君らしく純真なままで 6 | ナノ

二次創作

君らしく純真なままで







「なんでって、それはカブテリモンから今度はなにに進化するか、見たいからじゃないですか」

「俺は、……俺はもっと自分を磨きたい」





 あのピッピ、ピッピうるさいやつ、ピッコロモンの住処に着いたヤマトたちは修業とは名ばかりの(少なくともヤマトはそう思った)屋敷の掃除をこなした後、特別メニューをあてがわれた太一たちの身を案じながら就寝していた。

 修業はそれなりにきつかったが、楽しそうに床の雑巾掛けを競うタケルとトコモンを見ていたら、不満に思うのも馬鹿らしくなった。割とまともな食事も出来たし、久々に風呂にも入れた。空とミミは嬉しそうにはしゃいでいた。ここのところ元気のなかったミミだが、久々に心から嬉しそうに笑っていたので少し安心したのだ。太一もそうだが、いつも元気なやつが落ち込んでいると、気になって調子が狂う。

 夜になっても、太一とアグモンは帰って来なかった。





 眠れずにいたヤマトと光子朗の二人は、タグの反応に導かれて紋章を探しに歩いていた。ピッコロモンの結界の中であればエテモンに見つかることもないだろうと、ガブモンとテントモンは寝かしておいた。長旅と修業で疲れてることを思うと、起こすのは躊躇われたのだ。



「怖くないのか? 光子朗は」



 タグの反応は大きくなっているのに、中々見つからない。ヤマトが光子朗に問うたのは、例の暗黒進化のことだ。



「そうですね、怖くないと言えば、嘘だと思います。太一さんや、ミミさんを見ていると、不安になりますよ、僕だって」



 コタトリモンの船から降りたあと紋章を手に入れたミミは、あれから輪を掛けたように元気がなくなってしまった。それまでは太一を元気付けたり、まだ気丈であったのだが。光子朗もそれは気付いたのだろう。ゲンナイの言葉で言う正しい育て方≠巡って、不安を抱えるのは太一やミミだけではない。丈もかなり気にしていた。──僕も全然、少しも自信がない、自信ゼロパーセント……。

 空にしてもそうだ。太一を激励叱咤するのは彼女の役目とは言え、あんな太一を見ていたら不安も募るだろう。タケルは、エンジェモンのことがあるので、ある意味傷口を抉られる状況だったに違いない。

 それに比べると、光子朗はかなり情緒が安定しているように思えた。ヤマトのようにクールぶって取り繕っているわけではない、誰よりも頭の回転が早くて冷静な、正真正銘クールな少年。ヤマトは少し、この少年のことも苦手だった。太一にはかなり懐いているのに、自分にはそうでもないところとか。思うに自分は、年下の相手が苦手なんじゃないだろうか。ある意味、ミミは変わり者だと思うが、光子朗はその上を行っていると言っても過言ではなかった。どう考えたってヤマトたち五年生より、或いは六年生の勤勉な丈よりも、聡明で恐ろしく頭が切れる。

 それでもミミと比べてまだ接しやすいのは、光子朗の人間関係において不器用な点に、ヤマトが勝手に共感を抱いているからかも知れない。だからヤマトがこう言うのは、決して皮肉ではなかった。



「それでも好奇心には、勝てないってことか」

「ええ。ヤマトさんだって、不安を乗り越えても、強くなりたいのでしょう?」

「そうだな」

 ヤマトは素直に頷いた。

「だが、先走ると太一とアグモンの二の舞になるかも知れない」



 光子朗がタグを見下ろす。暗黒進化のことを思い出したのかも知れない。暫し考えるように眉を顰め、顔を上げた。



「……思うんですけどね。正しい育て方、とゲンナイさんは言っていましたが」

「ああ」

「そもそも僕たちは、テントモンたちを育てているわけじゃない」



 その言葉にヤマトもタグを胸の前で握り締め、力強く頷いた。



「そうだな。育てるんじゃない、共に、成長して行くんだ」

「ええ、そう思います」

 そして、遠くを見るみたいに、少し目を細める。

「考えてみると、ただのサマーキャンプのつもりで家を出ましたが、とても貴重な経験をさせて貰ってるんですよね、僕ら」



「光子朗は、なんでキャンプに参加しようと思ったんだ?」



 ヤマトは頭の裏で両手を組みながら、ふと思い立って問いかけた。コンピューターに精通し、何事もデータで納得する彼が、サマーキャンプなどと言うアウトドアな行事に進んで参加したことが意外だった。これほどパソコンが好きなのだから、自分と同じで団体行動には不向きだろうし、敬遠していると思っていたからだ。



