30
時は少しさかのぼり、雲雀恭弥君は、楓の家の前で固まっておりました。
「………」
傍から見れば、物憂げな様子で家を見つめる姿はさぞ美しい事でしょう。でも皆さん、外見に惑わされたら痛い目にあいますよ。こんな見た目ですけど考えてることアホですよ。
「(…大丈夫かな?心配だったからヒバードに様子見に行かせてたけど…しかも、馬鹿は風邪ひかないって迷信だったんだな。後で草壁咬み殺しとこう)」
はい、このように(今日の夕飯何かなぁ〜焼き鳥かなぁ〜〜だったら、ヒバードも仲間に入れてあげなくちゃなぁ〜〜)とアホなことを考えているのであります。
「僕、そんなこと考えてない。というか出てきたら?」
「チッばれてたか」
全く、赤ん坊にナレーションを任せるとろくなことにならないね。…仕方ない。ここからは僕が説明するよ。
「何が仕方ないだ。しかもナレーションとか言うんじゃねェよ」
「赤ん坊、ちょっと黙ってて」
僕は今、楓の家の前にいる。なぜかって、そりゃ彼女が今日学校を休んだから。
しかも、その連絡の電話を受け取ったのが僕じゃなくて草壁だったから。ここ重要だからもう一回言おうか。
電話を受け取ったのが僕じゃなくて草壁だったから。
というわけで、ヒバードを偵察に出している。
「入らねぇのか?」
「…どうして?」
「入りたそうな顔してるぞ」
何を言ってるんだ。僕が楓を心配?
いやいや、だって風邪くらいでそんなに苦しむようには見えないし。というか、楓が風邪ひいたって今まで聞いたことないな。
「あら?貴方確か…」
そういって、家から出てきたのは楓の母親。
「えっと……楓の上司さんだったかしら?」
「まぁそんなところだ…です。」
言いかけて、この前敬語を使わないで殴られたのを思い出す。不意打ちとはいえあれは痛かった。
そこらのチンピラなんか目じゃないくらい痛かった。
「良かったらあがって行って!面白いものが見れるわよ!しかもレア!」
「は?」
「ふふふ…いいからいいから!私が買い物から戻ってくるまで楓の看病お願いね♪」
じゃあねぇ〜と音符を周りに散らしながら買い物に出かけて行った。…僕にどうしろと?
「看病しろって言ってたじゃねェか」
…仕方なく、僕は楓の家に足を踏み入れた。
飲み物を持って、階段を上がり楓の部屋に足を踏み入れると、いきなり「おう、悪いな」と片手を上げて行った楓。
いきなりのことに驚いて僕が唖然としていると、「どうしたんだよ雲雀!いつもの元気がないぞ!!」と僕の背中をバシバシはたいてくる。
…どこぞのたちの悪いおっさんか。
「ほら、これ飲んで」
楓に、生姜湯を渡す。ちなみにこれ、作ったの僕じゃないから。この子の母親だから。台所に入ったら、なぜかものすごく目立つところに「これを楓に渡してね」と置手紙と一緒に置いてあった。
何をたくらんでいるあの母親…
「ん〜〜何これ〜〜」
渡したカップの中身を覗き込んでみたり、においをかいだりしながら問いかけてくる。
「生姜湯」
「正月〜〜バッカ!雲雀、お前気が早いなぁ〜〜そんなにお年玉が欲しいのかぁ〜〜」
まぁ、お決まりのパターンだけどね。
薄々何かしらめんどくさいこと言うだろうな〜とは思ってたけどね。
どうしてだろう。いつもよりも数倍うざいんだけど。
「違うよ馬鹿」
「墓〜〜〜?楓ちゃんはまだ死んでませんよぉ〜〜正義は必ず勝つから!!某金髪緑目さんしかり。某麦わら帽子さんしかり。某黒ずくめの男さんしかり」
つらつらと、思い当たる限りに正義の味方なるものを並べていく楓。待て待て待て。最後のは違うだろう。
思いっきり敵じゃないか。主人公を小さくした張本人たちだろうが。
「黒ずくめの男は敵でしょ。悪でしょ」
「残念でした〜〜私の言った黒ずくめさんは某税金泥棒さんたちですぅ〜〜お酒集団の人たちじゃないですぅ〜」
というか、分かる人にしかわからないネタをやめろ。
ガツンと楓の頭を殴ろうとして手を止める。
そういえば、こいつ風邪ひいてるんだった。
「あれ?いいんちょさん殴らないの?めっずらし〜〜!どったの!お腹でも痛いの?ハッハッハッハ!馬鹿は風邪ひかないって嘘だったんだぁ〜〜〜〜!!」
………どうやら、楓は風邪をひくと頭のねじが十本ほど抜け落ちてしまうらしい。
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