残酷な笑顔で見送る



ラピスの瞳に宿るのは、幾つもの死線を乗り越えてきた者の闇。見惚れてしまうような微笑みでさえも、この状況ではただただ彼女の恐ろしさを増大させるばかり。

そして、ラピスはもう一度同じ言葉を繰り返す。今度は、幾分か声を低くして。

すると、残っていた者たちはひっと息をのみがたがたと震えだす。




「は、話す!話すから、命だけは…っ!」


「じゃあ早く話して」




相手の言葉を遮りぴしゃりと告げると、相手もぶんぶんと首を縦に振りながら、ゆっくりと話し始めた。




「あ、亞愁様は………このファミリーのボスで…なぜか、いつもある一人の人物を殺すことに躍起になっていた」




男は、あいまいに言葉を濁すが、言うまでもない。ある人物というのはラピスのことだろう。

ラピスは、それを聞いてピクリと眉を動かしたが刺して動じる様子も見せず男に話を続けさせた。




「そ、それで…自分の体を改造して、自分の心臓を貫かれた時相手に特殊な電磁波を送り込むような仕掛けをしたんだ………」




最初は、ファミリーの者たちは全員その行動を訝しんでいた。わざわざ自分の身を滅ぼすようなことをしなくとも、その仕掛けで直接攻撃してしまえばいいのではないかと。

だが、それも彼方此方から流れてくる紅雪の噂を聞いているとそうもいっていられない。たった一人でミルフィオーレの軍勢を圧倒するその力。並大抵のもの出はかなわないだろうし、だからこそボスが、亞愁が先ず初めに動きを止めてしまおうというのにも納得がいった。

そして、彼女にこの攻撃を当てられるのは彼女が最も気を抜く時ではなければならないと。

だから、亞愁は己の身を滅ぼしてまでその身に機械を仕込んだ。そして、ラピスにわざと%|されたのだ。




「……普通、そういう役目は下っ端がやるもんだと思うけど」




自分の命を狙われていたのにもかかわらずラピスがぽつりと呟くと、男は一瞬驚いたような顔をしながらも、駄目なんだといった。




「下っ端を倒したくらいじゃ、お前は気を抜かない。倒されるのはそれなりの力を持つものでないと」




それには、亞愁様じゃなければいけなかったんだ。と男は言う。




「ふーん。ま、なんでもいいけどね。もう一つだけ教えてくれる?」




もう、逃がしてもらえるものだと思っていた男は目を見開くが、ラピスに逆らえばただでは済まない。無言で首肯する。




「なんでさ、私を殺そうとしたの?」




男は、暫く戸惑うようなそぶりを見せるが、何か思い当たることがあったのかある一つの言葉を口にした。




「≪時の流れに逆らうものは、排除しなければならない≫と言っていました…」




その言葉に、ラピスが肩を震わせる。目を見開いて、頭の中をさまざまなものが駆け巡る。

だが、それも一瞬のこと。次の瞬間にはいつもの様に笑みをたたえて、男を見据える。




「じゃ、じゃあ…オレはこれで……」




男たちが立ち上がり、そそくさとその場を後にしようとするが、頬のすぐそばを一陣の風が吹き抜ける。

次の瞬間には、地面がすぐ目の前にまで迫っていた。




「な、ぜ………」


「ファミリーを潰してこい≠チて言われたんだよね」



だから、と言って彼女は笑う。男の意識は、もうすでに其処に無かった。




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