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「実はもう……ここにいらしてます……歴代魔王陛下とそのお身内しか継がれないという眞魔国徽章をお持ちでしたので、お通ししないわけにも……」


「徽章を?」

『…徽章を…』


コンラッドに一瞥された兵士は顔を茹でタコになっていて。 私達は仲良く眉をひそめた。


「なあ、なにそれ。王と身内ってことは、ツェリ様の息子のお前は持ってんの?」

「ぼくは父方の氏だから継いでいない。確か兄上は持っていたはずだ。第七代のフォンジア陛下から、代々フォンヴォルテール家当主に受け継がれているから」

『…そうなの?』

「――ああ」


――グウェンダルの家って格式が高いのだなー…。 まぁ貴族だし、十貴族だから大して驚く事もないが。



「でしたらそのガキ……いえご落胤候補とは、陛下のお子様ではありません! 陛下はあくまで十六歳にはなられていないと、ご自分でお強く否定されるので、未だ魔王陛下の証である徽章の図案さえできていないのですから」

『……』


衝撃から立ち上がったギュンターが、普段なら考えられぬ暴言を吐きそうになりながらも、そう言い放った。

では、誰の子か。

私はチラっとグウェンダル、コンラッド、ヴォルフラムの順に、彼らを見遣った。

魔王陛下の証である徽章えを持った…認知されておらぬ隠し子……そんな事をしてそうな魔王って歴代から考えても限られておるのでは……。


――そう言えば…。


ギュンターの言葉に、一つ疑問が浮上した。



『うぬ?そう言えば…もうすぐだったのではないか、ユーリの誕生日は。 まだ十六にはなっておらぬのか?』

「そうなんだよ…よく知ってるね」

『まぁー夏が似合うヤツだなーって思ってたからな〜…(前々世の時に)――…コンラッドも夏生まれだっただろう?』

「え、えぇ…ホントよく知ってますね」

『あ、うぬぬ…』


意味深に目を細めたコンラッドに、冷や汗が垂れる。善く考えなくとも、知っておったら…怪しむよな。

記憶に覚えが無くとも――…サクラさんの事知らぬ事になっておるし……。



「サクラ様もですよ!サクラ様も自分は十六歳ではないと仰るので……姫様の徽章作りに取り掛かれないのです」

『うぬ?私にもそのような物があるのか?』


会話に入って来たオリーヴは、目を丸くする私に、「はい」と当然の様に返答した。

すると、レタスに袖をちょんちょんと、引っ張られた。


『――どうした?』

「サクラねぇさまは…御誕生いつなの?」

『ああ、私は…』


レタスの素朴な疑問に、室内にいる全員が気になるのか――…私に、全員の視線が集まる。


…――う゛。だから…美形に囲まれると怯むッ!



「確か…十二月でしたよね?」


怯む私に助け船をくれたのは、意外にも婚約者のコンラッドだった。


…――何で知っておるのか、という疑問は…愚問か。


『うぬ、十二月だ。こちらとあちらの流れる時間が違うかな〜…。 同じ時の流れならば十六になっておると言えるのだが…、――残念ながらまだ十六にはなっておらぬ』

「そうそう。おれもー。 こっちとあっちが同じ時間帯だったら…おれ、とっくに歳取ってるよー」

「地球とやらと眞魔国では時間が違うとは…あの、どういう…」

「あー…なんていうか」

『前回、体験した事なんだが…前回私はこちらに十数日滞在しておっただろう? なのにもかかわらず…地球では数分しか経っておらぬかったのだ』


オリーヴの疑問にユーリと顔を合わせて、説明する。

時間軸が違うのか…難しい事は判らぬしなー…とユーリと小首を傾げながら、唸った。


『今回も、数か月経つが……(あっちでは…どうなっておるのだろう)』

「……うん」


こちらに来る前は水族館におったんだよな〜…と結城を思い浮かべて、サクラは顔を曇らせた。

ユーリも、家族を思い浮かべて、二人の間にはしんみりした空気が流れ――…その空気に、慌てた魔族組は顔を見合わせて、話題を変えようとアイコンタクト取っていた。…二人は気づかなかったが。


