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安堵して一息ついていると、うすら寒いものを感じた。
『!!?』
《これは…主、なにか大きな力の揺れを感じる》
『…これは……魔力だな』
力の出どころはやはりユーリで、まるで操られているかのよう。そして…それに答えるかの如く船が揺れる。
「コンラート、こいつ……」
「わかってる。でも俺達にはどうすることもできない」
「……力を持たぬ船に限って襲い、壊し奪うの悪行三昧…正々堂々、勝負もせず、卑怯な手段で押し込めては、か弱き者まで刃で脅しおのれの所有と言いたてる……盗人猛々しいとはこのことであるッ!」
『えっ…誰……アレ…』
「海に生きる誇りもなくした愚か者どもめ! 命を奪うことが本意ではないが、やむをえぬ、おぬしを斬るッ!」
「ボクもあれをやられた」
「手厳しかったな」
口調も立ち振る舞いも変わり、威厳があるユーリになった。だが、あれではもはや別人ではないか?
何処か喋り方がサクラに似ていた。
『あれが魔王たる者か…』
「えぇ、この状態になると手が付けられないんです」
「だが、あの時と今では状況が違う。ここは人間の領域だ、要素に制限があるだろう」
「俺もそれが気掛かりなんだが……」
『どういうことだ?魔力に制限があるのか?』
「魔力とは、本来魂が持っている資質なんです。 自然界と盟約を結び、命令して操ることで魔術が使えるんだ…だけど、ここは人間の地。要素が薄くて魔術は使えないはずなんです」
『だが…ユーリは魔術を使っている…体に負担はかかるのでは……』
「成敗ッ!」
皆の心配を余所にユーリはとどめを差そうとしていた。 ぞぞぞともの凄い地響きと共に――…
『っ!?』
―――この出来事は…のちにサクラの「人生において最も思い出したくない事柄ランキング」一位に輝くのであった……。
(ちなみに第二位は、コンラッドからの求婚の出来事である)
食べかす。そう食べかすが動いているのである。
きっと、いや確実に皆さんが夜会でおいしく頂いたお肉の骨や、魚の小骨、あげく牛の頭の骨までずずずずずっと動き賊を追い詰める。
『ひいっ』
「うわ……こ、こんな悪趣味な魔術は初めてだ……ぎゃーこっちにくる!コンラートくるぞ!?なんとかしろ、なんとかッ」
ヴォルフラムと一緒に悲鳴を上げる。
「動かないでじっとしているんだ。蠍や毒グモをやり過ごす要領で」
「あーっ、のっ、のっ、登ってくる!」
「騒ぐな」
いろんな意味で恐ろしいこの状況で騒がずにはおれまい。―――だってあの骨が集団で刺したり噛んだり、口に骨が入って可哀相な人までいるのだぞっ!
なのに、弟のヘルプを一刀両断したコンラッド。
『もー無理だっ!!!耐えられぬっ!』
体にも骨たちが近づいてくるので、気持ち悪くて仕方がない。 目も開けたくない。ゾンビの如く這い上がって来るのだ、見たくはない。
助けて欲しくて、隣にいたコンラッドの腰にしがみつくサクラ。――普段なら、密着照れるっ!とか悪態つくが今はそれ所ではなかった。それくらい必死。
「っ!」
助けを求める弟には「騒ぐな」の一言で切り捨てたコンラッドだったが―――……震えるサクラが可愛くて、しかも自分にくっつくので嬉しく思い、さり気なく腰に手を回して抱き留めたのであった。
「(役得…)」
力の波動が一気に強くなった瞬間、サクラの体にも異変が起こった。
骨がぞぞぞっと這いずり回っている様に…体の中に大量に熱の塊が足から入ってくる感触がし、それが頭までずるずると這い回った途端サクラの意識は飛んだ。
『(なんだ…)』
《――主っ》
《サクラ!》
《サクラッ!》
―――意識が薄れる瞬間、懐かしい顔ぶれを見た気がした。
(誰、だ…)
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