君らしく純真なままで 7 | ナノ

二次創作

君らしく純真なままで







 あたし、アメリカに行くことになったの。





 小学校の卒業式の日、校舎の中庭で一人、ヤマトはベンチに寄りかかって感慨深げに曇り空を見上げていた。六年間を過ごしたその場所に思い入れがないはずもなく、そこはかとない感傷に浸っていたのだ。教室では未だにクラスメイトたちが思い出話に花を咲かせていたが、ヤマトはその輪に入ることを拒んだ。弱いところは、あまり人には見せたくない。冒険の頃はそれなりによく泣いたが、本来ヤマトは人に涙を見せれるタイプではない。一人で感傷に浸りながら、一人で寂しがりたかった。それでも、人の温もりに触れることを、心のどこかでは望んでいたのだ。それが、自分、石田ヤマトと言う人間。



「みんな心配してますよ」



 そんな折り、ひょっこりと、顔を出したのがミミだった。ベンチの後ろから覗き込むように、逆さまにヤマトの視界に躍り出た彼女は、花のように優しく微笑していた。不覚にも一瞬、どきりとしてしまったのは内緒だ。一学年下の彼女は見送る側として卒業式に参加していたが、とっくに帰宅しているはずだった。

 驚くヤマトに声を響かせて笑いながら、ミミは隣に腰を落ち着かせた。



「太一さんや空さんと一緒に、光子朗くんもね、まだ教室に残ってるのよ。丈先輩もいるの。ヒカリちゃんも、それに、タケルくんも。ヤマトさんだけがいないって、あたし、心配になって、探しちゃった。

卒業式なんてイベント、ヤマトさん、一人になりたがるって知ってたけど」



 小首を傾げて微笑するミミは、見たことがないくらいに、穏やかな瞳をしていた。いつから彼女は、こんなにも大人びた表情をするようになったのだろう。喜怒哀楽が激しくて、目まぐるしくころころ変わる表情が昔は不思議だった。見ていて飽きないと思ったこともあったが、それが悩みの種でもあった。でも、あの戦いの果てに繋がれた彼らの絆は。彼女と言う人となりを理解した、今は。



「一人になりたかったけど、ミミなら、いいか」



 純真の紋章を受け継ぐ彼女ならば。素顔さえも、素直な気持ちで受け止めてくれる彼女ならば。小さなプライドなんてひどく無意味に思えた。

 かつてはあれほどの憤りを覚えたのに、今はむしろ心地良いのは何故だろう。彼女が隣にいて、彼女を眺めていて、こんなにも心温まるのは何故だろう。自然と頬が緩むのは、何故だろう。

 不意に、ヤマトを微睡みが襲った。小鳥のような、甘いミミの囀りに耳をすませながら、ふわふわとした意識の中でヤマトはその言葉を聞いたのだ。



「みんなにはまだ内緒だけど、ヤマトさんにだけ、先に報告していいかしら。あたしね、四月からお引っ越しすることになったの。車でも電車でも行けないような、遠いとこ。異国の世界の、遠い遠い、海の向こう。あの頃みたいに、みんながいない。太一さんも空さんも光子朗くんも丈先輩も、タケルくんもヒカリちゃんも、パルモンも、……ヤマトさんも、誰も。

あたし、アメリカに行くことになったの」





 ああ、その晩、バカみたいに泣けて来たのは何故だろう。学校を卒業したから? ガブモンを思い出したから? これからも流れ行く時の中に、彼女がいないから? 多分、その全てだった。





   * * *



「あ、やだ、あたしったら、これじゃ嫌味みたい」



 慌てて取り繕ったように手を振り誤魔化すミミに、ヤマトは心から申し訳ない気持ちで頭を下げた。



「行けなくてごめん」

「いいんです、ライブだったって聞いたし。ただ、来てほしかったなって、素直に言いたかっただけなの、それだけ」



 それでミミは、考え込むように視線を斜めに寄せて、小首を傾げた。柔らかな彼女の頭が一瞬肩に触れたことに、ヤマトは内心飛び上がった。いつだってミミからは、懐かしい甘い香りがする。アメリカに行くのだと告げられたあの時も、いや、それよりもずっと以前から。



「いつからあたし、こんな遠回しな言い方するようになったのかしら。アメリカでは、何事もはっきりと相手に伝えるのが美徳なの。そこでずっと生活してたのに、変なの」

 再び、ヤマトを見上げるようにして、覗き込んだ。

「純真の紋章の持ち主が、聞いて呆れちゃいますね」




「それを言ったら、俺だって」

 そして胸を押さえた。今はもうない、かつて紋章が刻まれていた、その場所を。

「友情の紋章が、聞いて呆れるよな、仲間の帰国祝いにも参加しないなんて」



「離れていても、みんなの心は一つって」

 それを言ったのは、誰だったか。思い出せないけれど、懐かしいフレーズだった。

「難しい。あの時みたいに、無垢な子供のままじゃないもの、みんな、大人になっちゃった。でも、離れてても心は通じてるかなって」



 仲間と離れ、一人遠い土地で時を過ごした彼女だからこそ、感じることも多かっただろう。元々、誰よりも感受性豊かな少女だ。当たり前のことを当たり前に出来ない大人が多い中で、至極当然のように人を、デジモンを、全ての生き物を大切に慈しむことのできる、暖かな少女だ。



「だから、ヤマトさんの友情、本当は感じてました、あたし」

 桜のように可憐に微笑む少女は。ヤマトの仲間の、太刀川ミミと言う少女は、こんなにも真っ白で美しくて、時折畏怖すら覚えるほどに、綺麗だ。

「ワガママ言って困らせてみたくなっただけ、どうしていなかったのって、言ったらヤマトさん、どうするのかなって」



「それ、ちゃんと気付いてたよ。ミミの素直な気持ち」





 分解されたデータの世界で、みんなの心が一つになったあの瞬間。なにもかも解き放たれたような心強さと、明日への希望と光、勇気、友情、愛情、知識、誠実、そして、純真。

 一人の紋章はみんなのために、みんなの紋章は、一人のために。



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ここまで来たら完全にヤマミミやんけーーーww
本当にヤマミミのつもりで書いてるわけじゃないのですうう段々萌えてきちゃってますが。
カップリングとかにハマる方って、こーゆー風に書き始めて徐々にハマって行くのだろうなと最近感じます。

最後のフレーズはリアルタイムで見てたときめちゃめちゃテンション上がりましたよね?
私の中の光は、みんなの光! 僕の希望は、みんなの希望! そして進化ですよひゃっほおおおお! お前の思い通りにはならないぞって太一さんイケメンすぎいいいいい!!!

失礼しました。次は冒険の話にタイムスリップ。


2013/11/24

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