「太一さんに誘われたんですよ。サッカークラブで、太一さんと空さんとは面識がありましたから」

「サッカークラブ? 光子朗が?」



 光子朗がヤマトをちらりと一瞥する。



「意外ですよね」

「あ、いや」

 罰が悪くなりヤマトは話題を移そうと思案して、不意に思い立って彼女の名前を口にした。

「確か光子朗は、ミミとも同じクラスだったか」



「ええ、まあ、あまり話したことはありませんでしたが」

「そうなのか?」

「はい。ミミさんは」



 冒険中はそれなりに仲睦まじげな二人の普段の様子を意外に思ったヤマトに、彼はこう続けた。



「あんな感じの方ですから、お互い、必要最低限しか関わったことがなかったと言うか」

「……ミミの方は関わろうとしてたんじゃないか?」

「そうですね、僕にと言うより、彼女は誰にでもそうでしたが」



 黒目勝ちの穏やかな、それでいて鋭ささえ感じる丸い瞳が、ヤマトを真っ直ぐ見つめた。



「そう言うところ、少し太一さんと似てるかも知れませんね」

「……そうかも知れないな」



 丈も同じことを言っていたのを思い出す。プレッシャーに弱い丈にしても、明るいが遠慮し勝ちな空にしても、幼いのに輪を乱すことを嫌うタケルにしても、ヤマトにしても、そしてこの大人しい光子朗にしても、みな、なにかしらの影の部分が時折姿を見せる。

 その中で、太一とミミは異色だった。悩み事などないような、自信に満ち溢れた二人の姿勢。誰に対しても分け隔てなく、天性的な太陽のような明るさに人はいつしか魅了され、心を許してしまうのだ。強いて言えば、太一の方が無鉄砲で論理的。ミミはもっと、共感性があって感情的だ。

 ヤマトは少し顎に指を添え、遠くを見るように誤魔化しながら問いかけた。



「ミミは学校でもあんな感じなのか」

「ええ。ちなみに、ワガママなのも周知の事実ですよ。男性から言わせると、それもいいらしいんですが」



 ほどほどのワガママは可愛いとはよく言ったものだ。果たしてミミのあれが、ほどほど≠ノ該当するのかは、さておき。



「でも、さすがのミミさんもヤマトさんに対しては、少し遠慮勝ちのようですね」

 ぎくりとなってヤマトは一瞬、肩の動きを止めた。

「なにかあったんですか?」



 深い意味のない、無垢な問いではあった。けれどヤマトは、責められたような厳しさを勝手に肌で感じた。あったと言えばあったのだ。あのファイル島での唐突なミミの問いだとか、それに対するヤマトの対応だとか。一方的に自分が、苦手意識を抱えていることだとか。

 答えられないヤマトを肯定と受け取ったのか、光子朗は途端にやや慌てたように視線を泳がせた。そして少し俯いた。



「すみません、土足で踏み荒らすような真似を……話して頂かなくても平気ですから」



「いや、いいんだ」

 ちらりと光子朗を見やり、申し訳なくなってヤマトも目を伏せた。

「たぶん、俺が駄目なんだ」

 顔を上げ、樹海の先を見つめた。



「苦手なんだ、俺」

「……ミミさんですか?」

「ああ。だが、そんな自分が嫌になる」



 言ってから、ヤマトは改めて光子朗に向き直る。黒い頓着な光子朗の瞳と、ヤマトの深いブルーの瞳がかち合う。



「話の流れとは言え、探りを入れるようなことをして、すまなかった」

「いえ。僕の方こそ、お役に立てるようなことをお話し出来なくて」



 軽く頭を下げる光子朗にヤマトは少し笑んで、首を振った。



「いや、十分だ」





 あの時の会話で、ミミを軽い女だと軽蔑した自分が、確かに存在したのだ。ミミの人となりがどうとか、そんなことはヤマトには到底理解にも及ばないことだし、ミミの本質≠探ることだって不必要だと心に蓋を閉めていた。頭でっかちなのは他でもない自分だ。こうだと思ったことを曲げることが、ヤマトには出来ない。それでもそんな自分が好きではないから、疑問を抱くし嫌になる。けれど、あの時のヤマトにはそれが真実だったのだ。

 それでも。

 あの時、ミミはヤマトの心の中に種を蒔いたのだ。いや、それより以前なのか。どう転んでも相容れる性質ではないヤマトとミミ。だからこそいつしか、苦手だと言う意識がむしろ気になるようになった。ヤマトですら気付かない、潜在意識の奥の奥で、彼は彼女を観察していたのだ。



 それは、つまり。





 ヤマトさんって、あたしのこと、どう思います?





 苦手だ。でも嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、好きじゃない。仲間だと認めているけど、なにかが認められない。

 けれど、どうでも良い存在なんかじゃない。



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日が空くと前に書いてた話を忘れるってゆうw
ヤマトが心変わりして行く様を書きたいのですが、難しいです。

この話では、このあとヤマトと光子朗は紋章を手に入れます。そしてエテモンに見つかりますw
朝方まで二人は散策してたと記憶しています。で、復活した太一さんたちに助けられるんだったか。

やたらヤマトがミミ苦手ってのはマイ設定ではありますが、まあ苦手だろうなーと思いませんか。あまりにも違いすぎます、この二人。
でも実際、苦手だからこそ意識するってよくあること。この二人は、お互い足りない部分を補えるんじゃないのかなあ。ヤマトが見た目に反して根暗なので、ミミみたいな見た目も中身も溌剌なタイプは眩しいんじゃないかと。反発し合うからこそ、なんか個人的には萌えます。書いてて萌えてきました。

ところでプロットの時はこの話考えてなかったのですよ。光子朗の出番が少なすぎたので急遽作成した話であります。光子朗のキャラが壊れてそうで心配。
光子朗、だいっすきなのですが、書くの難しいですね。


2013/11/23

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