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ブロロロロ…と今では珍しすぎるエンジン音を響かせて一台の車が町中の小さな宿屋の前に停車する。
今、車と言えばエンジンなど使わないものが主流となっているのでエンジンの搭載されている車は博物館などに行かなければお目にかかることができない。
いきなり町に現れたその車に町人たちは興味津々で早くも遠巻きに人だかりができていた。
これでは、公にしたくないも何もないのではないかとテレシオは頭を抱えるが、案内人と思われる男に促されて外に出る。
すると、先ほどまで窓ガラスごしに見えていたやじ馬たちはさっと建物に身を隠す。姿を隠したところで自分にはある程度の気配が分かるため意味はないのだが。
「テレシオ殿、こちらになります」
物腰の柔らかい、古風な貴族に使える執事を思わせる老人は恭しく一礼しながら宿屋の扉を開ける。
自分はただ単に軍部の人間であるだけなのだから、この様な扱いを受けるいわれはないのだが。居心地が悪くて仕方がない。
車の中でもその旨を伝えたが、仕事ですのでと言われてしまっては強制するわけにもいかず今に至るのだ。
「テレシオ殿?いかがなされましたか?」
「いえ、何でも」
危ない危ない。物思いにふけるのは、何も今でなくてもいいだろう。
それに、この扉の先にはリベラがいるのだ。再会を待ちわびた、リベラが。
テレシオはゆっくり足を踏み出した。
闇は光ある故に――――君は闇?光?
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