奥底に眠る優しさ



敵ファミリーのアジトに着き、あたりを見回すと自然と顔が強張るのが分かる。

無駄に大きな、城を思わせる建物。

城という点では、ヴァリアーのアジトも大差ないと思うかもしれないが、此処は別格だ。

まず、敷地面積が異様に大きい。人の気配があちらこちらに感じられる。

建物の終りは見えないが、おそらく数千mはあるのではないだろうか。

しかも、建物の中から漏れ出す煌びやかな光。

お前たちは貴族にでもなったつもりかと毒を吐きたくなるのも、この様子では致し方ない事だろう。




「…って。集中集中」




任務中に、何を考えているのだ。とラピスは自分の頬を一度ぺちんと叩くと、黄金の刀を握りしめる。


【鬼殺し】


それが、この刀につけられた異名。はるか昔に鍛えられた刀なので本当の名前は誰も知らない。

だが、鬼さえも殺めるであろうと言われるその鋭い刃に皆、畏れに似通った何かを感じるという。



その鬼殺しの剣を扱うラピスもまた、畏れられる存在なのであろうが。





抜身の刃を持ったラピスの姿は、どこか嬉しそうだった。ラピス自身、見止めたくないのだが、自分はどこかに戦いを楽しむ様な癖があるらしい。


……自分の奥底に眠る何か≠ェそうさせている。そうするしかなくなるようにしている。

ラピスは狂気に溺れる自分が大嫌いだった。

でも、それ以上に……















目の前に迫ってきた敵を、容赦なく切りつける。援軍を呼んでいるのだろう。無線で頻繁にやり取りをしている。ラピスは、また一人、また一人と敵をねじ伏せていく。

炎の力は使わなかった。


何故?


それは、胸の奥底で何か≠ェうずくのを感じたから。炎の力を使えば、目覚めてしまうだろうと思ったから。


だから、剣術だけで相手を地面に倒れ伏せさせる。

その姿は、さながら冬に舞い降りてくる雪の様で。紅に染まる雪は、さらにその身を赤く染め上げていく。




「一体、何人いるんだよ…」




幾度となく刀を振るい、敵を倒しても次から次へと湧いて出てくる。

ラピスが、また刀を振り下ろそうとする。が、その男はラピスが、男の体を切り裂くよりも早く、赤いものを吐き出した。

そして、男の腹から突き出ている異様な形をした刃。刃にその身を貫かれた男は、ゆるゆると後ろを振り向く。表情を見ずとも、後ろを見た瞬間男がひどく狼狽えたのが分かった。




「な…ぜ、亞…しゅ、さま……」




声にならない声で言った男の体から、刃が一気に引き抜かれる。呻き声を上げることもなく地面に倒れ伏したその体。そして、先ほどまで男に突き刺さっていた刃を持ち、こちらを見る男。

一目で、只者ではないと思った。まぁ、あくまでも人間≠ゥら見た場合の見解だが。

おそらく、幹部…もしくはボスか。どちらにしろ、このファミリーの中で少なからず重宝されている人物だということはわかる。

何故って、先ほどまで死を待つ羊の様に脅えていた雑魚たちが、一気にその瞳に生気を宿したからだ。そして、口々に「亞愁様」と呟いている。それはまるで、神を崇拝するように。




「アシュウ・・・?それがあなたの名前?」


「あぁそうだ。初めましてだな。紅雪」


「そうね。さよなら」




そういって、刃を亞愁の右肩に食い込ませる。赤い血しぶきをだす右肩をちらりと一瞥すると、亞愁はさも愉快そうに笑った。




「何、笑ってる」




いささか不機嫌になったラピスは、さらに刀に力を込めて、そのまま亞愁を切り裂かんとする。だが、突然刃が赤い炎に包まれる。

瞬時にそれが嵐の炎だと悟ったラピスは、刀を分解されてはたまらないと後ろへ飛びずさる。

本当は、雨の炎で嵐の炎を防いでもよかったのだが、今は死ぬ気の炎を使う気にはなれなかった。




「……本気出すか」




早く、終わらせよう。そう思って、刀を再度握る。明らかに今までは違う光をたたえたラピスの瞳を見て、亞愁は知らぬ間に、身震いした。















それ以上に、仲間≠ニか友達≠ニかを守れない自分が嫌い。



[ 29/64 ]

[] []
[mokuji]
back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -