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「つまり君は兄たちに影響されて軽く不良になったと」
「違います。私は平凡な一般市民代表です」
あれから、約1時間。えぇえぇ。ずっと説明していましたとも。
小さい頃から年の離れた兄貴たちが、一緒にチャンバラやろうぜ!!って言ってなぜか殴り合いを初めてそれをチャンバラだと思い込んでいた時期もあった。
そして、その殴り合いに参加するうちにいつの間にか強くなっちゃってたぜ!!
っていう、平和な物語だよ。
え?平和じゃない?えー普通に平和じゃーん!
「じゃああの時は!…いやなんでもない」
「あの時?」
「なんでもない。忘れて」
「え、ちょっと待ってください!あの時ってどのときですか!」
なんでもないと言いながら、私を振り払うような仕草をする委員長。なんだなんだ!もんのすごく気になるじゃないか!
なんですか!どの時ですか!二人の友情を夕日に誓ったあの時ですか!
最後のセリフを言ったらすぐさま「そんなことしてない」って真顔で言われてちょっと傷ついたけども。
でも、ほかの言葉については知らんぷりを決め込む。
「いいじゃないですか!」
「やだ」
「恭弥君。意地を張ってないで楓お姉さんに話して御覧なさい」
冗談のつもりでそう言うと、委員長がピクリと反応する。
え?何々?
どこに反応したわけ!?
「……君はどうせ覚えてないよ」
「そんなの言ってみなきゃわからないじゃないですか。言ってください。てか言え」
「ワォ生意気だね」
そういう委員長は、残念ながらいつもの調子を取り戻してしまったようです。
でも、少し迷うようなそぶりを見せた後、いつになく真剣な目をして言いました。
「…嫌われるかと思った」
「は?」
「喧嘩してる僕は真っ黒なおじちゃんたちと同じなんでしょ」
え、あの委員長が真っ黒なおじちゃんて。似合わな過ぎる。
いや、そうじゃなくて。
……そういえば、言ったような。言わなかったような。
「僕が群れてる草食動物たちにイラついて咬み殺してから君のとこに行ったら…」
と、そこで言葉を切って俯く。
あ、と思ったら鮮明に思い出されるその時の様子。
そして、次に浮かべたのは苦笑。
委員長は何笑ってるのってにらんできたけど、今はそれ以上にうれしかった。
「すいません、委員長。あれ、ただの勘違いです」
にへらと笑って言うと、委員長はますます怪訝そうな顔をする。
どういうことって、表情で訴えかけられて私は答える。
「あの時の私、黒い服着てる=あいつらの仲間っていう方程式のもと善人と悪人の区別をしていたもので。その時疑ってたんですよ委員長。もしかして薬の実験台に自ら名乗りを上げて不老不死を手に入れようとしたあいつらの仲間なんじゃないかって」
「なにその無駄に壮大な設定は」
「そんでもって、委員長が喧嘩して血みどろで帰ってくるもんだからこりゃ間違いないなって思ってかまかけてみたんですよ!!我ながら勇気あふれる行動ですね!!」
そういうと、委員長の顔は見る見るうちに安心したような表情に変わっていき、その次は見る見るうちに怒ったような表情に…あれ?
「じゃあ何?僕が今まで悩んできたのは君の馬鹿な思い付きってこと?」
額に怒りマークを数えきれないほど浮かべた委員長の顔が引きつってる。
「委員長、怒らないでください。若気の至りです」
「それ、意味わかって使ってる?」
「全然」
ガン。
あー殴られたー今日もまたグーでいつものように…
ん?
そういえば、と不意に浮かんだ疑問がある。
「委員長」
「何?」
まだご立腹の委員長に構わず私は続ける。
「委員長って私を殴るとき、絶対トンファー使いませんよね?」
何でです?
と首をかしげると、委員長がブンとものすごい音がしそうな勢いで後ろを向いた。
…首大丈夫ですかー
じゃなくて、「いいんちょー?」と言いながら顔を覗き込もうとするも、その前に背中を向けられてしまって顔が全然見えない。
でも
「あ」
委員長の耳が真っ赤になってて、思わず私は微笑んだ。(ニヤけたわけじゃない。決して)
ちょっと自分だけは特別なんじゃないかって調子に乗って思ってみたり。
今日は、委員長のデレが拝めた珍しい日でした。何かいいことがありそうです。
…もう夕日がバイバイしようとしてるのは気にしちゃいけないよ。
ともかく、その日私は委員長に手を引っ張られて家まで送ってもらいました。
結局見回りなんてしなかったけど、結構いい一日だったと思います。
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