君らしく純真なままで 8 | ナノ

二次創作

君らしく純真なままで







 紋章は、ほとんどが集まった。ただ一人、空を省いて。



 ピッコロモンの特別修行をマスターした太一とアグモンは、見違えるほど溌剌としていた。それに伴い、塞ぎ込みだったミミや丈もかなり気力を持ち直したようだ。太一のそう言った照りつけるような不思議な力をヤマトは素直に認めているし、頼りにしているが、面白くないと感じることも間々あった。多分、自分にはない要素だから、嫉妬。だがそれをヤマトは自覚していたし、そして太一のようになりたいと叶わぬ願いを馳せるほど、可愛げのある子供ではない。

 今にして思えば、ミミが太一に影響されて元気を取り戻した、その一点が、注射針を刺されたようにちくりとした痛みを残していたのだ。





 自分たちの味方だと名乗る謎の人物を救出するため、そして空の紋章を手に入れるため、太一と空、光子朗と丈の四人は、逆様になったピラミッド(のようなもの)の中へ向かっていた。光子朗のパソコンへ交信を送って来た人物が何者がわからない上、当然エテモンにも狙われている身なので、危険な探索であった。そのため、体力のないミミとタケルと、その二人を危険から守るためにヤマトは岩場の洞窟で待機していた。

 入り口の付近でガブモンや、パルモン、トコモンと共に見張りを努めるヤマトの後方で、タケルとミミの賑やかな笑い声が響いている。



「へえ、そうなのー、タケルくんもいっちょ前に好きな子とかいるのね!」

「えへへ、恥ずかしいよ、ミミさん!」



 砂漠のど真ん中でさえなければ、あまりに平穏な会話だ。学校で友人たちと繰り広げる他愛もない雑談と、なんら変わりない。こんな状況で、と思う気持ちがなかったではないが、タケルの笑い声を聞いているとそれでも良いかと言う気になってしまう。

 なにより、タケルとミミは仲が良い。最年少のタケルと、一番対等な会話が出来るのが、ミミだけなのだろう。実質ミミが二つ年上なのでお姉さん≠ネのだが、対等な雑談をしつつ先輩風を装っているのが、少し聞いていて愉快だった。耳心地が良かったのだ。



「でも、タケルくん、モテるでしょー? 女の子は怖いから、甘く見ちゃダメよ!」

「甘くなんて見てないよ! 僕、女の子には優しくするって決めてるんだ! 昔パパがね、男の子は女の子を守ってあげなくちゃいけないんだって教えてくれたんだ!」

「いいパパねー、あたしのパパもよく言ってるわ! じゃあタケルくん、あたしのことも守ってくれる?」

「もちろん! ミミさんが悪いデジモンに襲われたら、僕が絶対に助けるよ!」



 思わずヤマトは、小さく吹き出した。微笑ましかったからだ。守ってくれるか、だなんて訊ねるミミもミミだが、タケルのその答えもまた、少年らしくて可愛いではないか。当然、そんなことになったならば、タケルは誰よりも優先的に守らなければいけないのだが。

 見れば、ガブモンやパルモンも微笑ましげに二人の様子を見守っていた。トコモンは一番幼いデジモンなので、長旅に疲れたのか、ガブモンに寄りかかりながらウトウトしているようだった。



「ありがと、頼りにしてるわね! でもね、誰にでも優しくなんてしちゃダメよ、女の子は勘違いしやすいんだから、好きな子だけにうんと優しくしてあげなきゃ」

「えー、そうなのー? じゃあミミさんも、カンチガイしちゃうの?」

「ちっちっちっ、あたしは別よ! あたしはそーゆーのに翻弄されないレディなの!」

「ほんろう? ほんろうってなに?」



 聞き慣れない単語に悩ましげなタケルに、やれやれとヤマトは溜息を吐いた。微笑ましいことには変わりないが、翻弄なんて言葉、小学生の日常生活で使うことなど皆無だろう。とは言え、その意味を知っているヤマトもヤマトなのだが。



