面倒事は大嫌いで


任務を終え、ヴァリアーに戻る。いつもの様にブーツの音を響かせながらアジトの中を歩いていると、ふと大きな叫び声が耳朶を打った。

面倒事は御免だが、今放っておいて後で何か言われるのはもっと御免だ。仕方なくその叫びの方へ足を進めていると、だんだん叫んでいる者の言葉が認識できるようになってくる。



「どうしてくれるんだ!!!我々は、協定を結びに来たのだぞ!?それなのに……!!!」



聞いたことの無い男の声。そして、その男のとはまた別の女の声が聞こえる。女の方の声は何やら痛みにもがいているような声だった。



「責任は取ってもらうぞ!!!お前らが、お前が娘の腕を!!!」



ガチャリ。扉が目の前にあったので思わず開けてしまっていた。タイミングの悪いことに全員の視線がこちらに集中する。

ラピスはばつの悪そうな表情をするも、諦めて何があったんだと問いかけた。

すると、いつの間にやら近くに来ていたフランがこう答える。



「実はですねーあの女が勝手に来て勝手に左腕持って行かれましてー困ってるんですよー」

「は?」



フランの要約しすぎた説明にラピスは思わず魔の抜けた声を出してしまうが、代わりにスクアーロが口を開いた。



事のあらましはこうだ。

ボンゴレの同盟ファミリーであるレガットファミリーの一人娘であるリアンが美形揃いであるというヴァリアーに女が入隊したと言う噂を聞いて、ならば自分もと押しかけてきたらしい。

そして、頑なに拒み続けるスクアーロ。近くで傍観しているその他の幹部。XANXUSは機嫌が悪くなることが目に見えていたのだ初めから自室にいたらしい。

リアンがヴァリアーに入れろと叫び、彼女の父親もそれに同意する。それを断っていたスクアーロだが、遂に我慢がならなくなったのか、ならば入隊試験を受けてみろと適当な隊員と殺し合いをさせたのだった。

まぁ、いくら下っ端の隊員といえど、リアンが勝つことなどできる筈もなく、戦闘の最中に左腕を失ってしまったのだ。しかも、暴走した自分自身の炎で。



何ともはた迷惑な話だと思ったが、ラピスは自分が任務に出ている間に急展開すぎるだろうと半ば不謹慎なことを考えていた。



「でもまぁ、普通の殺し屋とかなら全然問題ないんだけど、何分同盟ファミリーの娘さんでしょ?さすがにちょっとヤバいんじゃないのって話してたのよねぇ〜〜…左腕を治すことは、私にもできないし…」



ルッスーリアの視線の先には、包帯でぐるぐる巻きにされた左腕のあった場所。痛々しいそれは常人ならば命を失っているだろう。それがなかったのは、ルッスーリアが晴れの炎ですぐに止血を行ったからだった。



「どうしてくれるんだ!!!娘は、娘は!!!腕がなくなってしまったんだぞ!?」



尚もわめきたてるレガットファミリーボス、ロギムにヴァリアー幹部の疲労の色はますます深くなる。

ラピスも一つため息をついた。



「腕、治ればいいんですね?」



その場にいた全員が息をのむ。ロギムに至っては完全に思考が止まってしまったようだ。

全員が言葉を発することがない中、ラピスは一人、リアンに近づく。

もう、腕を失ったことのショックで言葉を発することさえできなくなってしまったリアンは、光の無い瞳でラピスを見つめていた。

ラピスは、リアンの左肩に自らの左腕を乗せる。そして、晴れの炎≠放出した。

淡い黄色の光がリアンの左肩をそして、腕があった部分を包んでいく。









「セレーノ」

ラピスがその言葉を口にした途端、リアンの腕を包んでいた黄色の炎が一瞬眩い閃光を放ち次の瞬間には消え失せる。

そして、目がくらむのが収まったころにはリアンの腕は、元通りになっていた。



「な、に…嘘……」



自分に何が起こったのか分からずにいるのかリアンはぱくぱくと口を開いている。それは彼女の父親にも言えることで、情けないほどに驚愕した表情を浮かべながら、慌てて娘のもとに駆け寄った。

そして、そこに腕があることを確認すると二人で逃げるようにして、ヴァリアーのアジトを後にした。



「……何でしょうか」



自分に向けられる視線の意味は分かっている。でも、どうしようもなく居心地が悪くなって、思わず問いかけた。すると、スクアーロがずかずかとこちらに歩み寄ってくる。

そして、ラピスの左手と右手に視線を走らせた後、顔を上げる。



「どういうことだぁ…」



幾らかの驚愕と、幾らかの疑いを含んだその声に動じることなくラピスはしれっと答える。



「治ったんだから、いいんじゃないですか?」

「そういう問題じゃねぇだろう!!ルッスーリアでさえ治せない傷をなぜおまえが治せる!!!」

「あれは傷というレベルのものではないと思うんですけど…」



的外れな答えをするラピスにスクアーロはますます眉間のしわを深くする。すると、ラピスは何やら眉根を寄せてため息をついた後ぽつりとつぶやいた。



「炎には、境地が存在します」



もう、話してしまおうと思った。もちろん、炎のことだけだが。



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