしょ!?おれが魔力を暴走させちゃって、サクラを巻き込んだのが気に入らないんだ、きっと。

ヴォルフラムはまた浮気浮気うるさいし、コンラッドは白虎とサクラの取り合いを(文字通り取り合い。コンラッドがサクラを膝に乗せているから)しているし……。


――誰かこの状況なんとかしてくれー!!!

思わず乾いた笑みを零し、こうして渋谷有利は一夜を過ごしたのであった。







(気絶したままのサクラが羨ましいなんて…)
(思ったけど、内緒)
(下手に口にしたら、朱雀達に攻撃されそうだしね!)




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