決別と始まり
そういったら、赤ん坊が無言で銃の引き金を引く。
パンと乾いた音を立てて、冷たい弾丸が私に向かって飛んでくる。
距離は、かなり近い。
避ける事はできないだろう。
でも。
すっと右手を前に出す。
不思議なほどに体が動く。体の奥底に染みついた戦いの記憶が私を突き動かしているのだろう。
それに、人間から見たら長い間戦場から離れていたことになるのだろうけど私にとってはほんの瞬き一つの間のようなもの。
前に出した右手から、薄い膜が張られる。
キンと言う音と共に、膜に阻まれた銃弾が地面へと落ちる。
「何か、私、このままだと殺されそうだから応急処置だけしておくね」
左手を、再び男の顔の上にかざす。
淡い光が放たれた左手に近い部分から、徐々に傷がふさがっていく。
しばらくそうしていたラピスは頃合いを見計らって左手を引っ込めた。
続いて、右手も。
そして、静かに立ち上がると、男に言う。
「終わりと始まりを見極めな。あんたはまだ始まってさえいないんだから」
その瞳は、まるで懐かしい物を見ているようで。
かつて、倒れ伏す男と酷似した容姿をしている男に告げた言葉と同じ言葉を告げる。それは、願い。裏社会の秩序はこういう非情なものによって守られている。
情を捨てるだけの強さと、絶対的な力。その二つを持ってしてやっと秩序が守れるんだ。この男は、それを持っている。それを確信しているからこそラピスは告げた。
そんな復讐心にかられた瞳をして、何になるのだと。お前はまだ始まっていない。復讐はすべて奪われた人間のすること、お前にはまだ早い。
その言葉が伝わったのかどうかはわからない。
だけど、願わずにはいられなかった。この力が近いうちに花開くことを。
そんなことを考えつつも、ラピスは一つ息をついてツナの方へ向き直りその名を呼ぶ。
「今まで、ありがと。・・・・・・バイバイ」
それは、決別の言葉であり同時に始まりの言葉でもあった。
ラピスはもうラピスとしてツナの前に姿を現すことはないだろう。次に会うときは、己の使命を果たすべき時か。しかし、それも来ないに越したことはない。
自分は守るのだから。
ボンゴレが危機に瀕した時自分はそれを防ぐ使命がある。それを果たすためならば命を捨てることさえいとわない。
なぜなら、それが自分の存在意義だから。
そう、理由づけて納得しようとしてみてもラピスとして過ごした暖かすぎるほどの日々が消えるはずもない。
無意識のうちに目から、熱いものがあふれ出す。
ツナ達が、それを涙だと認識した時には、もうすでにラピスはその場から消えていた。
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