「あー…ユーリ陛下の御子でないのなら、一体その自称ご落胤は何処の家の章を持っていたの?」

「えっ、それはっ」

「――…あっ、まさかまた新たな兄弟の出現ってわけではなかろうな!?」


オリーヴの気転で、話題が元に戻った所で――…自由恋愛を押しているフェロモンな母親を持つヴォルフラムが、はっとした顔をしたのち……眉間に皺を寄せた。

先程、己もそう考えておった所だったので…ヴォルフラム達三兄弟に憐みの視線を向ける。


――…あの自由な母親を持つと……大変なのだろうな。


グウェンダルも気になっておるのだろう、指が怪しい動きになっておる。――…コンラッドただ一人だけ、相も変わらず涼しげな表情で。

各々性格が表れておるな。


『私的には…そちらの方が面白いのだがな』

「サクラ…」


ボソっと呟いたら、ユーリが耳聡く、口を引き攣らせた。

ヴォルフラムは、興奮で鼻を膨らませて、「どいつが……」と言いながら、兵士を押しのけて、背後にいた“ご落胤”をそのグリーンの瞳に映した。

体をずらした兵士の後ろに立っていた“ご落胤”のお方は――…必然的に、部屋にいた全員の目に映る事となった。……のだが――…。





『――予想外だ』


私の目にも映った人物は――…想像していたよりも小さく、可愛らしい女の子であった。

し〜んと室内が静まり返る。

誰もが予想外であったのだろう。ユーリも、近い位置にいたヴォルフラムも、目を開いたまま、固まっていた。



「待てよ? 十歳だろ? その子、おれが何歳の時の子よ? 十歳だとしたら……おれ六歳だよ!? 六歳っつったら一年生じゃん! 一年生っていや友達百人できるかなだけど、まさか子供はできねぇだろ!? やっぱ違う!やっぱそいつ、おれの子じゃ……」

『ぇ…やはり違うとか、少しは自分の子かもしれぬと疑っておったのか?――って事は、もしやユーリ貴様…いやはや…すでにそのような経験があったとは……』


――人は見かけによらぬな…。と、まじまじユーリを見遣る。

じろじろ見てたら、意味を理解したユーリの顔がみるみる羞恥で赤くなった。


「ちっちが〜うッ!!おれは、おれはっ彼女いない歴=自分の年齢なのッ!」

『……ピーチかッ!』

「〜〜ッ」


「ちちうえぇーっ!」

「ちっ……父上って」


ヴォルフラムがサクラの発言に、ユーリに詰め寄るよりも早く、ご落胤の――…赤茶の髪をしてこんがり焼けた小麦色の肌をした、レタスよりも少し大きいその女の子は――…父上と叫びながら、ユーリに向かって突進してきた。

はた目から見ると感動の再会で。

だけどユーリには本当に見に覚えもない出来事で…困惑している。


私はボケ〜っと女の子を見ていた――…その子供はユーリも見るや否や目を潤ませて、“父”に向かって突進していて。もうすぐユーリに飛びつくってな距離で―――……



私は、女の子の右腕に――…キラっと光る物を見た。


「陛下っ!」

『――ッ』


それが何であるか理解した途端――、すぐに駆け出したコンラッドよりも早く――…私はユーリに抱き着く様にして、女の子からの衝撃から守ろうとした。


「!?――サクラッ!」


「――痛っ」

『ッ!』


サクラが抱き着いた衝撃で、受け止めきれなかったユーリは、サクラが上に跨るように二人で床に転がったわけだが。


ユーリを庇って、女の子が持っているだろう刃物をどうにかしようと振り向いた瞬間―――……、







_____コンラッドが、女の子が持つ刃物を叩き落としてくれた。



庇ってくれたこやつの背中が――…私の目には大きく映った。不思議と、庇われて悔しいとか思わなかった。

時が止まったかのように、室内が静まり返る。








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