闇はすべてを見通す


決してこれは、信頼と呼べるような代物ではないのかもしれないが、彼らが私を信じはじめ、私が彼らを信じはじめたのは、この出来事がきっかけだった。

















「任務だ」


XANXUSに呼び出され、何を言われるかと思ったら、任務を任せられるらしい。だが、私の脳裏に一つの疑問が浮かび上がる。


「今は、ミルフィオーレへの対応が大変なんじゃないんですか?」


直接どうとは言わないが、暗に「今は任務など行っている場合ではないだろう」と告げる。だが、XANXUSは表情一つ変えない。



「期間は、明日から一週間。ファミリーを一つ潰してこい」



そうやら、端からこちらの意見など聞くつもりがないらしい。理不尽なことだ。と内心ラピスはため息をつきつつも、分かりましたと了承の意を示す。


XANXUSの部屋を出て、自室へ向かう途中ラピスは、自分の中で何か≠ェうずくのを感じた。



「……暴れるなよ。お前が、出てくるまでもないだろう」



呟かれたそれは、独り言と捉えるには、少し無理のある言葉だった。左胸を抑え、その部分をぎゅっと強く握りしめる。まるで、そこに何かがいるように。



――――結局、こうなるわけだ。



響いた声は、呆れたようにつぶやいた。呆れと失望とがないまぜになった声音で淡々と告げるその声は、まぎれもない私自身の中に宿る闇。


――――だから忠告してやったのにさ。君も馬鹿だよね


こうなることはわかってるんだから、最初から求めなければいいんだよ。と声は言う。

裏切りには慣れている。いや、自分には裏切ってくれるようなものはいないかと自嘲気味につぶやけば、また闇はため息をついた。


――――そうやって無意識のうちに依存するもの増やしてさ、やめた方がいいよそういうの。これ以上君の中で僕が占める率が上がったら、僕が君のこと乗っ取っちゃうから。


前みたいに、さ。とおかしそうに笑う闇にラピスは唇をかむ。

そんなラピスの様子を知ってか知らずか闇はいつもよりいやに饒舌に話し続けた。


――――でもさ、正直言って面倒なんだよね。君がふらふら迷ってるの視るのも楽しいし。もうちょっと僕は傍観者で居たいんだ。だからさ、傷つくのはもうちょっと後にしてもらわないと。



そういって、嗤い闇はまた姿をくらませる。抑えていた胸もいつの間にやら平常通りに戻っていた。






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