み
中へ入ってみると、気のよさそうな初老の定員が「いらっしゃい」と人のよさそうな笑みを浮かべる。
店の中はいたってシンプルで、煌びやかな装飾がされているわけではない。だが、所狭しと並べられた様々な服が店の中に鮮やかな色どりを与えていた。
そして、リベラはというと店に入ってそうそう服を手に取り始めていた。なんともまぁ早い行動にテレシオは半ばあきれるが、それもリベラの嬉しそうな顔を見ればすぐに納得できた。
サムライとして生み出されようと少女は少女。人並みには着飾りたいだろうし、何より今までそれを許されていなかったということもあるのだろう。
うんと可愛らしい服を買ってやりたい。だが、これから向かうのは戦場なのだ。あまり動きの制限されるようなものは買ってやれない。
さて、どうするべきかとテレシオが頭を悩ませていると、リベラに服を裾を引かれる。
自分より幾分か低い位置にある顔がこちらを見上げて目を輝かせている。
「何か、気に入ったのがあった?」
そう問えば、さらに瞳を輝かせて首をブンブンと縦に振る。そして、リベラは手に持っていた服をテレシオの目の前に持ち上げて見せる。
「それじゃ、それを買っていこうか」
嬉しそうにうなずくリベラを見ながらテレシオは思う。あぁやはり、器は違えど魂は変えられないのだと。かつて幼馴染だった少女は好んで薄紫色の服を身に着けていた。「母様の目の色と同じだから」だそうだ。今はもういない母親の忘れ形見である少女の美しいすみれ色の瞳。少女はその瞳を誇りに思っていたし、その瞳の色と同じ色の服を好んでいた。
薄紫色の服を嬉しそうに抱きしめているリベラに、幼馴染のリベラの姿が重なる。
こんなにも似通っているのに、やはりリベラはリベラではないのだろうか。何故あの科学者が、己の作りだしたサムライにリベラの名をつけたのかはわからない。皮肉のつもりだろうか。
途端に膨れ上がってきたどす黒い感情を、目の前にいるリベラに悟られぬように押しとどめる。
たとえこの少女がどんなにリベラと似通っていても
かつて過ごしたリベラが
戻ってくることはもうないのだと
そう必死に、自分に言い聞かせて
苦しみの果てに見える――――残酷なまでの真実
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