語る真実は最小限に




「境地…?」



そう言って、首をかしげたのはフラン。その場にいる全員が、訝しげにラピスが言葉を続けるのを待つ。

自分たちが、どうやってもラピスとその身から放出する炎に関する情報は手に入れられなかった。ヴァリアー、しいてはボンゴレの情報収集能力をもってして、噂の片鱗すら掴めないというのは今までにありえないことだった。



「炎の境地とは文字通りの意味です。ただ、この境地には常人には超越できない」



暗に、自分が常人とは違うのだと告げるラピスの声はヴァリアーの面々は自分たちに対する皮肉と捉えたようで眉をしかめた。



「この境地は、己の命を核として炎を放出することで初めて超えることのできる壁。普通の人間ならまず自分の命を核とするなんて芸当できませんし、しようともしません」



現に、アルコバレーノ辺りはこの芸当ができる筈ですよ。とラピスが付け加えると、皆、目を見開いた。



「それじゃあ、なんで紅雪サンは境地を超えられたんですかー?」



いつもの気の抜けるような声でフランが訪ねると、ラピスはわずかに迷う素振りを見せたが私は、人より寿命が長いですから。と答えた。


真実≠話すわけにはいかないのだから。



「ちょっと待て、それでリングなしで炎を放出できる理由はわかった。だが、さっきのあれはなんだ」



スクアーロがあれ≠ニいうのは、先ほどリアンの腕を治したことだろう。いや、正確には違うが。



「あれは、晴れの炎の境地。再生です。元々そこに在ったものならば、何でも再生することができます。」



そう言って、手の平の上に淡く輝く黄色い炎を出して見せる。そして、ラピスが軽く指を動かすと、空中に晴れの炎が「再生」という文字を作り上げた。

一同が唖然としてその様子を食い入るように見つめる中、ラピスはさらに新たな炎を出して文字を宙に浮かべていく。



「大空は、融合。万物と融合することでその物体の内側から破壊します」

橙色の炎が文字を描く。その光景はあまりにも美しく、神々しささえ感じさせた。



「嵐は、消去。その名の通り。この世のもの全てを消し去ることができる」

誰も、口を開かない。否、あまりのことに口をきけずにいる。



「雨は、停止。この炎に包まれて、私が合図をすればその物体のすべての運動は停止します。」

つらつらと述べられていくその性質は、どれも普通の死ぬ気の炎を凌駕するもの。



「雲は、本質的な性質は変わりません。ですが、普通の炎と違って万物を増殖させることができます。後、増殖スピードも普通の炎に比べれば桁違いですかね。」

まぁ、∞増殖とでも言っておきましょうか。と言ってラピスがまた宙に紫色の炎を浮かべる。



「雷は、軟化。雷の炎は特別で、境地に達すると今までの性質と全く逆の性質をあらわしたんです。ま、普通の硬化もできますけどね」

その場にいる全員が、固唾を呑んでラピスの話に聞き入っている。いつもなら、これだけ部下が長話を続けたら怒り狂っているであろうスクアーロでさえも。ベルとフランもいつもの殺し合いを始めることなくラピスの話に耳を傾けている。



「そして、霧は具現。霧の炎をまとわせた幻術は実態を持つものとなります。まぁ、簡単に言うと常に有幻覚を作っているような感じですね」

最後に、藍色の炎で具現と言う文字を空中に浮かび上がらせるとラピスは振り向いて、首をかしげる。



「これで、よろしいですか?」

誰もが、頷くほか無かった。この後ラピスは全く同じことをもう一度XANXUSの前で披露することになるのだが。

この時から、両者の距離は徐々に縮まりつつあったのかもしれない。

だが、安息と呼べるほどの生活を送るにはミルフィオーレという敵はあまりにも強大すぎた。

戦いはもうすぐそこまで迫ってきている。安堵している暇はない。

だが、ラピスは遂に三度目の安息と呼ばれるものを手にしたのであった。



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