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「さあそいじゃご婦人方は隣に移ってもらおうかのう! 新しいご主人と出会うまで、わしらの船で働いてもらうけん」


一際目立つセーラー服を身に着けておる頭領がそう言うと、下っ端の賊は女性に近寄って行く。


『(くっ! 人売りかっっ!?ゲスめ!!)』


怒りで飛び出していきそうだったが、ここで動くと誰かが殺されるかもしれぬので動けない。

自然と拳に力が入る。

するとそんなサクラに気づいたのか、コンラッドは私の手を包み込む。 チラッと見ると、穏やかに微笑まれて怒りが沈んだ。


「んー? 特別室のお客さんは、なんか言いたいことがありそうじゃのー?」


そんな声が聞こえユーリに目を向けると、あやつも怒りを覚えているみたいだった。

地球組の私達は…特にユーリは戦争を放棄した戦のない日本で平和に育ったので、この現状は耐えられない。 でも、そんなユーリもコンラッドの気の利いたジェスチャーで、怒りを抑えていた。

流石…コンラッド。この状況でも周りに神経を巡らしている。 いや、こんな状況だからこそ冷静さが必要なのだが。


『(私も見習わなければ…な)』


怒りで我を忘れかけていた。

だが…コンラッドの顔をみたら安心するなど……私は一体どうしたと言うのだ! 緊張したこの状態でそんな疑問が頭の中を支配する。


《……主…しっかりしてくれ。思考がこっち(精神世界)までダダ漏れだ…》

『(なにっ!?ぬおぉぉぉ!!!)――恥ずかしすぎるぞっ!……私!!』


初恋相手を父親にバレてしまった思春期な女の子の恥ずかしい心境――…今まさに私はその心境である!!

自分自身に新たに勝を入れたのだが、思わず口に出していた。

一部始終を目撃していたヨザックが、ニヤニヤしているのがその証拠だ。―――……別の怒りを覚えました。米神がピクりと動く。


『…貴様……後で一発殴らせろ』


ヨザックに向かって握りつぶした拳を見せる。


「こわっ! (隊長といい…姫さんといい……怖すぎる)」



次に頭領が目をつけたのは子供だった。子供は高く売れるからだと。 買い手が好きなように教育出来るからだろう、文句が言えぬ奴隷の様に…。

子供が次々に母親や父親から離されて行く。 泣き叫ぶ声に、恐怖から動けない子供――…見るだけでも辛い光景が尚も続く。


『(ここでもまた私は、無力なのだな…)』

《主…》


目を背けたくなるような光景に、下唇を噛んでやるせない気持ちを押し殺した。


「ババー!」

「ババぁっっ」

「クソババー!!!」

『えっ…』


泣き叫ぶ女の子の声は、助けを求めているはずなのに――言葉は悪口を発していて。私は瞠目した。


《そんなに親と離れたかったのか…?》

『…まさか、そんな……みな、母親が嫌いなのか?売られてしまうというのに??』

《あ、あぁ…?》


半ば独り言の様に、青龍と二人で混乱していたら両サイドから答えが頂けた。


「あれは人間の幼稚語ですよ〜」

「そうです。“愛してる、お母様”と叫んでるんですよ」

『ぬ?……へー…ビックリした…』

《世界とは奥が深いな》


納得して善いのか、異世界の文化の違いにショックを受けて善いのか、はたまた笑って流して善いのか――些か反応に困った。


『……』

《……》


それは青龍も同じであった。

ひんやりと深夜特有の冷たい風が船板に流れる。


「……ちょっと待て、おまえら……」


風に乗って、ユーリの地を這う様な声が聞こえた。 我慢の限界だったらしい。

泣き叫ぶ子供の声や、母親の声で騒がしかったこの場であったが――…ユーリの声はよく通った。


『あやつ…とうとうキレおったな!』

「正義感がお強い方だから」


危ないから大人しくしていて欲しかったが、正義感の強いユーリを鼻が高く思う。

お得意のトルコ行進曲で海賊度面を説教してゆくが、目が黒いのが発覚し賊に連れて行かれるユーリ。


『…ユーリ…、ん?(なにを見てるのだ?)』


危機的状態なのに、ユーリはデッキの端を見ておった。


――その視線の先にはベアトリスが――…、

人影の子供がベアトリスだと視覚から脳に伝わった瞬間に、彼女は賊に海へ投げ飛ばされようとしていた。


『ッ!青龍っ!!! (間に合うか!?)』

《判かっている!》

「ベアトリス!」


ここからあそこまで距離がある。 未だ魔力を使いこなせない私は瞬歩が出来ないが為に、助けに向かっているが間に合うか判らぬ。

ならば、と、賊に取られた何処にいるか分からない自分の刀に叫んだ。

ユーリが一番先にたどり着きベアトリスを掴む。 その背後から見た事がある青年、サクラの刀が具現化した状態でベアトリスを抱えた。

何やらユーリとベアトリスが会話している中、コンラッド、ヴォルフラム、サクラ、そしてヒスクライフがたどり着きベアトリスを助ける事が出来た。


『はぁ…間に合った。ありがとう青龍』

《当然の事をしたまでだ》







(流石、私の頼れる相棒だ!)
(主の為なら何だって出来る)




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