「えー、難しくて説明できない」

「えー、気になるよ。ねえ、お兄ちゃん、ほんろうってなに?」

「ヤマトさーん」



 呼ばれてヤマトは、呆れ口調を繕って言った。



「ミミ、変なことタケルに教えるなよな」



 とんでもない、と言うようなミミの不満顔が飛び込んで来る。声を上げて笑いそうになる自分を堪えていると、タケルが実に不思議そうにミミを見上げた。



「変なことなの?」

「変じゃないわよ、全然変じゃない! タケルくんももう少し大人になったらわかるわよ、大した意味じゃないけど」

「ふーん、気になるなー」



 ぱたぱたと足音を立てながら、タケルがヤマトへ近寄って来た。傍らにいたトコモンを抱え上げ、それまで悩ましげだった顔を途端にときめかせると、再びミミの元へ走って行った。



「でも、ミミさんには優しくしてもいいんでしょ? じゃあ、空さんは?」


 天真爛漫とは、本当に、ミミのためにある言葉だと思う。ミミは膝を折ってタケルと目線を合わせながら、満面の笑顔で片目を瞑った。



「もっちろん、空さんもオッケーよ! うんと優しくしてよね!」

「うん、わかった! ミミさんも空さんも、女の子だから、僕たちが守ってあげるね! ね、お兄ちゃん!」



 少し言いよどんでしまった。



「……そうだな」



 頷くと、隣でガブモンが意味ありげな視線を送ってくる。ヤマトはそれに気付かないふりをして、再び、ミミとタケルを見やった。今度はパルモンとトコモンを交えて別の話題に花を咲かせている。

 その輪に入ろうと言う気持ちは、ヤマトにはなかった。今は自分が最年長だ。危険なのは紋章を探しに出掛けた太一たちだけではない。自分たちだって、いつ敵が襲い来るかわからない状況なのだ。エテモンの手下だって彷徨いてるはずだし、なにより、トコモンは進化が出来ない。戦力はガブモンとパルモンのみ。それだけで、多分こちらの方が分が悪い。

 だから、それでいいのだ。どちらにしてもヤマトは、ピラミッドの中に二人を連れて行きたくはなかったし、タケルとミミには、ああして笑っていてほしい。疲れた気持ちに浸透して、気分が紛れる。それに、綺麗でいてほしいのだ。

 そしてヤマトは、最近の心境の変化にここで初めて驚いた。以前までならミミに対して、足手まといだと思うことはあっても、その逆でこうして安全な場所にいてほしいと、その方が安心だと考えたことがあったろうか。来る日も来る日も七人一緒に、同じテリトリーで生活し、共に戦い、何度も助けられ、にも拘わらず苦手だった。苦手なのに、笑っていてくれないと、調子が狂うし心配になる。ミミを眺めていて、気付くと、つり目でキツい印象を与えるヤマトの目元が、緩くなっていることがある。



 けれど、やっぱり、苦手なのだ。





 その後、ピラミッドの一部が爆破されたことを知り、ヤマトはガルルモンとトゲモンを連れ、太一たちの救出に向かった。タケルとミミとトコモンを残すのは躊躇われたが、強く背中を後押ししたのはミミだった。



「つべこべ言わないの! 太一さんたちがピンチなのよ! トゲモンも連れてって、ね、ヤマトさん!」

「お兄ちゃん、ミミさんは僕とトコモンが守るから、心配しないで行って来て!」





 ナノモンと言うデジモンに、空が連れ浚われた。

 自分の不甲斐なさを嘆き、泣きじゃくる太一に掛ける言葉が見つからない。暗黒進化のあの一件から、ようやく持ち直したのに。誰もが口を閉ざし太一を見守る中、ヤマトは不意にミミのことが気になった。悲痛な面持ちで俯くミミの横顔を眺め、タケルを見やり、そして、思った。



