何
扉の中の部屋に入ると、まだ幼さの残る少女がこちらを不思議そうに見つめているのが目に入る。そして、その脇に目をやると酷く痩せ細った男が窪んだ眼でこちらを見ていた。
どちらも逆光のため顔はよく見えないがシルエットだけははっきりと捉えることができる。
「テレシオ殿、こちらがティズモ殿になります」
「初めまして。レヴァトゥーラ女王陛下直属オステ討伐部隊一番隊隊長テレシオと申します」
一礼すると、ティズモはくつくつと喉の奥から絞り出すような笑い声をあげると、枯れ枝のような手をテレシオに差し出した。
一瞬後に握手を求められているのだと気づき、慌ててその手を取ったテレシオは見た目以上のその手の細さに驚愕するが必死で平静を装った。
「これが私の最高傑作、かつてニホンに存在したサムライ。名をリベラと言います」
「…あ、はい宜しくお願いします」
酷く誇らしげに語るティズモにうすら寒いものを感じながらもテレシオは笑顔を必死に貼り付ける。
「リベラ、これからお前はオステへと向かう。わかったな」
「えぇ」
「……っ!」
少女の声があまりにもリベラのものと酷似していたので、テレシオは息をのむ。もちろん、この少女はリベラの魂をもとにして作られているのだ。
似ていても不思議はない。
そして、テレシオはあらぬ希望を抱いてしまう。もしかしたら、リベラはサムライという体に魂を移し替えられただけで、生きているのではないか。
「リベラ……さん、ですね。宜しくお願いします」
テレシオが、ゆっくりとリベラに手を差し伸べる。本当は、すぐにでも抱きしめてしまいたかった。だが、違うのだ。彼女はリベラの魂を持ったサムライのリベラである、自分とずっとともにいた少女ではないのだから。
少女が、少々戸惑いながらもテレシオの手を取る。
「宜しくお願いします」
リベラは、思った。テレシオの手を取った瞬間、何故かとても温かい気持ちになった。何なのだろうか、これは。しばらく記憶の糸を手繰り寄せてみると、ふと思い当たる節がある。
「あの、もしかして森で笛を吹いてた人?」
いきなりのリベラの言葉に、テレシオは目を見開くが、ゆっくりと頷く。
すると、リベラは心底嬉しそうに微笑んだ。
「私、地上に出て初めて聞いたのがあの笛の音だったんです」
――――私ね、笛の音きいたのティオのがはじめて!!
リベラの魂の入ったサムライの少女。かつての、共に過ごした少女を思い出さずにはいられなかった。
疑問は何を意味するのか――――無意識に浮上する想い
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