 自分が、太一だったら。

 ここで皆の帰りを待っている時、襲われたのが自分たちだったら。

 目の前でタケルが浚われたら。ミミが浚われたら。

 そして助けられなかったら。

 そのナノモンとやらを、殺してしまいたいと思った。デビモンやエテモンにさえ、こんな感情は抱いたことはなかったのだが。もしも、タケルやミミから笑顔を奪うのなら、そんな奴ら、消えてなくなってしまえばいい。泣きじゃくる太一、肩を震わせながら俯くミミとタケル。それを見守る丈と光子朗。仲間を傷つける奴らなんか、消えてしまえ。



 深夜になると、太一もかなり落ち着きを取り戻したようだ。見張りをする太一の様子を見に行くと、燦然と揺らめく焚き火の先、漆黒のずっと先を見据えていた。

 前から思っていたことだが多分、太一は空のことが好きだ。一人の女の子として。それは太一本人にすら恋慕と自覚出来ていない、淡い儚い片思いなのかも知れない。けれど多分、空も、太一のことは好きなはずだ。二人の親密な空間に誤って紛れ込んでしまって、居心地の悪さを覚えたことがこれまでにある。その空が浚われた。太一の目の前で、為すすべもなく浚われた。



「空は俺の名前を呼んで、助けを求めていたのに、俺はなにも出来なかった。なあ、ヤマト、本当はさ、エテモンの囮なんてしてほしくないんだ。情けないけど怖いんだ。みんなを守ってやってくれよ、だって、

タケルや、ミミちゃんにまでなにかあったら、俺……」



 明日は空の救出を太一と光子朗に任せ、ヤマトと丈はエテモンの囮になることになっていた。光子朗の作戦だ。当初、囮にはミミとタケルも入っていたが、あまりにも危険な行為だったので反対意見が出た。言い出したのは太一だったが、ヤマトも異論はなにもなかった。タケルとミミだけでも守りたい。あの二人には、安全な場所で、なににも狙われず、二人で待っていてほしい。

 でなければ、きっと太一が壊れてしまう。そして自分も、正気ではいられなくなる。





 翌朝、作戦を決行する前に、ミミが皆を見渡してこう言った。



「みんなで一緒に、ここに戻って来ましょう!」



 心配して損した、とは言わないが。

 ああ、ミミは、本当に眩しい仲間だ。



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ナノモンの回の話。ここでも三人で待機しているヤマトとミミとタケル。意外と接点普通にあると思います。
タケルとミミが仲良い、と言う設定は、初期の頃、二人でコーラ飲みたいってはしゃいでたあの感じから。可愛くないですか、この二人の組み合わせ。
ここと、みんながばらばらになって行く辺りのくだりも、是非詳しく放送してほしかったなと思います。妄想だけなんて悲しいですやん。
でもこんな風に、タケルとミミがはしゃいでたら萌えるなー、なんて。

この辺りとか、本当に空さんヒロインしてましたよね。ピコデビモンのとかもそうですが。光が丘では太一さんに肩抱かれて守られてましたしね。なのに! 何故! 何故ヤマトなんだ制作者!
終盤で闇に囚われた空を、ヤマトと丈で救ったかも知れないけど、実際空を救ったのは思い出の中の太一さんって言う訳の分からない展開、やっぱり許せんが仕方ない!

仕方ないが、ヤマトと空をくっつけたことによって子供たちの人間関係にあらゆる亀裂が産まれたのは想像に苦しくないと言うか、空さんの株下げましたよね、本当に空さん大好きなのにやめてほしかった。
だって絶対に空、ヒカリとの間に亀裂入りましたもん。絶対。ヒカリは太一がお兄ちゃん以上の気持ちで大好きなのに、空との仲を応援してたのよね。太一が許せても、あのヒカリは許せないと思うわ、ヤマトも空もどっちも。だからダゴモンの海に呼ばれたんじゃないの。
タケルも兄ちゃんマジサイテーとか思ってそうだしなー。

ただその想像を生かして、これは書いて行こうと思います。毒舌すみませんでした!


2013/11/24

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